今週の全米アルバムチャート事情 #107- 2021/11/27付
いよいよ発表された第64回グラミー賞のノミネーション、いやあ今年もいろいろと物議を醸す内容になってますねえ。詳しくは別途毎年やっているグラミー賞51部門受賞予想ブログシリーズの方でカバーしますが、ざっと見た感じで思った点を簡潔にまとめると、
1.事前アナウンスなしでいきなり主要4部門が8→10候補ノミネートになってびっくり
2.アメリカ以外では殆ど知られてないジョン・バティーストが11部門ノミネート、うち主要2部門ノミネートにびっくり
3.アメリカでも多分ほとんど知られてないパキスタンのアルージ・アフタブが新人賞ノミネートでびっくり
4.ブルース・スプリングスティーンまたまたガン無視(怒)
5.BTSあんなにヒットしたのに主要部門ノミネートなし
6.新人賞部門にもう8回もグラミー受賞してるビリー・アイリッシュのお兄ちゃん(フィニアス)がノミネートされ、今年大ブレイクしてノミネーションセレモニーにも出てたマネスキンはガン無視(涙)
とまあ、今年もいろいろやってくれてます。別ブログでこの辺、おいおい解説していきますね。また、2017年以来音楽評論家の吉岡正晴さんとやってるトーク&DJイベント「ソウル・サーチン・ラウンジ〜グラミー賞特集〜」は今年、今のところフィジカルで1/20(木)開催が決まりました。詳しくは上記の吉岡さんのnote.comのページで。
そして今週もこの「全米アルバムチャート事情!」連動のポッドキャスト、何とか明日までには配信したいなあ。先週までの配信は上記のリンクから聴けますのでそれまでこちらで。なお、このリンク、スマホからのアクセスは問題ないようですが、PC(Macだけかもしれませんが)からのアクセスがエラーになるようです。現在原因究明中ですが、お楽しみになるには是非スマホから。
ということで今週のBB200全米アルバムチャート、11月27日付の1位は、先週の大方の予想どおり、当然のごとくテイラー・スウィフトの再録企画第2弾、『Red (Taylor’s Version)』が605,000ポイント(うち実売369,000枚!)という、今年2番目に大きいポイント(1位はドレイクの『Certified Lover Boy』の613,000ポイント)という予想通りのぶっちぎりで1位に初登場してます。そしてこの実売369,000枚というのは当然週間売上では2021年トップの売上枚数(従来の2021年の1位は、テイラー自身の『Evermore』がヴァイナル発売での4週目の1位に返り咲いた6月の192,000枚)というぶっちぎり具合。テイラーはこれでバーブラ・ストライザンドと並んで、女性ソロシンガーでは最多ナンバーワンアルバム10作目になってます。
リリースに合わせて先々週の週末にはNBCの人気番組『Saturday Night Live』に音楽ゲストとして出演、このアルバム収録の「All Too Well」のテイラーズ・バージョン(今回アルバムでは10分を超えるバージョンを収録)を披露するなど、プロモーションもそつなく展開してますから、まあこの成績は当然といえば当然でしょう。今回のテイラーズ・バージョンには、オリジナル『Red』デラックス・バージョン収録の20曲に加えて、チャリティ・シングルのみリリースだった「Ronan」(2012年16位)、彼女がそれぞれリトル・ビッグ・タウンとシュガーランドに書いた「Better Man」と「Babe」の自演バージョンの他、蔵出し音源を含む全30曲からなるこのアルバム、今回はCDやデジタルだけでなく、ヴァイナルも同時発売で、そのヴァイナルの売上も114,000枚と、これまでの週間売上記録を更新しています(これまでの記録は、今年6月のこれまたテイラー自身の『Evermore』の102,000枚)。
そして今週はさっき触れた「All Too Well (Taylor’s Version)」が何とHot 100で初登場1位。正しく今週はテイラー一色の週だったわけです。でも来週はもっと凄いことになりそうですよ。それについては後ほど。
テイラーのこんなマンモスヒットアルバムがリリースされてなければ充分1位になっていたはずだったのが、今週2位に104,000ポイント(うち実売42,000枚)で初登場した、皆さんお待ちかねのシルク・ソニック(ブルーノ・マーズ&アンダーソン・パーク)の『An Evening With Silk Sonic』。今年を代表する一曲となった70年代ソウルへのオマージュたっぷりの素敵なナンバーワン・ヒット「Leave The Door Open」はちょうどアナウンスされたばかりの第64回グラミー賞ノミネートで、レコード・オブ・ザ・イヤー、ソング・オブ・ザ・イヤーの2大主要部門をはじめ最優秀R&Bパフォーマンスと最優秀R&Bソングの計4部門にノミネート。きっと最低でもR&B部門は取るでしょうね。いやホントにこの曲は今年あちこちで聴きましたよねえ。自分も大好きで、多分今年の個人年間シングル・ランキングの1位は堅いところです。
今現在3曲目のシングル「Smokin Out The Windown」がHot 100で5位上昇中のこのアルバム、何と残念なことにヴァイナルだけがリリースされてないんですけど、こんなに70年代ソウルへのオマージュ満点の作品なんで、絶対ヴァイナル出るはず!と思って自分、まだフィジカルは買ってません。あのファンクの大御所、ブーチー・コリンズがこのユニットの結成には一役買ってるというのがちょっと意外でしたが、是非早くヴァイナルを出してもらって、まったりとこの盤を楽しみたいものです。
と、この1位と2位はまったく意外でもなく、超順当だったんですが、これに続いて3位に初登場してきたアルバムを見てぶっ飛びました。何と、あのKポップの9人組ガールグループ、TWICEの3作目のフルアルバム『Formula Of Love: O+T=<3』が彼女らのこれまでのBB200でのチャートイン記録、今年6月にリリースしたEP『Taste Of Love』の6位を更新して自己最高位を記録しちゃったのです。先週の予想ではトップ10に入ってくるかどうか?なんて言ってたのが申し訳ないくらいの勢いで、ポイントは66,000ポイント(うち実売が58,000枚、これってテイラーがいなければアルバム・セールス・チャート余裕で1位の枚数です)と堂々たるチャートインです。
しかも皆さんもご存知の通り、TWICEには日本人メンバーが3人(モモ、サナ、ミナ)いるということで、この作品は日本人及び日本人メンバーのいるアーティストによる歴代7作目のBB200トップ10アルバムになったわけです。いやあこれは凄いことですねえ。シングル「The Feels」もこのアルバムリリースに先立ち10月にHot 100に初チャートイン(83位1週)したということで、これはあのピコ太郎の「PPAP」以来の日本人絡みのHot 100ヒットですよねえ。しかしアルバムの内容のこと、一つも解説してませんが(笑)「The Feels」なんかはBTSの最近の曲同様、70〜80年代ダンクラ・ナンバーのオマージュっぽいキャッチーなナンバーなんで、理屈抜きに楽しめそうな作品ではあります。いやいやしかしここ数週間Kポップがなりを潜めてたと思ってたらドーンと来ましたな。
そして久々に大層賑やかな今週のトップ10内初登場最後は8位に飛び込んできた、カントリーの中堅シンガー、ジェイソン・オルディーンの10作目にして9作目のトップ10アルバムとなった『Macon』。ポイントは37,000ポイント(うち実売が19,000枚)です。メイコン、というのは彼の出身地であるジョージア州メイコンのことで、来年4月リリース予定の『Georgia』と合わせてダブル・アルバム・プロジェクトの第一弾、ということのようで。これ、今年エリック・チャーチが『Heart』(3位)『&』(83位)『Soul』(4位)と3枚で同時発売でやってたのを、2枚で時間差でやるっていうアイディアですねえ。最近のカントリー界のはやりのマーケティング手法なのか、同時に発売しない理由って何なのでしょうか。2回チャートランが稼げるとか、2枚目のアルバム用の曲がまだ終わってないとか(笑)。
ジェイソンといえば、そのエリック・チャーチやルーク・コムズ、トーマス・レットら、今のカントリー界を代表する男性カントリー・シンガーの一人で、アルバムも過去9作中7作がカントリー・アルバム・チャート1位で、BB200でも5作がナンバーワン、前作までBB200でも8作連続トップ5だったんですが、今回はやや低めの8位。現在キャリー・アンダーウッドとのデュエット・シングル「If I Didn’t Love You」がヒット中で、19曲目のHot 100でのトップ40ヒット(最高位15位)と快調です。彼は2011年にジョージア出身つながりで、あのリュダクリスをフィーチャーした「Dirt Road Anthem」で初の(そして現在唯一の)トップ10ヒット(7位)を記録したり、2010年の「My Kinda Party」(39位)では「テールゲート・パーティしながらレーナード・スキナードやハンク・ウィリアムスで和むの、最高だぜ」とのたまったりしている、まあ良くも悪くも南部ラブの伝統的レッドネック・カントリー・シンガー。ただ、音はレーナード引き合いに出すくらいで、メインストリーム・カントリーといってもロック寄りのところが例えばドートリーとかのファンも含めて広く人気を呼んでるあたりでしょうか。
ということで今週のトップ10内初登場4作、しかしいずれも結構重量級でしたねえ。さて今週のトップ10圏外100位までの初登場アルバムは5作。こちらも順番に行きましょう。まず13位に初登場、わずかにトップ10を逃したのは、ジョージア州ディケイター郡出身のラッパー、マネー・マンことタイセン・ジェイ・ボールディングのミックステープ『Blockchain』(タイトルが今時ですねえw)。
彼はこれまで4作ほどミックステープがBB200のトップ100にチャートインしてるんですが、去年2作前のミックステープ『Epidemic』(24位)収録の曲「24」が、リル・ベイビーをフィーチャーしたリミックスが出てヒット(Hot 100 49位)したようで、この余勢を駆っての今回の5作目の(そしてこれまでの最高順位の)チャートインということでしょう。ちょっと前のフューチャーを思わせる、マンブル系のトラップ・ラッパーです。
続いてリル・ベイビーではないダベイビーの2枚目の6曲入りEP『Back On My Baby Jesus Sh!t Again』が44位に初登場。2017年に出したミックステープ『Back On My Baby Jesus Shit』の続編的位置づけのようですが、今回もEPと言いながら、フィジカルなしのダウンロードとストリーミングのみのリリースのようです。 ロディ・リッチをフィーチャーしたナンバーワンヒット「Rockstar」収録の前作ナンバーワンアルバム『Blame It On Baby』から1年以上間が空いたので、ここらでつなぎ、という感じなのかもしれません。コダック・ブラックや21サベージとのコラボナンバー収録。今年はデュア・リパとコラボしたり、ロラパルーザでゲイ差別発言で叩かれたりと浮き沈みの激しい一年でしたが、来年あたり新作でまた盛り返しを計るんでしょう。
ぐっと下がって79位に初登場してきたのは、テキサス州フォート・ワース出身の今年41歳のカントリー・シンガー、コディ・ジンクスの10作目になる『Mercy』。ジャケ写に写る、ユダヤ教の宣教師かと思われるような山高帽と長ーいあごひげを生やしたコディ、キャリアのスタートはスラッシュ・メタル・バンドのボーカル兼ギタリスト、というからなかなか異色です。
サウンドは、昔でいうとマール・ハガードやウェイロン・ジェニングス、最近だとスティーヴ・アール辺りのいわゆるアウトロー・カントリー・シンガーの系譜を受け継いだ、無頼派っぽいスタイルのシンガーですね。この2020年代に無頼派カントリー、というのもなかなか時代を感じますが、サウンド的にはアメリカーナ・ロックっぽい感じで、スタージル・シンプソンやクリス・ステイプルトンあたりにも通じるコンテンポラリーさもあり、なかなか悪くないです。彼ははまた、これまでの10作中、2018年にBB200で11位と自己最高順位を記録した『Lifers』をメジャーのラウンダーズからリリースした以外は全て自主制作または自分のレーベルで出していて、なかなかインディ魂も感じさせる気骨のアーティストのようです。今回は79位とチャート的には奮いませんでしたが、アメリカーナ好きならちょっとウォッチしておきたいアーティストかもしれません。
そして懐かしい名前に思わずニッコリしたのは、87位に初登場してきた、ゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツの23作目になるというスタジオ・アルバム『Book』。90年代独自のスタイルで、同じ時代に活躍したカナダのベアネイキッド・レイディーズやウィーザー、ファウンテンズ・オブ・ウェインといったバンドたちに共通する、ちょっとウィットに富んだパワーポップ的なオルタナ・ロックを展開していたバンドでしたが、シングルヒットはほとんどないのでメインストリームに知られることもなく「知る人ぞ知る」といった感じのバンドでした。
その後2000年代はディズニーと提携して子供向けのアルバムを続々とリリースしていたということもあって、ロックの文脈で語られることもなかったので、彼らのことを知らない若いロック・ファンは多いと思います。2010年代以降は80年代からやってた、留守電のテープに曲を録音するという「Dial-A-Song」というお遊び企画に使った曲をアルバム化してリリースする、というまあなかなかユニークな活動をしていたんですが、今回は2013年の『Nanobots』(57位)以来の通常アルバムで、相変わらずのTMBG節を聴かせてくれてます。今回も全くの普通のアルバム・リリースということではなく、タイトル通り、同時に144ページの本もリリースされたようです(笑)。
今週最後の圏外初登場は、90位に入ってきた、エリーズ(Aries、牡羊座の意)というアーティストの『Believe In Me, Who Believes In You』。まだウィキにもページが作られていないこのアーティストは、カリフォルニアはオレンジ・カウンティ出身のチェスター・コーネリアス3世という今年23歳のサウンド・メイカーのようです。YouTubeで、フューチャーやドレイクのヒット曲をパーツに切り刻んで、それらの曲がどういう風に作られているか解説してたり(「ドレイクの「God’s Plan」を2分で作る方法」っていうビデオとか音作りやってる人ならハマると思う)してネット上のフォロワーを積み上げたエリーズは、2017年頃から自分で曲を作り出して、サウンドクラウドやスポティファイで公開、2018年にスポティファイでリリースしたシングル「Sayonara」は5,160万回のストリーミングを達成。
2019年に全曲自作で自主リリースしたアルバム『Welcome Home』が全世界で2億回ストリームを達成して、北米・ヨーロッパで敢行したツアーもソールドアウトだったというから、このオンライン・デジタル時代、世の中には知らないところでファンベースを作りあげてるアーティストがいるんだなあと改めて思ったもんです。彼の曲はヒップホップとR&Bテイストにエレクトロなビートを効かせたメインストリーム・ポップって感じで、最近のポスト・マローンとかを思わせる、こりゃ人気でるよなあ、って感じ。YouTubeやスポティファイで聴いてみて下さい。
ということで今週のトップ10と圏外100位までの初登場アルバムのご紹介でした。ここらでいつものようにトップ10のおさらいを。先週同様、*の付いた売上枚数はHits Daily Doubleのサイトからのデータです。今週も100枚単位でしか売れてないアルバムが3枚もトップ10入りしています(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数>)。
*1 (-) (1) Red (Taylor’s Version) - Taylor Swift <605,000 pt/369,000枚>
*2 (-) (1) An Evening With Silk Sonic - Silk Sonic (Bruno Mars & Anderson .Paak) <104,000 pt/42,000枚>
*3 (-) (1) Formula Of Love: O+T=<3 - TWICE <66,000 pt/58,000枚>
4 (1) (2) Still Over It - Summer Walker <64,000 pt/2,799枚*>
5 (3) (11) Certified Lover Boy - Drake <57,000 pt/440枚*>
6 (5) (45) Dangerous: The Double Album ▲ - Morgan Wallen <45,000 pt/2,465枚*>
7 (4) (3) = (Equals) - Ed Sheeran <38,000 pt/11,845枚*>
*8 (-) (1) Macon - Jason Aldean <37,000 pt/19,000枚>
*9 (13) (12) Donda - Kanye West <37,000- pt/847枚*>
10 (6) (21) Planet Her - Doja Cat <35,000 pt/275枚*>
さて今週の11/27付Billboard 200「全米アルバムチャート事情!」、いかがだったでしょうか。最後に恒例の来週1位予想ですが、これは既に本文中でも触れてるとおり、アデルで決まりです。集計対象期間は11/19-25ですが、19日にリリースのこのアルバム、既に最初の5日間の実売売上で2021年のトップ・セラー・アルバムに決まった、って言ってるくらいなので疑問の余地なし。それ以外でトップ10に入って来そうなのは、ヒップホップのフレンチ・モンタナ、ロバート・プラントとアリソン・クラウスのコラボ2作目、そしてスティングが入ってくるかどうか、といったところでしょうか。ではまた来週。
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