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今週の全米アルバムチャート事情 #91- 2021/8/7付

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東京都の一日あたりの新規コロナ感染者数が5,000人を超え、東京都の陽性率が20%を超える中、先週末はそうした不安な状況を一瞬忘れさせたオリンピックの男子ゴルフでの熱い戦い松山選手は残念だったけど、史上初の7人による銅メダルプレイオフもシビレた。何よりも金を取ったのが日本にもゆかりのある、松山の盟友、ザンダー・シャウフレだったのも嬉しかったな。
さて今週もお送りする「全米アルバムチャート事情!」、連動ポッドキャストも今週は金曜日になんとか配信できたのでここからどうぞ!

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さて今週は8/7付のBillboard 200全米アルバムチャートですが、今週の1位、先週の予想通りザ・キッドLAROIが取ったは取ったんですが、先週言ってた初のフルアルバム『F**k Love 3: Over You』としてではなく、チャート上の扱いとしては、1年以上前の昨年7月にリリースされたデビューミックステープ『F**k Love』のデラックス・バージョンってことになったようで(先週リリース・スケジュールとかを見た時はそんなことはどこにも書いてなかったんですがねえ)。その関係でちょうど1年前に8位に初登場していた『F**k Love』が今週53週目にして先週26位→1位に急上昇して、初の1位をマークしたというわけ(85,000ポイント、実売2,000枚)。

実はこのアルバム再上昇するのは今回が2回目で、この記事の熱心な読者なら覚えていると思うけど、去年の11月、オリジナルの『F**k Love』リリースから3ヶ月後にオリジナル15曲に7曲加えたデラックス・バージョン『F**k Love (Savage)』をリリース、この時はスマッシュ・ヒット「So Done」(2020年59位)やあのマイリー・サイラスがフィーチャーされたリミックスで火がつく前の「Without You」(今年8位)が収録されたこともあってその前の週の81位→3位という凄い再上昇を記録。だから今回が再上昇は2回目なんです。しかも今回の『Over You』はつい先々週Hot 100の3位に初登場したジャスティン・ビーバーをフィーチャーした「Stay」を含む7曲を追加してリリースされ、そのわずか4日後(つまり今回の同一集計対象期間中)『F**k Love3+: Over You』という更に6曲追加した3つめのデラックス・バージョンをドロップするという強力というか、エグいというかマーケティングを展開。全く一枚で何度美味しいアルバムだよって感じで。こりゃあ1位になりますわ。

もう一つ。そのステージネームの語源でもある、オーストラリアの原住民族カミラロイ族の血を引くこのザ・キッドLAROI、まだ若干17歳にして楽曲スタイルがこの2年間でどんどん変わってるんですよね。さっきもう一度最初ジュースWRLDに見出されていっしょにやった「Go!」(2020年52位)から「So Done」「Without You」そして今回の「Stay」と聴いてみたんですが、エモ・トラップ→2010年代っぽいレゲエリズムのオルタナ・ポップ(マジック!の「Rude」的な?)→90年代っぽいアコースティック・オルタナ・ロック風→そして今回は今っぽいエレクトロ・ポップとまあよくこんだけいろいろやるなあと感心するばかり。でも今時のティーンエイジャーの才能あるアーティストって一つのジャンルだけにこだわるって感じじゃないのかもな、と聴いてて思ったもんです。そしてどのスタイルでも共通しているのは、年に似合わないちょっと達観したようなリリックとしなやかさ。この間トラップからパンクにシフトしたマシンガン・ケリーといい、今後はこんなアーティストがどんどん増えていくのかも知れません

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それ以外のトップ10の話題というと、先週65位初登場で紹介したESTジーの『Bigger Than Life Or Death』が今週7位に急上昇したのと、テイラーの『Folklore』が今更の56位→9位のトップ10返り咲きESTジーの方は、先週のリリースが対象集計期間の初日(金曜日)ではなくて翌水曜日で、2日分だけの集計で65位に入ってきていたので、今週は一週間フルのポイントが加算されてガーンと上がってきたというのが理由でした。こいつ、こんなに人気あったんだなあ。そしてテイラーの方は、従来テイラーのサイトとUS小売チェーン大手のターゲットでしか買えなかったヴァイナルLPがその他のチャネルでも買えるようになったことによるもののようです。自分が買ったのはターゲット・バージョンでした

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そして今週は1位が初登場でなかったこともあり、先々週に続いて今年8回目のトップ10内初登場なしとなり、とうとうここ5年で最多だった2020年に並んじゃいました。どうしましょう、今年まだあと20週あるんですけど(てか、もう今年あと20週か!)この分だと記録更新は間違いなさそうですね。
ということで今週のトップ10圏外100位までの初登場ご紹介ですが、今週は5枚。順番に行きましょう。まず12位と結構上に入ってきたな、と思うのはアラバマ州出身の今年27歳のラッパー、ヤング・ブルー(本名:ジェレミー・ビドル)の初フルアルバム『Moon Boy』。彼、この間までHot 100ドレイクをフィーチャーしたちょっと叙情的なフローとメロディが耳に残る「You’re Mines Still」が18位に昇る大ヒットで一躍ブレイクしてました。

今回はそのヒットの勢いを駆ってこの上位エントリーを果たしたということでしょうが、アルバムの方にはドレイク以外にもガンナ、ビッグ・ショーン、ケラーニ、クリス・ブラウン、H.E.R.とまあ超豪華メンツがゲスト参加してるようで、この売れ方もまあ納得ですね。

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続いて17位に登場してるのは、トップ10に来るんじゃないかと思ってた、リオン・ブリッジズの3作目『Gold-Diggers Sound』。前作、前々作でサム・クックを彷彿とさせる60年代R&B的マナーで素晴らしい作品を届けてくれてたリオンが、今回はロバート・グラスパーテラス・マーティンなど、ジャズ的オルタナティブR&Bの連中のサウンドも導入した新境地的作品。何でも昨年の秋から東ハリウッドの「Gold-Digger」というホテル兼ライヴハウスの専属シンガーとして定期的にライブをしてるらしいけど、ここに同じLAにいるテラス・マーティンらが来てジャズっぽいインプロヴィゼーション・プレイをやってるのに詞やメロディを付けたものを集めたのがこのアルバムらしい。

で、まだ数曲しか聴いてないんだけどこれがなかなかいーんですわ。先行シングルの「Motorbike」やPVにそのGold-Diggerホテルが登場する「Why Don’t You Touch Me」なんか、今までの正当派ソウル、という感じからオルタナR&Bっぽいところに行く過程みたいな不思議な郷愁感みたいのあるし。あとひたすら楽器の鳴ってる音の感じがいい。これはなかなか癖になりそうですわ。

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続いて19位初登場はサー・ポールの先日リリースされた『McCartney III』の楽曲を、ベック、クルアンビン、St.ヴィンセント、フィービー・ブリッジャーズ、アンダーソン・パークと、まあ僕の大好きなアーティスト達ばっかりとリミックスしたバージョンが収録された『McCartney III Imagined』。上記以外にもブラッド・オレンジとかブラーデーモン・アルバーンとか、QOTSAジョッシュ・オムとか、もうびっくりするような今クールな音楽やってる連中と組んでる、そのアイデアだけで何かワクワクするね、これ。その中でも新進のオルタナ・ヒップホップ系のアーティストでビデオゲームのフォートゥナイトでもライブを張ったりしてるドミニク・ファイクがやってるこの「The Kiss Of Venus」が凄くビートルズ・オマージュ風にやっているのがなかなかいいです

この企画がポールの発案だとすると、これだけのしかもコンテンポラリーなメンツをどうやって選んだのか気になるところだけど。メディアの評判もMetacriticsが77点だからまずまず。

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ちょっと下がって56位に初登場してきたのは、マイク(mike.)というヒップホップアーティストのもう6作目になるアルバム『the highs.』。このマイク、本名マイケル・フランシス・シアンダーという現在32歳のロード・アイランド州出身の白人アーティストなんですが、実は彼、名門デューク大学時代に野球チームのリリーフ・ピッチャーで、一年生の時チームのクローザーを任されて9セーブを記録、年間防御率1.61(デューク大史上最高)を記録したという元アスリートなんですね。当時のチームメートには、今NYメッツの先発4番手ピッチャーで、2017年のワールド・ベースボール・クラシックのMVPだったマーカス・ストローマンがいました(マイクのアルバムにも登場してるとのことw)。

そしてこれもよくある話なんですが2年生の時に肘を怪我してトミー・ジョン手術を受けたことでアスリートのキャリアを断念、リハビリ中の時間で音楽に傾倒していったというのがこのキャリアのきっかけのようです。2013年リリースのデビューアルバム『Relief』がBillboard 200の109位にチャートインしていいスタートを切った彼のキャリアでしたが、その後今回のチャートインまでは主にSNSで作品をドロップし、その間TVでドキュメンタリーになったり、元Xファクター出演のシンガーソングライターの作品にフィーチャーされたりと、ちょこちょこメディアには出てたみたい。今回の再ブレイクのきっかけはよく判りませんが、「what i know」や「upside down」といった曲を聴くと、トラップ・カントリー・ポップみたいなちょっとマック・ミラーの楽曲を思わせるトラックに、ロブ・トーマス似のボーカルのマイクの歌が乗っかってる、というなかなか聴いててチルするいい感じの作品。このあたりが今回受けてる理由かもしれませんね。

この間のボー・バーナムといい、他のキャリアから軽々とこういう風に音楽キャリアに入ってくるアーティストが続々出てきてるのも、先ほどのザ・キッドLAROI同様、表現手法としての音楽を一つのオプションとして捉えるようなアプローチが今の若手アーティスト達の間で広がってるような気がします。昔に比べると作るのも出すのも簡単だしねえ

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そして今週の圏外100位までの初登場しんがりは、御大ジャクソン・ブラウンが久々に出してくれた心に残る前作『Standing In The Breach』(2014年15位)以来7年ぶりとなる新作『Downhill From Everywhere』が86位初登場。この86位というのはもしこれが最高位だったら(多分そうなりますが)残念ながら、彼のアルバムでは過去最低のチャート成績、ということになってしまいます。ただそういうこととは関係なく、ジャクソン・ブラウンのファンとしては彼がこうして元気にそして一定のクオリティの作品を出し続けてくれることに意味があると思ってます。

先行シングル的にリリースされた「My Cleveland Heart」のPVではジャクソンが人工心臓の移植手術を受けるというコンセプトで(しかも手術失敗するw)、その取り出した心臓を受け取る助手が何とこれ、フィービー・ブリッジャーズ!しかもラストではその心臓をかじったと思しき彼女の口元からタラーリと血が一筋…というなかなかゴスなPVですが(笑)、曲の方は至ってジャクソンらしいアップビートでレイドバックなロックナンバー。フィービーの配役は今年3月にフィービーのアコースティック・バージョンの「Kyoto」で共演したジャクソンのご指名だったようで「僕の古くて役立たずの心臓を、若くて強くて僕みたいにシニカルな人間に渡すなら彼女しかないと思った」とコメントしていて、彼女への高い評価を感じますね。他にもタイトル曲では多くのミュージシャン達のギターの先生として知られて、一時期あのメガデスのメンバーでもあった(!)ジェフ・ヤングとの共作だったりとか、サー・ポール同様、ジャクソンも年を経てもなお幅広いミュージシャンとの交流を続けてきた結果がこのアルバムに落とし込まれてるのかな、という気がしてます。そろそろレコードが届くと思うので、掘り下げて聴くのが楽しみですね。

さてここでいつものトップ10おさらいです。またモーガン・ウォレンに星印付いてるのが気になるなあ(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (26) (53) F*ck Love ● - The Kid LAROI
2 (3) (10) Sour ▲ - Olivia Rodrigo
3 (4) (5) Planet Her - Doja Cat
*4 (5) (29) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen
5 (1) (2) Faith - Pop Smoke
6 (6) (8) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
*7 (65) (2) Bigger Than Life Or Death - EST Gee
8 (7) (7) Hall Of Fame ● - Polo G
*9 (56) (53) Folklore ▲ - Taylor Swift
10 (8) (69) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa

今週の全米アルバムチャート事情!いかがでしたか。さて恒例の来週の1位予想(対象集計期間 7/30-8/5)ですが、既にもうネットで評判のビリー・アイリッシュ、これっきゃないでしょう。それ以外にトップ10に来そうなのが、プリンス没後初のオリジナル・アルバム、またまた出したロジックの新譜くらいかな。ではまた来週。


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