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【恒例新年企画#3】Boonzzyの第63回グラミー賞大予想#4〜ラップ部門

先週のバイデン大統領の就任式、とにかく無事に終わって良かったし、バイデン大統領のメッセージもアメリカとしての品格を改めて取り戻そう、そのためにはみんなで団結だ、という明確かつ高揚するメッセージで良かったと思います。その後の就任式コンサートに登場したアーティスト達のパフォーマンスもどれも素晴らしいものでした。オープニングのブルース・スプリングスティーンの「The Land Of Hopes And Dreams」もインスパイアリングでしたが、個人的にはこの間R&Bアルバム部門の予想で印を付けてなかったアント・クレモンスジャスティン・ティンバーレイクとメンフィスのStaxミュージアムからビール・ストリートへ踊りながら歌っていた「Better Days」にもの凄く感動していました。何て素晴らしいパフォーマンス!あの部門、アント・クレモンスひょっとしたら取るかも(もう遅いw)。さて、引き続きBoonzzyのグラミー賞受賞予想、次はいろいろと話題含みのラップ部門です。

18.最優秀ラップ・パフォーマンス部門

  Deep Reverence - Big Sean Featuring Nipsey Hussle
  BOP - DaBaby
  Whats Poppin - Jack Harlow
◎ The Bigger Picture - Lil Baby
○ Savage - Megan Thee Stallion Featuring Beyonce(受賞)
✗ Dior - Pop Smoke

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2020年のブラック・ミュージックといえば、もうBLM(ブラック・ライヴス・マター)運動を抜きにしては語れないわけで。もちろんそういう主題を取り上げなくとも、ソリッドな作品を出して、それなりに商業的にも成功したR&Bシンガーやラッパー達は多いわけですが、やはり2020年を振り返った場合に何らかの形でこの大きなうねり(結局はそれが最終的にトランプが大統領選に敗退した大きな原因の一つでもあったと思いますし)について言及なり、立場の表明をした作品に注目が集まるのは当然といえば当然。正直今回のグラミーで、あれほど売れて、シーンにも支持されていたポップ・スモークが、何とこの部門のみのノミネートに終わった理由の一つはやはりそういうことがあったのではないでしょうか

そういう目で見ると、この部門でやはり本命◎を付けるのは、リル・ベイビーによるBLM運動についての自分の考え方や、自分が警察官の暴力にあった経験を単に白人憎しではなく、淡々とバランス取れた言葉で語っている「The Bigger Picture」が妥当のような気がします。この曲については、ノミネーション予想の記事を書いた時に、主要部門のROY、SOYノミネートされても全くおかしくないと述べたように、ある意味BLMに対する強烈ながら冷静なステートメントになっているので、主要部門ノミネートを逃したからにはこの部門では多分強力でしょう。対抗○は、最近だんだん「Savage」でのミーガンのフローがとても心地よく感じられてくるようになったことと、ビヨンセが絡んでることも考え合わせて、ミーガンの「Savage」に付けました。新人賞部門にノミネートされててもおかしくなかったジャック・ハーロウミーガンでかなり迷ったのですが、ミーガンのドスコイなラップぶり、聴きこむとこれ、なかなかクセになります。このアニメのPVもかなり気に入ってまして(笑)。

そして穴×には、そのジャック・ハーロウではなく、やはり今回のグラミーでここしかノミネートされていないポップ・スモークのブリン・ブリンな「Dior」に。

19.最優秀メロディック・ラップ・パフォーマンス部門

  Rockstar - DaBaby Featuring Roddy Ricch
◎ Laugh Now Cry Later - Drake Featuring Lil Durk
○ Lockdown - Anderson .Paak(受賞)

  The Box - Roddy Ricch
✗ Highest In The Room - Travis Scott

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さて、この部門は2002年第44回に新設された最優秀ラップ/歌唱コラボレーション部門(2017年第59回以降は最優秀ラップ/歌唱パフォーマンス部門)が、今年から名称を改めて「最優秀メロディック・ラップ・パフォーマンス部門」に衣替えしたもの。そもそもこの部門が新設されたのは、2000年代初頭に、メインストリームのヒップホップ楽曲のパターンとして、ラッパーとR&Bシンガー(多くの場合女性)がコラボするという、よりメインストリーム・ポップ的なアプローチでのヒット曲が相次いで出たことが多分きっかけだったと思います。ほら、当時はそういうフォーマットでジャ・ルールが次々にヒット飛ばしてましたよね。クリスティーナ・ミリアンとの「Between Me And You」(2000年11位)、リル・モとの「Put It On Me」(2001年8位)、Jローとの「I'm Real」(同年1位)「Ain't It Funny」(2002年1位)、ケイスとの「Livin' It Up」(2001年6位)そしてアシャンティとの「Always On Time」(2002年1位)、まあ凄い勢いでした。でも面白いことにこのフォーマットのグラミー部門化で一番恩恵を受けるはずのジャ・ルールはこの部門で一度も受賞してないんですよね(ノミネートもケイスのやつと、アシャンティのやつ2曲だけ)。

まあそれはいいとして、今回の名称変更は単なる部門名がダサいからオサレな言い方に変えた(笑)というだけではなく、最近はこうしたフォーマットがだんだん変化してきていて、単純にラッパーとシンガー、と言う組み合わせだけでなく、ラッパーが歌ったり、シンガーがラップしたり、またまたラッパーが歌うようにラップしたり(最近のドレイクはそういうの、多いですよね)とスタイルが多様化してきたことも大きな背景にあるようです。で、ノミネーションを蓋開けてみたところ、何と5作品いずれも部門設立当初のフォーマット、すなわちシンガー+ラッパー、という綺麗なパターンは皆無、という結果になりました。これだと「ラップ/歌唱」という部門名はいかにも看板に偽りあり、になりますよね。なので、基本どの曲もかなりのリリックが「歌うように」ラップされてる曲で、アンダーソン・パークの「Lockdown」に至ってはシンガーのアンダーソンが歌うような感じで達者なフロウを全編聴かせてくれます。

で、上にもちょっと名前が出たように、「歌うようなラップ」っていう意味だとここ最近それがほぼスタイルになっているドレイクが正にこの部門ハマリ役なのではないかと。後半で威勢のいいラップを聴かせてくれるリル・ダークがいるから僕は鼻歌ラップで行くよー、みたいに楽しそうに、でもこのコロナロックダウンの時代に「今は笑うことが大事だよ」みたいにポジティブなメッセージを聞かせてくれる「Laugh Now Cry Later」に本命◎を付けさせてもらいます。一方、BLMはこの部門でもやっぱりキーワードになる可能性はあるわけで、それでいうと、コロナでロックダウンなんていってないで、ダウンタウンのBLMのデモに行かなきゃ、オレなんてデモ行って怪我しちゃったよ、なんてな2020年的日常をいつものアンダーソン・パーク節のトラックに乗って淡々と歌うようにラップするアンダーソン・パークの「Lockdown」は対抗○に充分ですね。この曲もビヨンセのところで触れたジューンティーンス(テキサス州で奴隷制が廃止された記念日6/19)にアンダーソンが急遽シングルのみリリースしたもの。次のアルバムには収録されるのかな。

さて残る3曲はいずれも2020年の大ヒット曲ぞろいなのですが、ここはBLMバージョンもある「Rockstar」でも、はたまたグラミー賞お気に入りのロディ・リッチでもなく、これまでシーンでの高い評価にもかかわらずグラミー無冠のトラヴィス・スコットに穴×を進呈します。

20.最優秀ラップ・ソング部門(作者に与えられる賞)

◎ The Bigger Picture - Lil Baby (Dominique Jones, Noah Pettigrew & Rai'shaun Williams)
○ The Box - Roddy Ricch (Larrance Dopson, Samuel Gloade, Rodrick Moore, Adarius Moragne, Eric Sloan & Khirye Anthony Tyler)
× Laugh Now Cry Later - Drake Featuring Lil Durk (Durk Banks, Rogét Chahayed, Aubrey Graham, Daveon Jackson, Ron LaTour & Ryan Martinez)
  Rockstar - DaBaby Featuring Roddy Ricch (Jonathan Lyndale Kirk, Ross Joseph Portaro IV & Rodrick Moore)
  Savage - Megan Thee Stallion Featuring Beyoncé (Beyoncé, Shawn Carter, Brittany Hazzard, Derrick Milano, Terius Nash, Megan Pete, Bobby Session Jr., Jordan Kyle Lanier Thorpe & Anthony White)(受賞)

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このラップ・ソング部門というのは歴代、だいたいその年のノミニーの中で、ど真ん中の王道作品が取る、というのがパターンで、過去10年でケンドリック・ラマー3回、ドレイクカニエジェイZが各2回と大御所の独壇場の部門でした。例外は、マッケルモア&ライアン・ルイスジェイZカニエドレイクを押さえて受賞した2014年第56回と、大御所のノミネートがなく、21サヴェージJ.コールが取った昨年のみ。それでも昨年はその年に亡くなったニプシー・ハッスルが取ると思ってたので、ひょっとして今年あたりから選考パターンが変わってる可能性はあるかもしれません。まあでも、ここの本命◎はやっぱり「The Bigger Picture」一択じゃないでしょうかね。なんてったって「ソング」部門なので、これほど2020年を象徴する「うた」もないわけですしリル・ベイビーこの部門初ノミネートだけどまあここは取るでしょう。そして対抗○ですが、ここにノミネートされている5曲のうち、唯一主要4部門のSOYにもノミネートされている、しかもグラミー賞の最近のお気に入りアーティストの一人、ロディ・リッチの「The Box」は外せないでしょうね。何といってもHot 100で11週1位という大ヒットぶりもあって存在感たっぷりです。

穴×は、この部門本来の大御所ということでいくとやっぱりドレイクの「Laugh Now Cry Later」でしょうか。前の部門でもコメントしたように、リリックにポジティブなメッセージが込められてるという意味ではこの部門にふさわしいということもできますよね。

21.最優秀ラップ・アルバム部門

◎ Black Habits - D Smoke
  Alfredo - Freddie Gibbs & The Alchemist
○ A Written Testimony - Jay Electronica
× King’s Disease - Nas(受賞)

  The Allegory - Royce 5’9”

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今回ノミネーションを見て正直ビックリしたのがこのラップ・アルバム部門。今年を代表するラップ・アルバムということでいうと、今回ガン無視されているポップ・スモークの『Shoot For The Stars Aim For The Moon』、グラミーもお気に入りのロディ・リッチの『Please Excuse Me For Being Antisocial』、昨年他界してグラミーからも無視されてたジュースWRLDの『Legends Never Die』、圧倒的なシーンの支持を受けていたリル・ウジ・ヴァートの『Eternal Atake』、安定のフューチャーHigh Off Life』、去年大ブレイクのリル・ベイビーMy Turn』、そしてBLMを先鋭的に打ち出し、シーンで高い評価を受けていたラン・ザ・ジュエルズの『RTJ4』などなど山ほどあったと思ったのに、これらがいずれもノミネートされず。結果、この部門以外には全くノミネートのない5組の作品がならんでいたから、これは驚きました。

その中でDスモークは新人賞部門にもノミネートされてるというところが目についたのと、ジャケの感じが何となくいい感じだったので、このアルバム『Black Habits』聴いてみました。これが、あのコモンの『One Day It'll All Make Sense』(1997)のヴァイブを彷彿とさせるような、オーガニックな演奏を多く使ったトラックをバックに、ブラック・ファミリーの絆と厳しい状況からわき上がってくる感情を乗っけて、リアルなブラック・コミュニティの現実へのステートメントを、当年35歳、高校教師の経験もあるというDスモークが繰り出してくる、なかなかヒリリとしていていいアルバムなんですわ。インタビューを読むと、ジャケの写真は当時服役中だった父親との数少ない面会で時々許される、刑務所の中の個室に家族一緒に過ごさせてもらえるという機会に、家族で撮った写真みたいです。後に父親は務めを終えて出てきて、音楽インストラクターをやってた母親とDスモークら子供達と一緒に暮らすんですが、その間、両親がドラッグ中毒になったり、そこからまた立ち直ったり....まあ何と言ってもDスモーク、苦労人なんですね。その彼が、2019年10月に始まった、ネットフリックスのヒップホップ・リアリティ番組「Rhythm + Flow」のシーズン1で優勝したのが、今回のアルバムリリースと、グラミーの新人賞部門ノミネートにつながったというのを知って、これは本命◎はDスモークだな、と確信。

そして対抗○に選んだのは、こちらも44歳と年齢的にはベテランながら、今回の『A Written Testimony』が2007年リリースのミックステープ以来2作目、フルアルバムとしてはデビュー作というジェイ・エレクトロニカ。ジェイZロック・ネーション・レーベル所属ということもあり、全10曲中8曲にジェイZが参加(しかしクレジットはなし、でも声ですぐ判るw)してるんだけど、全編ネイション・オブ・イスラムをテーマにしてることもあり、本人はアラビア語でラップしてるというのが特異。サウンド的にはその他にあのジェイムズ・ブレイクや個人的に大好きなクルアンビンがプロデュースしてるトラックがあったり、サンプリングソースもフリップ&イーノを使ったりと、浮遊感たっぷりのサイケデリア・ヒップホップ・トラック、という感じが妙に心地よい。これはシーンでの評価もかなり高く、meantime時代の盟友もこのアルバムを年間ベスト10に選んでたので、対抗○には充分かと。

穴×はこちらも38歳とベテランながら(しかし今回この部門のノミニーはこの他ナズが47歳、ロイス5’9”が44歳とベテラン揃いですなw)90年代一斉を風靡したヒップホップ・プロデューサー、アルケミストとコラボしたアルバム『Alfredo』がシーンでの評価も高いので(ピッチフォーク誌年間44位、ペイスト誌年間13位)こちらに。

さて、Boonzzyのグラミー賞大予想、もうすぐ折り返し点、頑張りますので引き続きお楽しみ下さい。次はカントリー部門の予想です。では。


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