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今週の全米アルバムチャート事情 #179- 2023/4/15付

すっかり暖かくなってきた今週、毎年吉岡正晴さんとのDJ&トークイベント「ソウル・サーチン・ラウンジ〜グラミー賞大予想〜」で、DJを務めて下さっていたDJ OSAこと清水修さんの訃報が飛び込んで来て大きなショック。吉岡さんとのイベントでは大変お世話になったし、それ以外でも赤坂のレコードバーなどで回すのを聴きに行かせて頂いたりととても身近な方だっただけに、有名人の訃報とは全く別の次元でショックだ。来年のグラミー賞イベントではもうOSAさんがいないなんて信じられない、そんな喪失感でいっぱい。ただただご冥福を心よりお祈りします

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

何とか気分を取り直して今週4月15日付のBillboard 200、全米アルバムチャートのトップ10と初登場アルバムを今週もご紹介。といっても、今週もやはりモーガン・ウォレンの『One Thing At A Time』がわずか先週比12%のポイント減、173,000ポイント(うち実売8,000枚)と先週予想した15万ポイントを大きく上回って、5週目の1位をキープしてしまっています。

Hot 100の方でも先週1位初登場のジミンを蹴落として「Last Night」が何と4週ぶりに通算2週目の1位に返り咲いた模様。毎週言ってますが「ホント、アメリカ人どんだけモーガン野郎好きなんだよ」って感じ。このアルバムの収録曲を見ると、全36曲中、モーガン自身が共作してるのって半分以下の13曲。テイラーとかとはレベルが違うね。内容もビールの歌、ウィスキーの歌、イエス・キリストの歌、ちょっとヒップホップをサンプリングしてみた曲、そして1998年のアトランタ・ブレーブスの歌など、ステレオタイプな曲か、何となくウケ狙いの曲も多くて何かやはり薄っぺらく聴こえてしまうのは偏見でしょうか。

"Portals" by Melanie Martinez

それより今回驚いたのはニューヨークはクイーンズ出身で、10年くらい前にはNBCのコンテスト番組『The Voice』で一躍注目を集めたメラニー・マルティネスのサード・アルバム『Portals』が142,000ポイント(うち実売99,000枚で今週のアルバム/セールス・チャートダントツの1位)という普通なら充分1位を狙えるポイント数で2位初登場してきたこと。でも改めて確認したら、2015年のデビュー作『Cry Baby』(6位)以来3作連続トップ10で『The Voice』以降しっかりアルバムチャートでは実績を積み上げてたんですね。自分がこの「全米アルバムチャート事情!」を始める2020年の前のことだったので、正直認識ありませんでした。今回UKアルバムチャートでも2位初登場してます。

今回はそのデビューアルバム以来タッグを組んでるワン・ラヴことティモシー・ソマーズを始め、若手のサウンドメイカーたちと組んだ、ドリーミーでエレクトロでエモな感じの今風ポップの世界を展開している内容ですね。ちょっとファンタジー風のヴィジュアルを駆使したMVやジャケ、そしてメラニー自身のメイクも印象的。一時期はSpotifyのランキングで上位に入って、グローバルにガンガンに聴かれてるみたいです(USの4/9付デイリーチャート200にも47位の「Void」を筆頭に5曲ランクインしてます)。聴かれてるだけじゃなくてちゃんと実売も稼いでるあたり、地力を感じますね。しばらく要注目だと思います。

"Call Me If You Get Lost: The Estate Sale" by Tyler The Creator

今週は上位のチャートがにぎやか。3位には初登場ではないのだけど、タイラー・ザ・クリエイターのナンバーワン・アルバム『Call Me If You Get Lost』が8曲追加したデラックス・バージョン『The Estate Sale』エディションのリリースで、先週の137位から一気に3位に急(再)上昇して、約1年ぶりにトップ10に復帰してます(68,000ポイント、うち実売11,000枚)。前回トップ10にいたのは、1年前の2022/4/30付チャートで、ヴァイナルリリースで、その時も120位→1位(通算2週目の1位)だったんで、こういうチャートアクション得意なアルバムなんですな(笑)

このアルバム自体、自分の2022年の年間アルバムランキング7位に入れたくらい、自分もとっても気に入ってたアルバムですし、何といってもR&Bでもヒップホップでもない、タイラー・ワールド全開!といった彼独自の世界観(彼が架空のキャラになって世界を旅する、というコンセプト・アルバム)を作り上げているので聞き飽きません。今回追加の8曲はちゃんと聴いてないのでちょっと改めて聴き込みたいと思います。

"The Record" by boygenius

そして続けて4位に67,000ポイント(うち実売53,000枚)で堂々初登場を果たしてきたのは、フィービー・ブリッジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスの3人の今最もインディ・ロック・シーンで旬の女性シンガーソングライター達によるスーパーグループ、ボーイジニアスの初フルアルバム、その名も『The Record』。既にボーイジニアスとしては2018年にデビューEP『Boygenius』をリリース、彼女らのファン達を興奮させてましたが(自分もその一人w)今回晴れてフルアルバムデビュー、しかも初チャートインでこの順位に入ってきました。更にUKでは今週初登場1位です!(パチパチパチ)

EPリリース時はまだフィービーがアルバム『Punisher』(2020年全米43位、全英6位)のヒットと、グラミー賞の新人賞・ロック部門で複数ノミネートされるなど大ブレイク前だったし、ジュリアンは『Little Oblivion』(2021年全米39位、全英51位)、ルーシーは『Home Video』(同全米104位、全英85位)でそれぞれ脚光を浴びる前だったので、この間にどんどんこのグループに対する期待がマグマのように溜まっていって、今回の大ブレイクにつながったことは間違いないところ。冒頭3人の共作によるアカペラの小品「Without You Without Them」では3人の見事なハーモニーがこの作品への期待を盛り上げてくれ、そこからは基本それぞれの作品を順番に聴かせてくれるというフォーマット。お馴染みの浮遊感溢れる中にも時々エッジが感じられるフィービの曲、エレクトリック・ギター・サウンドをコアに据えてカタルシスを呼ぶ感じのジュリアンの曲、そしてオーセンティックなシンガーソングライター・スタイルを感じるルーシーの曲など、三人三様の楽曲が楽しい。そしてポール・サイモンにインスピレーションを受けたという「Cool About It」などの3人共作曲ではそれらが渾然一体となって、高いレベルのミュージシャンシップを実現してます。メディアの評価も当然高く(メタクリティック90点!)、今年の自分のベストアルバムランキングにも入ってきそう。なお、レコードだと最後の「Letter To An Old Poet」が終わると、針飛びしているかのように無限ループに入るというお茶目な仕掛けもあります。

"I Am Music" by Lil Wayne

ということ今週はトップ10の上の方が賑わってますが、圏外11位から100位までの間にも5枚初登場とこちらも賑やか。筆頭の25位初登場は、リル・ウェインのベスト盤『I Am Music』。彼としては初のベスト盤ということで、懐かしや2008年のナンバーワンヒット「Lollipop」(フィーチャリング・スタティック・メイジャー)から、2018年の『Tha Carter V』(1位)からのシングル「Mona Lisa」(2位、ケンドリック・ラマーをフィーチャー)と「Uproar」(7位)までのヒットがカバーされてます。そこに今年リリースのDMXのサンプリングをフィーチャーした「Kant Nobody」(先週1週だけ66位w)が新曲として追加されているというセット。

彼もその『Tha Carter V』以降『Funeral』(2020)もナンバーワンアルバムなんですが、シングルヒットという意味ではジャック・ハーロウの「Whats Poppin」やDJキャレドの「God Did」とかにフィーチャーされてるくらいでピンのヒットが出なくなってからもう5年くらい。ベスト盤出すにはいい時期でしょうが、今年は久々の新作も予定されてるみたいなので、ピンでの復活を期待しましょう。

"The Great Escape" by Larry June & The Alchemist

続いて32位に初登場してきたのは、サンフランシスコの中堅ラッパー、ラリー・ジューンが同じくベイエリアのベテラン・ラッパー、アルケミストと組んでリリースした『The Great Escape』。直近のピンでのアルバム『Spaceships On The Blade』(2022年39位)も含めてここ2〜3枚はインディ系のR&B/ヒップホップ作品の配給を一手に仕切っているエンパイヤからのリリースでチャートインが定着してきたようです。

いかにも西海岸ラップ、それも60〜70年代オールドスクールっぽい雰囲気満点のルースでだるーい感じのフロウが、テンション高いチキチキトラップが跋扈している最近ではなかなか新鮮ですね。昔のブラック・ムーヴィーあたりの映像にバッチリ合いそうな、そんなトラック満載です。

"Timeless" by DaVido

37位に入ったのは最近流行りのナイジェリア系アメリカ人シンガー、ダヴィドの4作目にしてチャートイン2作目『Timeless』。100位位内のチャートインは今回初で、最近のアフロポップの波にうまく乗ってブレイクしてきている感じ。UKでは今週何と10位初登場で、ブレイク具合ではUKの方が上ですね。

内容はいかにもアフロポップ、といった感じのパーカッシヴなトラックや、ジャマイカのダンスホールっぽいビートの曲、エレクトロなヒップホップ系のトラックなどなど、今風の売れ線を手堅く押さえたアルバムという感じ。ゲストに同郷のアサケザ・ケイヴメン、ナイジェリア系イギリス人ラッパーのスケプタの他、ベテランR&Bシンガーのアンジェリーク・キジョーなども迎えてます。

"I'm Really Like That" by DJ Drama

ぐーっと下がって67位初登場は、最近こいつもDJキャレド同様、自分の名前を曲の頭でがなり立ててうるさい(笑)DJドラマの何とこれで通算29作目になるアルバム『I’m Really Like That』。この人、過去にトップ10アルバムもある(ジージーとコラボした2022年の『Snofall』9位)んですが、基本年に1回くらいしかチャートインしないのに、今年は1月に11位に入ったフレンチ・モンタナとのコラボ盤『Coke Boys 6』に続く2枚目のチャートインアルバムになってます。

スタイル的にはDJキャレドと全く同じで、タイラー・ザ・クリエイターリル・ウェイン、リル・ベイビー、ジャック・ハーロウ、ウィズ・カリファといった有名どころのラッパーを全曲に配して自分で曲作ってるんだかどうか判らないヤツです。同じように叫んでるし(笑)。まあ今時のヒップホップのオムニバス・アルバム以上でも以下でもないですかね。

"House Of Tricky: Doorbell Ringing: 1st Mini Album" by xikers

そして今週最後の100位内初登場は、75位に飛び込んできた、これがピカピカのデビュー盤になる、Kポップ10人組ボーイズグループのサイカース(xikers)の『House Of Tricky: Doorbell Ringing: 1st Mini Album』。いやあKポップ相変わらず強し、Hot 100の方ではニュージーンズフィフティ・フィフティなどのガールグループが躍進してますが、こっちのアルバムチャートでも次から次に新しいグループが登場しますね。

既に全米アルバムチャートでは今年1月に初のトップ10アルバム『Spin Off: From The Witness (EP)』(7位)を決めていたエイティーズ(ATEEZ)所属のKQエンターテインメントの事務所の後輩になるらしいです(笑)。17〜20歳のまあとにかく若いメンバーで固めた今時のKポップ・アイドル・グループ、ってな感じですね。このオジサンが登場するPVもなかなか笑えます。

ということで先週に続いて今週も100位までの初登場7枚と大賑わいだった全米アルバムチャート、いつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (5) One Thing At A Time - Morgan Wallen <173,000 pt/8,000枚>
*2 (-) (1) Portals - Melanie Martinez <142,000 pt/99,000枚>
*3 (137) (79) Call Me If You Get Lost ● - Tyler, The Creator <68,000 pt/11,000枚>
*4 (-) (1) The Record - boygenius <67,000 pt/53,000枚>

5 (5) (17) SOS ▲2 - SZA <64,000 pt/288枚*>
*6 (7) (24) Midnights ▲2 - Taylor Swift <61,000 pt/14,000枚>
7 (4) (2) Gettin’ Old - Luke Combs <54,000 pt/7,757枚>
*8 (9) (117) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <45,000 pt/1,493枚*>
9 (8) (18) Heroes & Villains - Metro Boomin <42,000 pt/7,664枚*>
10 (3) (2) Did You Know That There’s A Tunnel Under Ocean Blvd - Lana Del Rey <38,000 pt/25,000枚>

ということで先週に引き続き今週も賑やかだった(でもモーガン野郎は1位に居座った)「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後にいつもの来週の1位予想です。来週のチャートの集計対象期間は4/7~13ですが、来週のモーガンはさすがに15万ポイントは割ってくると思うので、15万規模を叩き出せる新譜があれば1位交代の可能性あるのですが、見渡すところうーんという感じ。トップ10に入って来そうなのはR&Bのダニエル・シーザー、ヒップホップだとNFレイ・シュレマード5年ぶりの新作、意外なところではリンキン・パークの『Meteora』の20周年記念盤あたりですが、いずれも15万ポイントはキツいだろうなあ。来週もモーガン野郎の天下の可能性が高そう。ということでまた来週。

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