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DJ Boonzzyの選ぶ2021年ベスト・アルバム:6位~10位

独断と偏見によるDJ Boonzzyの2021年アルバムランキング、いよいよトップ10です。

10.Little Oblivions - Julien Baker (Matador)

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メンフィス出身の女性シンガーソングライター、ジュリアン・ベイカーに出会ったのもやはりYouTube、5年ほど前のNPRタイニー・デスク・コンサートでのパフォーマンスでだった。一人でテレキャスを爪弾きながら、か細いながらしっかりした歌声で寂しげで透明感のある楽曲を歌う、まだ幼さの残る風貌の少女(この時彼女は多分20歳くらいのはず)に何だかぐっと引き込まれて、そこで演奏されていた曲の入った彼女のデビュー・アルバム『Sprained Ankle』(2016)、そして当時リリースされたばかりのセカンド『Turn Out The Lights』(2017)を買い込んで聴いてみた。前者はタイニー・デスクでのパフォーマンスのイメージ通りで、美しいメロディとローファイなギターやピアノ・サウンドで、自分の心情(孤独や、痛み、パートナーとの別れなどなど)を淡々と歌う作品で大変気に入ったのだが、後者は更に楽曲で彼女が表現する感情面をもう一歩突き詰めたような作品で、かなりヘビーな作風だったのでちょっとなかなか入り込めずに彼女に対する評価がはっきり定まらない時期がしばらく続いていた。

その後、別のアプローチでハマっていたフィービー・ブリッジャーズ、そして今年の年間ランキングの24位にも入れたルーシー・デイカスとの3人でのユニット、ボーイジニアスの作品も耳にしたところ、こちらは3人のバランスということもあってか、全体的にいい感じのアコースティックでアメリカーナ的な作風で極端にダウナーな感じでもなかったし、そこでのジュリアンのパフォーマンスもあのタイニー・デスクでのパフォーマンスを思い起こさせる、素直に心に響いてくるものだったので、これは次の作品が楽しみだな、と思っていた。

そこへ届いたのがこの『Little Oblivions』。冒頭の「Hardline」からいきなり、これまでの音数の少ない、アコギやピアノ中心のサウンドではなく、シンセの音色から始まってバンドサウンドが聞こえてきて、そのスケールの大きいサウンドに何だかうれしくなった。続く「Heatwave」、「Faith Healer」と次々に繰り出される同様にスケールの大きい、ちょっと同じテネシー出身のキングス・オブ・リオンの絶頂期だった『Only By The Night』(2008)の頃の雄大なロック・サウンドを彷彿させるような楽曲群(そしてその楽器を彼女がほとんど自分で演奏しているらしい)は、その後しばらくリモートで仕事をしながらこのアルバムをパワロテさせるには充分だった。
サウンドや作り出される音像は今回ガラリとアップグレードされたわけだけど、歌詞の内容はファーストの頃から一貫して、自己内省的な内容が多く、薬物摂取やパートナーとの別れの悲しみや痛み(彼女も16位にランキングしたスネイル・メイルリンジー同様、ゲイを公表している)、自分の性的指向やメンタル、宗教的(クリスチャン)な観点からの罪悪感などなど、いずれも微妙なテーマを淡々と歌っているもの。そういう観点からいうと、彼女もまたジョニを先頭とする女性シンガーソングライターの系譜を受け継ぎながら、21世紀の現実(薬物摂取、LGBT+的観点などなど)を織り込みながら確固たる自分の世界観を今回も変わらず提示していると言える。

彼女の新しいバンドサウンドを音的に楽しむのもいいし(彼女の透明感あるボーカルはバンドサウンドをバックにしてもかなり魅力的な表情を聴かせてくれる)、歌詞を読み込みながら、彼女が何をそれぞれの曲で語っているかを考えながら聴くのもいい、そんなアルバム。当然というかインディロック系寄りの音楽メディアでの評判は高く、コンシクエンス・オブ・サウンド誌(15位)、ペイスト誌(36位)、スラント誌(41位)などの年間リストに選ばれてる。しばらくは彼女の作品、追っかけていく価値はありそう。

9.Pressure Machine - The Killers (Island)

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前作『Imploding The Mirage』(2020)を「全米アルバムチャート事情!」のブログで論評するために、久しぶりにキラーズを聴いて、彼らがデビュー当時『Hot Fuss』(2004)や『Sam's Town』(2006)の頃から一皮も二皮もむけたいいバンドになってて、楽曲レベルも高く、いろんな自分好みのアーティスト達(リンジー・バッキンガムや、ザ・ウォー・オン・ドラッグスら)も参加してて気に入ってたのに、アルバム購入しそこなっているうちに2020年にアルバムランキングに入れ損なったのがちょっとトラウマになっていて。なので今回彼らの新作(UKではデビュー以来7作連続ナンバーワンを記録)はすかさず購入(ついでに前作も購入w)して聴き込みました。そしてまたまたちょっと驚いたのは、今回のアルバムがかなりアメリカーナ的なアプローチのフォーキーなロック・アルバムになっていたこと。友人で音楽ジャーナリストの沢田太陽君が「ハートランド・ロック」と評していたけど、確かに『Nebraska』の頃のブルース・スプリングスティーンや、もっと言うと『Joshua Tree』のU2の提示していたような音像とテーマが見事に表現されている気がします。

リーダーのブランドン・フラワーによると、自分が幼少時に育ったユタ州ニーファイをテーマにして、アメリカの地方の小都市における原風景を描こうというのがコンセプトらしい。その辺は曲間に挟まれたそういった小都市の人々の会話と思われるサウンドビットなどで、強く印象づけられるつくりになってます。アップル・ミュージックのストリーミングでは最後にブランドンが登場する動画で、このアルバムの制作の背景などを、いかにもなアメリカの地方都市の街角(車が行き交うだだっ広い道路とあまり建物が建っていない区画で、いわゆる賑わっている街角ではない)で語ってて、このアルバムの背景を知るにはいいのでこのアルバムを聴いて興味を持った方は一見の価値ありです。

今回のゲストアーティストのハイライトは、元ニッケル・クリークサラ・ワトキンスが4曲でフィドルで参加している他、今回よく名前が出てくるフィービー・ブリッジャーズがアコギの弾き語りでブランドンとデュエットしているこのアルバムで一番『Nebraska』っぽい「Runaway Horses」。かように今回も自分の好みのアーティスト達がきっちり参加してくれていて、それも点数の高いところ。各音楽メディアも軒並み高評価で、メタクリティックは79点、スラント誌NME誌はそれぞれ年間ランキングで25位と30位に選んでます。しかしさっきのジュリアン・ベイカー同様、今回のグラミー賞からは完全に無視されてますね。でもそんなの関係なく、最近のロック・アルバムではかなりの好盤だと思います。少なくともグラミーでロック部門で3部門ノミネートのフーファイの今年のアルバムよりはかなりいいし、特にブルースU2の前述のアルバムがお好きな我々世代のシニアなロックファンにはかなりお勧めできる作品ですよ。

8.Jubilee - Japanese Breakfast (Dead Oceans)

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日本の朝食、ってバンド名ですが、ミッシェル・ゾーナーという韓国系アメリカ人がリーダーのオレゴン州出身のバンドの名前です。リーダーのミッシェル嬢が7年前に肝臓癌で亡くなった母親の闘病時のことを綴った回顧録『Crying In H Mart』を出版してそれがニューヨークタイムスのベストセラーリストに載ったこともあり、このアルバムが出た頃かなり音楽メディアでも取り上げられていて、しかも評価も高かったので、チェックしてみたところこれが当たり。

基本すごく良質のインディロック・ポップですが、曲によってはホーンやストリングス・アレンジを配したチャンバーポップ風だったり、「Be Sweet」とか80年代シンセ・ニューウェーヴ・ポップのミッシング・パーソンズ風だったり、はたまた今風打込みトラックにポップなメロディを乗っけた曲だったりとミッシェルが書いている楽曲もバラエティ満点。そしてそこに乗っかるミッシェルのボーカルがドリーミーな感じで気持ち良し。これも一発でリモートの日々のパワロテになったのでした。

このアルバムが3作目になりますが、今回初チャートイン(BB200 56位)してブレイクしたということで、今回グラミー賞の新人賞部門にもノミネートされるなど更にメディアの注目を集めているこのアルバム、各音楽メディアの評価も軒並み高く、メタクリティックは何と88点、各誌の年間ランキングでもスラント誌1位、コンシクエンス・オブ・サウンド誌2位、ペイスト誌5位、ローリング・ストーン誌11位、あのピッチフォークも14位と、大絶賛状態。正に2021年を代表するインディ・ポップ作品としての評価になってます。今時のロック寄りのポップを確認したいシニア洋楽ファンにオススメです。

7.Call Me If You Get Lost - Tyler, The Creator (Columbia)

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2020年代に入ってとにかくヒップホップのアルバムで「これはいい!」ってのがめっきり少なくなってきていて。最近のヒップホップというとどうしてもトラップ・ビート(シカゴではドリル、という亜流もあるようだけど違いがよく判らん)が主流でどうもティーンエイジャーのヒップホップ・ヘッズ達はトラップ系が大変お気に入りのようなんですが(うちのヒップホップ・ヘッズの息子もそうです)、どうもこれがワンパターンに聞こえてしまって。フロウがタイトでカッコいい、とかバックトラックに手がかかってて渋い(例えば今年だとJ.コールの『The Off-Season』なんかはそう)、というのもたまーにはあるんですが、もう単に無機質にあのチキチキハイハットビートとドヨーンとしたシンセ打込みサウンドが延々と続くパターンも多くて。これも一重に最近の楽曲ロイヤリティの法的環境からいって、オールドスクールのヒップホップ・スタイルだとどうしてもサンプリングに著作権料が膨大にかかってしまうことによる弊害なんでしょうか。

そんな中、砂漠の中のオアシスのごとく届けられたのが、タイラー、ザ・クリエイターの6作目『Call Me If You Get Lost』。凡百のトレンドに流されない、彼の唯一無二の作風は以前から好物だったわけなんですが、今回もゲスト・ミュージシャンには自分の作品ではトラップ基本なヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲイン(YBNBA)とか、リル・ウジ・ヴァートとかが参加していながら、トラップ・ビートなどというものは皆無、その代わりアルバム全編を埋め尽くしているのは90年代ヒップホップ、特にデ・ラ・ソウルトライブらのいわゆるネイティブ・タン系の作品を彷彿とさせるような、様々なビートやサウンドビット、そしてR&Bやイージーリスニングの楽曲のサンプリングがちりばめられた目くるめく万華鏡のように渦巻くソニックワールド、素晴らしい!

シングルでヒットした「WusYaName」など、先ほど名前の出たYBNBAタイ・ダラ・サインと最近の連中をちゃんとバースで参加させながら、トラックは懐かしやHタウンのR&B楽曲をサンプリングしたもので、若い連中も結構楽しそうにパフォーマンスしてるし、リル・ウェインをフィーチャーした「Hot Wind Blows」もメローなジャズ・フルートのサンプリングをバックにタイラーがいい感じでラップしてるし。「Massa」での冒頭のドラムサンプリングの入り方とか無茶苦茶気分だし。やっぱりヒップホップ、こういうアプローチでやれば楽しいレコードできるじゃないか、とタイラーには改めて認識させてくれたことに感謝です。このアルバム、ヴァイナル買おうと思ってずっとストリーミングで聴いてたのだけど、なかなかヴァイナル出る雰囲気がなく、この年間アルバムランキングに入れるために最近しかたなくCDを買って置いておいたら、たまたまそれを目にした末娘が「え、何で今頃これ買ってんの?これ、全部いいよね」って言ってくれたがオヤジとしては最近結構うれしかったねえ。

アルバム全体がかの文豪ボードレールに名前を借りた架空のキャラ「タイラー・ボードレール」(そのキャラのパスポート写真がジャケになってて、あのオール・ダーティ・バスタードの1995年のアルバム『Return To The 36 Chambers: The Dirty Version』のジャケ写へのオマージュっぽい)がフランスからイタリアから世界中を旅する、というのが今回のアルバムのコンセプト。この辺も、犯罪系かブリンブリン系かエロエロ系に走る、そんじょそこらのトラップ連中とは一線を画しているし、このアルバムがヒップホップ作品として2021年を代表する重要作品といえる所以ですね。90年代に浴びるようにヒップホップを聴いていたアラフォー洋楽ファンに是非聴いて欲しい一枚です(え?とっくに聴いてるって?こりゃまた失礼しました)。

6.Long Lost - Lord Huron (Whispering Pines / Republic)

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このLAのインディ・ローク・ロックバンド、ロード・ヒューロンも今年始めて出会ったアーティストの一つ。これもたまたま「全米アルバムチャート事情!」でカバーする必要性から、今年の7月にチャートインしてきたこのアルバムをざっと聴いてみたところ、何とこれがちょっとプログレッシヴな感じのインディー・フォーク・ロックをやる、僕のツボのバンドだということが判明。ちょうど2013年に偶然出会ってハマってしまったフォスフォレッセントR.E.M.と同じジョージア州アセンズ出身のマシュー・ホウクのソロプロジェクト)の『Muchacho』というアルバムにも雰囲気が似ていて、何となく年代不明な、フォークロックのようなロカビリー・カントリーのような、独得の音像を展開するこのロード・ヒューロンはこれがもう4作目らしく、前作の『Vide Noir』(2018)は何と全米トップ10アルバムだったらしいんだけど、自分のアンテナには全くひっかかってなかったのです。こういうサウンドなら聴いたら絶対引っかかるはずなんですが、知らないというのは恐ろしいもので

何しろオープニング、ゴスペルコーラスのようなサウンドからいきなりアコギの弾き語りがテープサンプリング的に挿入、終わって拍手が入ると、リヴァーヴが利いたギターが入って来てテックスメックスっぽいサウンドの本篇が始まる、という「The Moon Doesn't Mind」一つを取ってもこのバンドが一筋縄ではいかない連中だというのは明らか。このアルバムのジャケもそうですが、そのサウンドや楽曲はどれも不思議な魅力を備えているものばかりなんですよね。あと、楽曲の間数カ所に挿入されている、1950年代のアメリカのTV番組の一部から持ってきたと思われるサウンドビッツもアルバム全体のアメリカン・クラシックなイメージを効果的に醸し出してますねえ。何だか1950年代のアメリカ南部のライブハウスにタイムスリップしたような、そんな不思議な雰囲気のアルバムです

同じく個性的な女性フォーク・シンガーソングライターのアリソン・ポンティエをフィーチャーしたカントリーっぽいバラードナンバーの「I Lied」なんかはクリス・アイザックマーゴ・スミス(これも自分お気に入りの、あのホワイト・ストライプスジャック・ホワイトが見出した女性カントリーシンガー)がデュエットしてるような不思議な感じですし(すいません、よく判らない例えで)。

そして極めつけはアルバム最後を飾る14分を超える大作「Time's Blur」。いわばプログレッシヴ・フォーク・ロックとでもいうべき長尺の交響楽のようなサウンドスケープで迫ってくるスケールの大きいこの曲なんかを聴くと、こいつら何もんだ感満載で、彼らの過去の作品も聴きたくなってきますね。とってもユニークで素敵なものを聴かせてもらったということで今年最も印象に残ったアルバムの一つでした。一度お試しあれ。

ということで6位まで来ました。あとはトップ5を残すのみ、何とか明日大晦日にアップできるか微妙ですがこうご期待。

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