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コロナウィルスと音楽ライヴイベント中止に思う

今朝メールを開いたら、ビルボード誌が突然SXSWキャンセルのニュースを報じてるのが目に飛び込んできた。

SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)は今年で34年目の歴史を誇る、テキサス州オースティンで毎年開催される大規模な音楽と映画のイベント。今年は3/13から1週間の開催予定だったが、最近のコロナウィルスの状況もあり、フェイスブックやアップル、ツイッターなどのスポンサー企業が今週次々にイベント参加中止を発表、予定されていたトレント・レズナーやオジー・オズボーンらのキーノート・スピーカー達が参加を辞退していた上に、アメリカの四大音楽著作権管理団体の一つで、毎年SXSWで多くのアーティストやソングライター達のショーケイスイベントやセミナーなどを開催していたBMIが一昨日参加・開催中止を発表したことがいわば決定打となってキャンセルに追い込まれたみたい。その前日にはオンラインで健康懸念を理由にSXSWは中止すべき、という署名が5万筆集まっていたこともあって、昨日オースティン市長が遺憾の中止記者会見を行ったもの。

いや、これオースティン市もそうだけど、参加する予定だったミュージシャン達や開催施設にとってはかなりの打撃だと思う。というのは、基本的に野外型音楽ライブイベントである日本のフジロックやサマソニ、ロサンジェルス郊外で毎年4月に開催されるコーチェラ・フェスティバルなどとSXSWとではその開催形態と内容が二つの点で大きく異なっているから。

1.SXSWは市街型のイベント

フジロックやコーチェラが、野外のオープンスペースに設置された大きないくつかのステージで、その時その時の話題のアーティスト達が何千何万人という観客に向けてライブを繰り広げる、という形態のイベントであるのに対して、SXSWのイベントの舞台のほとんどはオースティン市街のライブハウスや小規模な会場、そして路上や広場など多くの開催場所で同時多発的に多くのイベント(それもライブだけでなく、セミナーやインタラクティブなセッションなども多い)が開催されるというタイプのイベント。つまり、室内や区画された場所で開催されるイベントがほとんどであり、日本でも密閉空間に多くの観客が集まる形式のイベント、ライブが最近次々に中止になっているのと同様の理由でキャンセルに追い込まれやすいという、構造的な危うさがあったという事情がある。

2.SXSWは新進ミュージシャンやソングライター達のインキュベーションイベントでもある

そしてもっと重要な違いは、SXSWが既にエスタブリッシュされたアーティストのライブイベントというより、まだレーベル契約もないような無名アーティストや、全米だけでなく世界中から集まってくるバンド達が毎年何千と参加し、彼らのショーケース的なイベントとなっていること。SXSWにはミュージシャンやソングライター達だけでなく、そうした新しいタレント発掘のために、主要な大手音楽レーベルや音楽出版社、ライブプロモーターや業界弁護士やコンサルタント達といった、言わばアメリカ音楽業界関係者も多く参加するので、過去にここから飛び立って全米そして世界的に飛躍したアーティスト達は多く、ジョン・メイヤー、ジェームス・ブラントなどはその一例。

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僕は以前NHKーBSのSXSWのドキュメンタリー番組で、京都の女性4人組パンクバンド、おとぼけビ〜バ〜が2017年のSXSWに手弁当で参加して、いくつかのショーケースで見せた、京都弁でパンクロックという唯一無二な迫力のパフォーマンスを見たことがある。これが熱狂的な反応を受けて、業界関係者からイベントへのオファーをされる様子を見て、彼女達の勢いの凄さもさることながら「何てオールインワンなイベントなんだ」と感心したのを覚えてる。その後彼女達はイギリスのインディーレーベルからアルバム『いてこまHits』(2019)をリリース、これがペイスト誌の選ぶ2019年ベスト・パンク・アルバムの11位に選出されるという飛躍ぶりで、このSXSWが多くの無名アーティスト達のインキュベーション・ステージとしての重要な役割を持っていることの一つの実例になってる。

今年も全米各地や、イスラエル、UK、フィンランド、韓国そして日本(下北のレトロポップ・バンド、Hazy Sour Cherry)など世界各地から2,000を超えるアーティストの参加が予定されていたSXSW、こうしたこれからのキャリアを飛躍させていくことを夢見て参加予定だった彼らにとって、今回のキャンセルは間違いなく大きな損失だ。そういう意味から今回のSXSWのキャンセル(一応延期も検討されているようだが)は単なる音楽ライブイベントキャンセル以上の大きな意味を持ってることになる。既にアメリカでも多くのアーティスト達のツアーがキャンセルになっているが、このSXSWのキャンセルが、他のフェス型イベントへ波及しないことをホントに願う。

なぜならそれは音楽ファンにとっても悲しくなることだというだけでなく、SXSWへの参加を予定してた新進アーティスト達にとっては開けようとしていた未来への扉が一旦閉ざされることになるし、また既に一定のファンを獲得しているミドル・ティアのアーティスト達にとっても、このストリーミング時代でレコードやCDでの売上だけでは充分な収入が得られない中で重要な収入源であるライブという活動の場を取り上げられてしまうことだからね。いわば死活問題。個人的には可能な限りこうしたフェスは、特にSXSWのように屋内型でない、野外型のフェスであればコロナウィルスの対策も充分対応できるはずだし、是非極力開催の方向で関係者達には頑張って欲しいと思うばかりです。

まずは去年はチャイルディッシュ・ガンビーノ、今週新作リリースしたテイム・インパラ、アリアナ・グランデがヘッドライナーで大いに盛り上がり、今年既にレイジ・アゲンスト・ザ・マシーン、トラヴィス・スコット、フランク・オーシャン(観たい!)のヘッドライナーがアナウンスされてる4月のコーチェラが予定通り実施されることを祈る。そしてまだ先の話だけど、フジロックやサマソニへの影響が出ることだけは絶対に避けなければいけないと思う。それは音楽ファンにとっても業界にとっても、もっというと日常的な生活と文化活動を維持するためにも重要なこと。

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たまたま昨夜は洋楽好きの友人達と新宿のdu cafeに集まって、自分も含めて7人でレコードを回すDJイベントに参加したのだけど、やはりみんなそういう機会を求めていたと見えて、DJのメンバーだけでなく、思ったより多くの友人達が集まってとても楽しい時間を過ごすことができた。こうしたことをできる範囲で確保していくことで、何とかこのコロナウィルス騒ぎを乗り切っていければいいな、と帰り道思うことしきりでした。

よく日本人はこういう時に「こういうご時世ですから」云々ということをいいがち。「こういうご時世だからこそ」みんなでイベントやろう、コロナウィルスごときに僕らの楽しみを邪魔されてたまるか、という気持ちを持ちたいもの(もちろん感染拡大を助長しないような注意や手当を充分にしてね)。3月17日にはフジロック2020の第一弾アーティストラインアップが発表される。ここ最近のモヤモヤを吹っ飛ばしてくれるラインアップ発表を期待。

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