見出し画像

今週の全米アルバムチャート事情 #258- 2024/10/19付

MLBポストシーズンもいよいよ優勝決定シリーズ(CS)に突入、だいたい予想通りのマッチアップで既に大興奮の試合が連日展開中。我がメッツは1-1のタイでNYに戻って一気に、と思ったけどホーム初戦を取られたので今日以降是非挽回してほしいところ。先週から抗がん剤治療を始めたけど、幸い副作用もきつくないので大いに楽しんでます。ドジャーズ推しの方多いと思いますが、こんな興奮できるマッチアップを楽しめることに感謝、感謝です。音楽もスポーツも最高の秋、楽しみましょう。と、言っていたら昨日元ワン・ダイレクションリアム・ペイン急逝という衝撃のニュースが。若いポップスターの早すぎる死、冥福を祈らざるを得ません。R.I.P….

"Moon Music" by Coldplay

今週の全米アルバムチャート、10月19日付のBillboard 200の首位はさすがに先週の予想どおり、コールドプレイのちょうど通算10作目になるアルバム『Moon Music』が120,000ポイント(うち実売106,000枚)と、予想以上に(特に実売)出力を伸ばして初登場、彼らに取ってUSでの通算5作目のナンバーワンを記録しました。ちなみにUKでも初登場1位で、彼らのオリジナル・アルバムはこれで10枚全て1位を達成、史上最多記録を決めてます

ただねえ、自分的にはコールドプレイについては初期3枚の衝撃のあと、『Viva La Vida Or Death And All His Friends』(2008)で一気にポップ・バンドに軸足を移したあたりで「何か違うぞ感」からアルバムを重ねるごとにポップに振り切っていく彼らに違和感を感じて、極めつけはBTSとのコラボシングル「My Universe」。だからあまり期待はしてなかったですが、今回も音楽メディアの評判は良くないですね。オープニングはUKエレクトロニック系インディ・ロックのジョン・ホプキンスをフィーチャーした、シンセ・シンフォニーのようなタイトルナンバーで、ちょっと「おっ今回は違うかな」と思わせるんですが、その後に今のUKを代表するR&Bクイーン、リル・シムズとアフロビートのバーナ・ボーイをフィーチャーした「We Pray」が今回多分目玉の一つだったと思うんですが、どうしようもなく「ダサい(by うちのカミさん)」。その後もメディアが言うところの「過去の残り物音源の寄せ集めに聞こえてしまう」クリシェな感じのメロディラインと曲構成の楽曲が並んでて、まあ今のコールドプレイに「ロック」を求めないファンには聞き流すには最高のアルバムなんでしょうが、まあそれ以上でもそれ以下でもないけど10万枚も売れてしまうんですよねえ。頼むからグラミーにノミネートなんてされないことを祈るばかりです(いや、グラミーだからノミネートされちゃうかもw)。

"Jaded" by Toosii

今週トップ10内初登場はこのコールドプレイだけでしたが、圏外には8枚のアルバムが初登場するという久しぶりの大賑わいなんで、ちょっと走り目に行きます。まず一番人気は結構下で、50位初登場のニューヨーク州北部シラキューズ出身のラッパー、トゥーシーの『Jaded』。デジタルとストリーミングのみのリリースで一応ミックステープ扱いのようです。

トゥーシーといえば昨年エモでチルで彼女に対するとってもポジティブなメッセージの素敵なR&Bラップヒット「Favorite Song」(5位)で大ブレイクしたやつですが、今回のミックステープではエモチルでない普通のトラップ・ナンバーとかもやりながら、しっかりケラーニをフィーチャーした、トラップ・ポップの「Ok,...Whatever」や、R&Bシンガーのマニー・ロングをフィーチャーしたアフロビート風の「I Do」なんかもやっていて、前のアルバムで獲得したファンにもちゃんとアピールしてるあたりはソツのないやつだなあ、という感じ。アルバム全体もまずまずの手堅い作りなので、今回順位は落としてますが、またシングルヒットが出れば上位に戻って来るでしょうね。

"Cutouts" by The Smile

続く52位には、UKのレディへトム・ヨーク率いるスーパーバンド、ザ・スマイルのサード・アルバム『Cutouts』がチャートイン。本国UKでは今回も7位初登場と3作連続トップ10を決めてますが、USではファースト19位→セカンド42位→今回52位とジワジワとチャート順位が劣化しているのがこのバンドに対するUSロックファンの反応を象徴しているようでなかなか興味深いところです。

今年1月リリースの前作『Wall Of Eyes』のレコーディングと同時期のセッションからの音源で構成されてるようですが(ジョニー・グリーンウッドは「決して残り物音源ではない」とコメントしてますw)、正直前作が自分にはとってもアブストラクトでかなり取っつきにくい印象があったのに対して、今回のアルバム楽曲はいずれもよりストレートで、すっと入ってきてしかもなかなかカッコいい楽曲が多いな、という印象。「Eyes & Mouth」とかかなりイケてる感じで気に入ってしまいました。まあ後半に行くとトム・ヨークっぽいアブストラクト・ジャズっぽい楽曲も出てくるんですが、自分的にはこの3作のうち一番しっくりくる印象。もう少し聴き込んで見ますが。

"Leon" by Leon Bridges

58位にチャートインしてきたのは、リオン・ブリッジズの4作目『Leon』。グラミー賞最優秀R&Bアルバム部門にもノミネートされた前作『Gold-Diggers Sound』も素晴らしいアルバムでしたが、LAの東ハリウッドにある同名のスタジオ兼ライブバーでのレジデンシーをやってる間に書いた曲をまとめた前作に対し、今回のアルバムは場所を移してナッシュヴィルとヒューストンで録音。そしてそれには理由があって、前作収録の「Sho Nuff」で共作者として名を連ねていたイアン・フィチャックダニエル・タシアンのコンビをプロデューサーに迎えて今回は全面的に共作してるんですね。

誰、その人たち?」という人も多いと思いますが、この2人は2019年第61回グラミー賞最優秀アルバム部門を受賞した、あのケイシー・マスグレイヴスの名盤『Golden Hour』からここ3作のプロデュースを手掛けている、ナッシュヴィル・ベースのチームでは今注目の二人なんですよね。そして今回どの楽曲も、リオンの歌唱も全編、前作とはまた違った深みをたたえて素晴らしいものばかり。ジョン・メイヤーもコラボに参加したオープニング・ナンバー「When A Man Cries」から最後の「God Loves Everyone」まで、リオンのオーガニックでソウルフルなボーカルが全編しみじみと響き渡る名盤。取り敢えず暫定マイ・ベスト・アルバム・オブ2024は決まったな。

"Post Traumatic" by Tee Grizzley

さて急ぎます。60位初登場は、デトロイトのラッパー、ティー・グリズリーの5枚目『Post Traumatic』。ミーク・ミルをフィーチャーしたシングル「First Day Out」(2016年48位)のブレイクで、最初の3枚はトップ20に送り込んで来てましたが、前作『Tee’s Coney Island』(2023年65位)からこれくらいの順位が定位置になりつつあります。つまりちょっと飽きられて来てる感じ。

今回はフィーチャーされてるJ.コールが何とビギーの「Mo Money Mo Problems」のあろうことかメイスのヴァースをなぞってるというシングル「Blow For Blow」がHot 100ヒット(88位)になってますが、そんだけ大ネタのベタなヒットがあってこの順位ですから、このあと相当頑張らないとジリ貧の一路を辿りそう。しかしJ.コールももう少し仕事を選んだ方がいいと思うけど、この間のドレイクケンドリックのビーフで早々に謝罪なんかして思いっきり男を下げて以来どうもパッとしないスね。

"California Gold" by Nate Smith

ガラリと趣向変えて、65位に初登場してきたのはカントリーのネイト・スミスのセカンド・アルバム『Claifornia Gold』。去年後半から今年にかけて「World On Fire」(21位)、「Bulletproof」(37位)と立て続けにHot 100クロスオーバーヒットを放ってメインストリーム・ブレイクを果たしたネイト君、今回満を持してリリースしたアルバムですが、ファースト『Nate Smith』(2023)の30位から大きく順位を下げてちょっと可哀想かも。

その「Bulletproof」と次のシングル「Can You Die From A Broken Heart」には5月に共演したアヴリル・ラヴィーンをフィーチャーしてたり、デフレパか!と思うような曲調がなかなかロック・ファンに受けそうな「What Alone Looks Like」や「Fix What You Didn’t Break」など、多くの曲が明らかに80年代ロック寄りのスタイルなんで、US中南部のクラシック・ロック(80年代の)ファンには多分かなり受けてるんだと思う。いや、80年代ロックファンのシニア洋楽リスナーにはオススメです。

"For Cryin' Out Loud" by Finneas

ちょっと下って82位初登場は、出ましたビリー・アイリッシュのお兄ちゃん、フィニアスのセカンド・アルバム『For Cryin’ Out Loud!』。ファーストの『Optimist』(2021年104位)は惜しくも100位に入らなかったけど今回は堂々トップ100入りを果たしました。もちろん全曲自作プロデュース。

正直ファーストはよく聴いてないのですが、今回のセカンド聴いてみて、もっとダークでエレクトロなサウンドかと思っていたら、思いっきりレイドバックでオーガニックな感じの良質のポップ・チューン満載なのにまず驚きました。考えたら当たり前なんだけど、あのダークで才気走ったエレクトロなサウンドは、ビリーの才能であってフィニアスはそれを最大限抽出してたわけですね。そして今ヒットしてる「Birds Of A Feather」をはじめ、今回のビリーの新作がかなりポップに触れていたのが、実はフィニアスの影響だったんだな、ととっても腑に落ちたのでした。しかし気持ちのいいアルバム、しばらく自分のパワーローテになりそうです。

"Waves On A Sunset" by Tucker Wetmore

さてどんどん行きます。87位初登場は、西海岸ポートランド北部のワシントン州カラマというあまりカントリーに縁のなさそうな町の出身のカントリー・シンガソングライター、タッカー・ウェットモアのデビュー・アルバム『Waves On A Sunset』。こちらは先程のネイト・スミスとは違って、発声はしっかり伝統的カントリーシンガー風で、ちょっとカントリー・ポップ調ながら、オーセンティックなメインストリーム・カントリー、という感じのスタイルのシンガーです。

彼も今年になって「Wind Up Missin’ You」(63位)、「Wine Into Whiskey」(68位)と立て続けにHot 100にクロスオーバー・ヒットしてきて、カントリー・チャートでの実績を積んでHot 100に来る、という従来のパターンにはまらない、最近の新しいパターのカントリー・アーティストのブレイク・パターンを踏んでます。何となく出てきたばかりの頃のキース・アーバンあたりを思わせる洒脱さとハツラツとした感じがなかなか好感持てるおにいさんで、こういう実力もある若手がどんどん出てくると、カントリーの層も厚くなって今のカントリー・リヴァイヴァルのトレンドもしばらく続きそうだなあ、と思いながら聴いてました。

"Cardinals At The Window: A Benefit For Flood Relief In Western North Carolina" by Various Artists

今週最後の100位内初登場は、ジャスト100位に飛び込んできた、デジタル・オンリー・リリースながら何と全136曲、4時間におよぶチャリティ・コンピレーション・アルバム『Cardinals At The Window: A Benefit For Flood Relief In Western North Carolina』。今年9月にノース・キャロライナ州西部を襲って、ノース・キャロライナだけで115人以上の死者、200名以上の行方不明者という犠牲者を出したハリケーン・へリーンの被害者救済のために、インディ・ロックからアメリカーナからカントリーから様々なアーティスト達が新曲・ライブバージョン・カバー曲などを提供したコンピなんです。

参加アーティストは、有名どころだけでもザ・ウォー・オン・ドラッグス、エンジェル・オルセン、フリート・フォクシーズ、R.E.M.、タイラー・チルダーズ、ワクサハッチー、ギリアン・ウェルチ&デヴィッド・ローリングス、ジェイソン・イズベル、ファイスト、ドライヴ・バイ・トラッカーズ、アイアン&ワインビージーズの「How Can You Mend A Broken Heart」のカバーやってます)、フィッシュなどなど、アメリカーナ系が多いですが、様々なアーティストの未公開音源が聴けるというお宝コンピ。このコンピはチャリティのホームページ(https://musicspromise.salsalabs.org/CardinalsattheWindow/index.html)で、10ドル以上払うといろんなフォーマットでダウンロードできます。自分もさっそくチャリティに賛同して30ドル支払ってダウンロードして聴いてますが、こういうのがしっかりチャートに入ってくるあたり、アメリカ人のチャリティ精神の健在ぶりを目の当たりするようでなかなか素晴らしいものがあります。チャリティに賛同される方、上記のようなアーティストの未発表音源に興味のある方は是非購入してみて下さい。

ということで今週の100位までの初登場は都合9枚でした。一方今週のHot 100を見ると、初登場曲が84位までないといういつ以来なのかよく判らない珍しい現象が起きていて、比較的静かなチャートになってます。あ、1位は依然シャブージーの「A Bar Song (Tipsy)」で、これで14週首位独走です。なので、今週はしばらくトップ10からこぼれていて、今週10週ぶりにトップ10内10位に復帰してきたベンソン・ブーンの「Beautiful Things」の動画でも貼って置くことにします。この曲、今回のグラミーではどういう扱いになるんでしょうか。ROY、SOY候補では充分あると思うんですが、案外新人部門以外の主要部門からは無視されるかもしれないなあ、と何となく感で思ってます。では今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、チャートイン週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Moon Music - Coldplay <120,000 pt/106,000枚>
2 (1) (7) Short N’ Sweet - Sabrina Carpenter <93,000 pt/13,363枚*>
3 (2) (29) The Rise And Fall Of A Midwest Princess - Chappell Roan <56,000 pt/14,225枚*>
4 (4) (84) One Thing At A Time ▲5 - Morgan Wallen <50,000 pt/834枚*>
5 (5) (21) Hit Me Hard And Soft ▲ - Billie Eilish<50,000 pt/6,443枚*>
6 (7) (25) The Tortured Poets Department - Taylor Swift <45,000 pt/4,025枚*>
7 (6) (8) F-1 Trillion - Post Malone <43,000 pt/3,082枚*>
8 (3) (3) Mixtape Pluto - Future <40,000 pt/384枚*>
9 (8) (98) Stick Season ▲2 - Noah Kahan <37,000 pt/2,084枚*>
10 (10) (196) Dangerous: The Double Album ▲6 - Morgan Wallen<32,000 pt/358枚*>

コールドプレイの1位はともかく、圏外になかなか魅力的なアルバムが多数登場していた今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。では最後、いつものように来週の1位予想です(チャート集計対象期間:10/11~17)。来週は9万ポイント台の争いになってくると思われ、そうなるとストリーミングを落とさず9万ポイントギリギリを確保しそうなサブリナと、10万ポイントを何とか叩き出しそうなカントリーのジェリー・ロールとヒップホップのロッド・ウェイヴ、この3人の三つ巴の争いになりそうですが、ロッド・ウェイヴが僅かに強いんじゃないかと見てます。ではまた来週。

いいなと思ったら応援しよう!