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【恒例年末洋楽企画#2】Boonzzyの選ぶ2020年ベストアルバム: 10位〜6位

いよいよ2020年も大詰め、大晦日です。政府が今頃になって外出自粛を呼びかけていますが、ここ数日の街の人手はいつもと変わらず多かったためか、今日は新規感染者数1,300人超えという状況で、年明けの感染者数の更なる増加を危惧させますね。自分は静かに三が日家で過ごそうと思ってますが、皆さんも家でゆっくり2020年のアルバムを反芻しながら過ごすそんな正月にされてはいかがでしょうか。さて、いよいよBoonzzyの選ぶ2020年ベストアルバム、そのトップ10です

10. The Slow Rush - Tame Impala (Modular / Island / Interscope)

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年間トップ10ともなれば、どれもホントに好きなアルバムで、今年コロナロックダウンの中でかなり回数聴いた作品ばかりです。今年のバレンタイン・デーにリリースされたこのアルバムは、オーストラリア出身のケヴィン・パーカーことテイム・インパラが自らの作風を多様化しつつ、メインストリームも意識したキャリア再定義的な優れた作品だっただけでなく、こんだけ貫禄出てきたら今年のフジロックにはメインアクトの一つとして登場するんじゃないか、とリリース当時はワクワクしていたという意味でも2020年がまだロックダウン一色ではなかった頃を思い出させてくれる、自分にとってはそんな独得な位置を占めるアルバムでもあります。その当時、このnote.comに洋楽情報発信の場を移したばかりの頃、このアルバムをレビューした記事がこれです。

この後、皆さんもご存知のようにスマッシュさんが頑張って、見事テイム・インパラをメイン・アクトの一つとしてブッキングしてくれた時には「やったー!」と大いに喜んだものですが、こちらも皆さんご存知の通り、残念ながらそのフジロックも来年に延期。テイム・インパラのダンサブルでドリーミーなライブをグリーン・ステージで見るチャンスが失われてしまって、本当に残念でした。2021年のフジロックがどうなるかまだ全く未定なわけですが、まだ遅くない、開催できる状況になったらまたスマッシュさんには是非ブッキングをお願いしたいと思っています。

作品の内容としては、上記の記事でかなり細かくレビューしていますので、是非そちらをご覧頂きたい訳ですが、そこにも書いたように、今回の作品はケヴィンにとっては、ベックのメインストリーム・アプローチ作(でグラミーも取った)『Morning Phase』(2014)によく似た位置付けの、いわゆるインディ・ロックや21世紀サイケデリック・ロックなどに馴染みのないシニアな洋楽ファンにも割とすっと入っていける感じの作品になっているので、従来からのテイム・インパラを知らない洋楽ファンの方に是非聴いてみて頂きたい一枚なんです。まあ、打込みやシンセ系の音が多いので、ちょっと耳には「ああ、最近のシンセポップ系ね」と思われる向きもあるかもしれませんが、楽曲のアイデアやメロディ等には、あちこちに70年代のフリートウッド・マックとかのメインストリーム・ポップのスタイルを下敷きにしたようなものがいくつもありますので是非ご一聴を。今回のグラミー賞でもこのアルバムは今回のグラミーでは最激戦区となっている最優秀オルタナティブ・アルバム部門にノミネート、「Lost In Yesterday」は最優秀ロック・ソング部門にノミネートされてますし、音楽メディアの評価も上々で、SPIN誌8位、アンカット誌13位、NME誌16位と各誌の年間アルバムランキングの上位に選ばれています。個人的には上にPVを挙げた、スーパートランプあたりを思わせるエレピが効果的なドリーミー・ポップ「It Might Be Time」とかがお気に入りなんですが。

9. Serpentine Prison - Matt Berninger (Book Records / Concord)

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ザ・ナショナルというバンドはしばらく前からちょっと気になってて、ちょうどコマーシャルブレイクした2010年の『High Violet』以降は新作が出たら必ず買って聴いてきてる。でもあくまで「バンド」としての認識で、個々のメンバーについてあまり意識したことはなかったんです。オハイオ州シンシナティのバンドにしてはやけにUKっぽい知的な感じのする(失礼!)結構アコースティックなサウンドスケープを大事にしたオルタナティブ・ロックをやるバンドだなあ、というくらいのもので、毎回それなりのクオリティの作品を出して来てくるので毎回心地よく楽しんでた、という感じ。なので、今年の3月来日が決まった時は、オープニング・アクトが当時またかなり注目し始めてた女性シンガーソングライター、フィービー・ブリッジャーズ(彼女についてはまた後ほど)だったこともあり、すぐチケットを押さえたもんです。だから、コロナの関係でその来日が中止になった時は大いに残念がっていたくらい。

その個々のメンバーが急に目に見えたのが、ギタリストでバンドのほとんどの作曲を弟のブライスと担当しているアーロン・デスナーが、今年一番の話題作となったテイラー・スウィフトの『Folklore』(このBoonzzyの年間ランキング13位でした)のプロデューサー兼ほとんどの楽曲をテイラーと共作した、と聴いた6月頃。さっそく音を聴いたところ、インディー・フォークかインディ・ロックっぽいアプローチの気配はあるものの、ドリーミーな浮遊感あふれるポップな楽曲が並んでいたので、ザ・ナショナルのサウンドとテイラーが出会うとこうなるのかー、と興味深く思っていた訳です。そうこうしているうちに今度は何と10月にザ・ナショナルのリード・ボーカルのマットのソロ作が出る、と聴いてしかもそのプロデュースがあのブッカー・T・ジョーンズだと知って「ザ・ナショナルとブッカーTが出会うとどうなるのか?」と無茶苦茶興味をそそられて、買って聴いてみたわけです。

レコードに針を落として、聞こえてきたのは確かにあのザ・ナショナルのアルバムで聴き慣れたマットのバリトン・ボイスだったんですが、これまた面白いなあ、と思ったのがやはりブッカーTのインプットというか影響は絶大だったと見えて、アルバム全体の楽曲の雰囲気が無茶苦茶メンフィスとかマッスルショールズとかあの辺のアメリカ南部のR&B風味満点のとってもいー感じだったこと。でもちょっとイギリスの香りの漂うマットが歌ってるので、まるでメンフィス録音でシンガーソングライター風に作られたデヴィッド・ボウイのレコード、っていう風情で...つまりメチャクチャ渋カッコいいレコードなんです、これが。その最たるトラックがマットアル・グリーンの真似してるボウイにしか聞こえない(褒め言葉です)「One More Second」。それも含めてアルバム全体、本当に気持ちのいい作品で、10月リリースなのにいきなり自分のパワロテに入り、年間ランキングでもここまで食い込んできたというくらい。正に2020年代のブルー・アイド・ソウルという感じでザ・ナショナルのファンにはちょっと違和感あるかもしれませんが、自分は凄い気に入ってますよ。70年代前半のポップになりすぎる前のフェリックス・キャヴァリエとか好きな人にもオススメです(判りにくい)。

8. Bigger Love - John Legend (Columbia)

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ジョン・レジェンドって人は本当に才能あると思う。何と言っても史上16人しかいないEGOTエミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞全ての受賞経験者)の一人でしかも黒人男性としては最初のEGOT(黒人女性ではウーピー・ゴールドバーグがそう)だからね。こういう栄誉は才能だけじゃなくて自分のパフォーマンスに確固たる信念というか、ベストへのこだわりみたいなものがないと得られないと思います。2年ほど前の来日公演を見に行った時も、キャッチーだけどベタすぎず、スマートだけど鼻につかない演出による見事なエンターテイナーぶりに大いに感心したもんでした。彼が2010年にザ・ルーツとやったオバマ大統領就任を記念しての企画盤『Wake Up!』は自分の2010年代ベストアルバムランキングで1位にしたくらい、彼の作品については自分にとっては外れが少ないんですね。

それでも前作の『Darkness And Light』(2016)は、アラバマ・シェイクスのプロデュースで有名なブレイク・ミルズとの相性が自分的にはいまいちしっくり来なくてちょっと残念だったので、今回の新作についてはあまり期待してませんでした。ジャケもあんまり趣味いいとは思えないし(笑)。ところがです。今回は前回とアプローチをちょっと変えて、前回はほとんどの楽曲がジョンブレイクの共作(プラス・ゲストソングライター)だったのが、今回は全曲でジョンとゲストソングライターの共作で、プロデューサーも曲ごとに変える、というアプローチが良かったのか、冒頭のドゥーワップのサンプリングでノスタルジックに始まる「Ooh La La」から最後ピアノ一本をバックにしっとりと「僕たちは負けないぞ」と歌い上げる「Never Break」まで、とにかくアルバム全体を通じて「楽しさにあふれた」アルバムなんです。

今年新作をリリースした多くのアーティスト達がそうだったように、ジョン・レジェンドもこのアルバムリリースにあたっては、「ジョージ・フロイドの事件で人々が怒りと悲しみを感じている時に、そしてコロナのロックダウンで鬱々としている時に、このアルバムで少しでも喜びと気分の高揚を感じて欲しい」と言っているらしく、このアルバム全体のトーンもそれを反映したものになっています。今回は他アーティストとのコラボも大当たりで、今のアメリカンメインストリームを代表する若手シンガーソングライター、チャーリー・プースと共作、プロデュースした「I Do」なんて、昔のモータウンを思わせるようなシンプルなフレーズの繰り返しとウキウキしたリズムがひたすら楽しいし、アンダーソン・パークと同様に組んだ「One Life」なんかもポジティブなヴァイブがあふれかえるような素敵なナンバー。それ以外にも、ライアン・テダー、ジュリア・マイケルズ、テディ・ガイガーといった、非R&B系の若手実力派のシンガーソングライター達とのコラボによる作品もいずれもいい感じで、久しぶりに理屈抜きに楽しめるアルバムになってます。そしてやはりこのアルバム、今回のグラミー賞でも最優秀R&Bアルバム部門にノミネート。他のノミニーの顔ぶれを見る限り、彼の受賞はかなり本命に近いと思ってます。

7. Saint Cloud - Waxahatchee (Merge)

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女性シンガーソングライター、ケイティー・クラッチフィールドのソロ・プロジェクト、ワクサハッチー名義のこのアルバムは、ちょうどコロナ感染拡大でロックダウンが本格に始まった5月頃に、ネット上でルシンダ・ウィリアムスの新譜に関する記事で彼女がルシンダに大きな影響を受けたということを読んだのと、自分が90年代にスタッフとして活動していたmeantimeという洋楽サークルのスタッフ仲間が最近よく聴いてる、と聴いたのがきっかけで聴いてみた、というのは、その頃にこのnote.comに書いた「新旧お宝アルバム!」の記事で書いた通りです。その時のこのアルバムのレビュー記事がこれ。

例によってこの記事でアルバム内容についてはつぶさにレビューしているので詳細はそちらをご覧頂くとして、自分にとってのこのアルバムの最大の魅力は、アルバム全体を包むゆったりとしたアメリカーナ・サウンドによって作り出されるレイドバックなグルーヴで、ちょっとハイトーンなボーカルでケイティが自分のエモーションをオープンに表現しているような、そんな感じが心にぐっとくるというところなんです。レイドバックなんだけどエッジが少し立っている、という意味では、今回のランキング20位に挙げたエイドリアン・レンカーとかと通じるところがあるような気もします。上記の記事を書いた時は、この作品が彼女との出会いだったので、過去作品に遡って彼女の心境の変化を辿ってみたい、と書いたのですが、今日現在まだそれは実行できてません。2021年への宿題ですね。

そしてこのアルバム、今回のグラミー賞では残念ながらガン無視でしたが、音楽メディアの評価は軒並み高く、ピッチフォーク誌ペイスト誌が年間2位、アンカット誌コンシクエンス・オブ・サウンド誌が年間6位、ローリング・ストーン誌年間7位、SPIN誌ポップ・マターズ誌が年間9位と幅広いメディア各誌からの圧倒的な支持を受けている作品。女性シンガーソングライター、そしてちょっと個性的なアメリカーナ・サウンドに興味のある方、絶対オススメですので。

6. Punisher - Phoebe Bridgers (Dead Oceans)

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ある意味2020年を代表する女性シンガーソングライター、という意味でいうと、表がテイラー・スウィフトなら、裏の代表はこのフィービー・ブリッジャーズなんじゃないか。それほど彼女は今年この『Punisher』でクリエイティブな面でも大きな飛躍を遂げたようですし、実際音楽メディアの評価も含めて、シーンでの高い評価を集めた、今注目の女性シンガーソングライターです。そして今度のグラミー賞でも、最優秀新人部門ノミネートの他、最優秀ロック・パフォーマンスと最優秀ロック・ソング部門にお茶目でアップビートなナンバー「Kyoto」でノミネート、そしてこのアルバムは堂々最優秀オルタナティブ・アルバム部門にノミネートされるという注目のされ方で、このうち彼女がいくつ受賞するのかが今から楽しみなところ。このアルバムも、今年の8月にここnote.comでの「新旧お宝アルバム!」で熱いレビューを書いてますので、そちらを是非ご覧下さい。

先ほど9位のマット・バーニンジャーのところでも触れましたし、上記のレビューでも書きましたが、この3月に彼女のライブをザ・ナショナルの来日公演のオープニングで見れるはずだったのですが、残念ながらその公演自体が中止になりましたし、その後フジロックにもブッキングされてたんですがそっちも延期で、未だに生フィービーを見れてないのが残念なところ。彼女も日本に行くのを楽しみにしていた様子で「Kyoto」のPVでは彼女のトレードマークでもある骸骨シャツを着て、グリーンスクリーンに映し出された日本の風景をバックに喜々として歌う様子も見せるなど、とってもお茶目。一方で、このコロナ禍によるロックダウンの影響を思わせるような、自分が見た悪夢を題材にした「Garden Song」やスタジアムに来た観客が殺される話が顔を出す「Halloween」、更には最後フィービーの絶叫で完結する「I Know The End」など繊細なイマジネーションと傷つきやすさが内在するような楽曲などに、彼女の才気とクリエイティビティの高さの一端を垣間見ることができます。

最近の彼女の話題としては、11月の大統領選が超接戦となった状況で、ネット上で「トランプが負けたらグー・グー・ドールズの「Iris」をカバーします!」と宣言。見事バイデンが勝ったので、仲のいい女性シンガーソングライター、マギー・ロジャース(ちなみに彼女の2019年のアルバム『Heard It In A Past Life』は自分の2019年年間ベストアルバムランキングの堂々1位でした。とっても素敵なメロディが満載されたコンテンポラリーなポップ作品なので是非聴いてみて下さい!)とのデュエットで「Iris」のカバーをネットで配信、これがビルボード誌Hot 100にもランキングされるという楽しい出来事がありました。ことほどさように自分の主張や考えはいろんな形で発信しながら、様々なアーティストと共演するなど(The 1975や、さっき名前の出たマット・バーニンジャー、そして最近ではヒップホップのキッド・カディとも共演してます)幅広い活動を展開しているフィービーグラミーでも表テイラーに対抗して是非旋風を巻き起こして欲しいですし、来年コロナが収まったらまた是非来日してもらってそのライブを生で見たい!と思う今日この頃なのでした。

さて、何とか除夜の鐘の前に6位までのカウントダウンをアップすることができました。最後のトップ5は、新年2021年早々にお届けすることになりますのでお楽しみに。では皆さん、ひとまずはよいお年を!


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洋楽の虜になり早45年、90年代は洋楽サークル「meantime」スタッフ。現在は都内でDJの傍ら、FBとnoteでのチャート情報・アルバム紹介、音楽評論家の吉岡正晴氏と毎年グラミー予想イベント登壇など活動中。https://www.facebook.com/masato.ata