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今週の全米アルバムチャート事情 #189- 2023/6/24付

先週のこの記事を9割方脱稿した直後、火曜日の午後から急激な高熱に襲われて、生まれて初めてコロナ陽性を経験しました。何とか残りの原稿を書き上げてポストした後先週は完全隔離状態で土曜日まで熱に悩まされてひたすら寝る毎日。土日熱が下がってくるに従って今度はノドの痛みに悩まされて自分の生唾も飲み込むのに苦労するほど。やっと日曜日に症状が治まって、週明けから隔離終了して日常に何とか戻ってます。それでも体中の倦怠感がまだ今一つ抜けず、結構キツい咳が時折襲う状況で、改めてコロナの脅威を思い知った次第。五類になったとはいえ、皆さんも是非充分注意されて下さい。

"One Thing At A Time" by Morgan Wallen

さて今週6月24日付のBillboard 200、全米アルバムチャート。先週期待したジェリー・ロールのポイント積み上げはなく(それどころか今週はトップ10圏外19位に下降しちゃいました)、予想通りナイル・ホーランも10万ポイントは叩き出せない中、危惧した通り、消去法的に今週もわずか4%減で111,500ポイント(うち実売4,500枚)をキープしちゃってるモーガン野郎の『One Thing At A Time』が2週間ぶりに首位に返り咲き、通算13週目の1位を記録してしまいました。

この13週1位で、去年のバッド・バニーUn Verano Sin Ti』、ドレイクViews』(2016)、アナ雪サントラ盤(2014)の記録と並んでしまったモーガン野郎、アデルの『21』の記録(2011〜12年に24週1位)にはさすがに届かないでしょうが、ここ10年では最大ヒットアルバムのタイ記録を作ってしまったということで改めて暗澹たる気分です。

"The Show" by Niall Horan

そのモーガン野郎に及ばず、80,500ポイント(うち実売68,000枚で今週のアルバム・セールス・チャート1位)で2位初登場に終わったのが、ナイアル・ホーランのサード・アルバム『The Show』。今週UKでは3枚連続1位の記録を決めてますが、USではデビュー・アルバム『Flicker』(2017)以来の首位、とはなりませんでした。ファースト以来のジュリアン・ブネッタワンダイ以来の付き合いであるジョン・ライアン、それに最近売り出し中のニュージーランド出身のプロデューサー、ジョエル・リトルの3人をプロデュース陣に迎え、手堅くキャッチーなシンセ・ポップ・ロック路線で統一したアルバムになってます。

先行シングルのオープニング・ナンバー「Heaven」はロクセットの「The Look」を彷彿させるビートが印象的ながら、後半は70年代AORロックっぽい展開をみせるなかなかの佳曲。続く「If You Leave Me」や「Meltdown」は盟友ハリー・スタイルズのアルバム曲を思わせるようなシンセR&Bポップ・ナンバーだし、レイドバックで70年代ウェストコースト・ロックを思わせるバラード「Never Grow Up」など、ナイアルの魅力全開の内容ですね。ところで全然話違いますが、ナイアルって大のゴルフ好きでシングル・ハンディ・プレイヤー、同郷のアイルランド出身、先週末全米オープンゴルフで惜しくも優勝を逃したロリー・マキロイとも親友で、2015年マスターズ大会ではロリーのキャディも務めたらしいです。え?どうでもいいって?失礼しました(笑)。

"Stick Season (We'll All Be Here Forever)" by Noah Kahan

一方、初登場ではないですが、昨年10月に圏外14位に初登場していたノア・カーンのサード・アルバム『Stick Season』が、ヴァイナル・リリースと共に、7曲を追加した『Stick Season (We’ll All Be Here Forever)』としてデラックス・リイシューされて、先週の100位から一気に今週3位に急上昇してきています(71,000ポイント、うち実売22,500枚)。

去年初登場した際にも書きましたが、ボン・イヴェールルミニアーズ、更にはフィービー・ブリッジャーズあたりの影響を強く受けていることを感じさせる、独得の世界観とポップ・センスを持ったフォーク系アメリカーナ・シンガーソングライター。その清冽な作風と歌声、出身地のヴァーモント州があるニューイングランド地方の歴史的で北部的な雰囲気がいっぱいのこのアルバム、改めて没入してしまいそうです。さっそくリリースされたばかりのヴァイナルを注文、到着が楽しみです

"Weathervanes" by Jason Isbell & The 400 Unit

さて今週はトップ10内初登場は1枚のみですが、11位から100位までの圏外には4枚。うちわずかにトップ10を逃したのが、ジェイソン・イズベル&ザ・400ユニットの通算9作目のスタジオアルバム『Weathervanes』。前作『Georgia Blue』が2021年10月のレコード・ストア・デイ特別盤で、ジョー・バイデンの2020年大統領選当選を祝う、ジョージア州出身のミュージシャンの楽曲カバー集だったので、純粋なオリジナル・アルバムという意味では2020年の『Reunion』(9位)以来ということになります。

リリースされるや高い評価を集めた『Reunion』はその年の自分の年間アルバムランキングでも14位に入れ、2020年は1月に400ユニットのメンバーで奥さんのアマンダ・シャイアと共に初来日、ビルボード・ライブで聴かせてくれた素晴らしくパーソナルでアコースティックなライブでもリリース前のこのアルバムからの何曲かが思い出深い作品でした。今回の『Weathervanes』もその『Reunion』のスタイルをしっかり継続した、マッスルショールズの出自を強く感じさせるソウルフルなジェイソンの歌声と節回しが素晴らしい、安定したアメリカーナ・アルバムに仕上がってます。ちょうどこのアルバムを録音する傍ら、ジェイソンは今年の秋公開予定のマーティン・スコセーシ監督、レオナルド・ディカプリオロバート・デニーロ主演の西部劇犯罪映画『Killers Of The Flower Moon』に俳優として出演していたらしい。彼の姿をスクリーンで見るのもなかなか乙かもしれませんね。

"The Age Of Pleasure" by Janelle Monáe

続いて17位は、先週トップ10に来るかも、と言っていたジャネル・モネイの5年ぶり、4作目になる『The Age Of Pleasure』。こちらも前作『Dirty Computer』(2018年6位)はその先進的なサウンドによるR&B・ファンクマナーが卓越した作品ぶりが絶大なるシーンの評価を受けて、第61回グラミー賞の最優秀アルバム部門にノミネートされるなど、その年の年間アルバムランキング上位を軒並み制覇(自分は2018年の年間12位に入れてました)した大ブレイク作でした。

前作はコンピューターやテクノロジーに満ちあふれた現代、というコンテクストでのアフリカン・アメリカン文化と音楽をどう表現するかというような切り口だったと思いますが、おそらく前作からの間に公開されたマーヴェル映画『ブラック・パンサー:ワカンダ・フォーエバー』の影響や、最近シーンでの存在感を増しつつあるアフロビートやアフリカン・ミュージックなどを俯瞰に加えた、よりパン・アフリカン的というかそんな視点になってる気がします。なので、前作のようなバウンシーでファンキーなナンバーよりも、全体にアフリカン・リズムを意識したようなミッドテンポの楽曲が多い気がしますね。個人的なハイライトは、あのグレイス・ジョーンズとの短い「Ooh La La」から、テンポダウンした2020年代『Nightclubbing』っていう趣のスライ・ダンバーも共作者に名を連ねるレゲエナンバー、「Lipstick Lover」。このアルバム、これから夏にかけてパワープレイになりそうです。

"Harmony: All In, 6th Mini Album (EP)" by P1Harmony

 ぐーっと下がってやあ、今週も入って来たなKポップ!ということで51位に初登場してきたのは、6人組ボーイズ・バンドのP1ハーモニーの全米初チャートインになるEP『Harmony: All In, 6th Mini Album (EP)』。相変わらずEPでまずブレイクする、というKポップの常套手段でまた新しいKポップのグループ登場、といったところ。所属はFNCエンターテインメントで、全米で所属アーティストがブレイクするのはこのP1ハーモニーが初ということになりました。

ボーカル3人、ラッパー3人でほぼ全員が当然ダンスする、というどちらかというとラップに軸足を寄せた音楽性なんでしょうか。シングル「JUMP」あたりを聴くと、ハードコアヒップホップゴリゴリ、という感じではなくちょっと80年代っぽいダンスポップに軽快なラップを時々乗っけるスタイルのようで、それ以外の曲もどっちかというとポップさを前面に出した作風のようですね。男女は違うけどフィフティ・フィフティとかにも通じるところがあってなかなか軽い感じでこれはこれで結構全米でも受けるかもしれません。

"Six" by Extreme

今週100位までで最後の初登場は、何と何と1995年のバンド解散以来15年ぶりの新譜となる、あら懐かしやエクストリームの通算6作目、その名も『Six』が67位にチャートインしてきました。エクストリームというと往年の全米ナンバーワン・バラード・ヒット「More Than Words」(1991)や「Hole Hearted」(同4位)などで日本でも根強い人気を誇るポップ・ハード・ロック・バンド。バンドはボーカルのゲイリー・シェローンヴァン・ヘイレン加入で一旦解散するのですが、1999年にゲイリーが事実上VHをクビになった後、2005年頃から、こちらも日本ではギターヒーローとして人気あるヌーノ・ベテンコートらのオリジナル・メンバーといろいろと活動を開始していたようです。ついこの間2016年には9回目の来日、2018年にはMr.ビッグ(こちらもかなり懐かしいがw)とのジョイントでオーストラリアからアジアツアーを敢行するなど、今回その気運が高まって久々の新作発表となったということのようです。

アルバムオープナーのハード・ナンバー「Rise」ではいきなりヌーノの速弾きギター・ソロが炸裂するという、長年新譜を待ち望んだであろうエクストリーム・ファンにはたまらん内容ですな。彼ららしいアップテンポのギター・メタル・ナンバーも満載の一方、「Other Side Of The Rainbow」のようなポップ・ミディアム・ロック曲やアコギが炸裂するバラード「Small Town Beautiful」などしっかり自分たちの意匠を届けてくれるアルバム構成はなかなかです。ちょうど発売されたばかりの『ヤング・ギター』7月号の表紙もヌーノが飾っていて、オールド・ハード・ロック・ファンはしばらく盛り上がるでしょうねえ。

ということで新旧取り混ぜて圏外の方がにぎやかな今週のチャート、ここでいつものトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (2) (15) One Thing At A Time - Morgan Wallen <115,000 pt/4,500枚>
*2 (-) (1) The Show - Niall Horan <80,500 pt/68,000枚>
*3 (100) (29) Stick Season - Noah Kahan <71,000 pt/22,500枚>

4 (5) (34) Midnights ▲2 - Taylor Swift <69,000 pt/17,000枚>
5 (7) (2) Spider-Man: Across The Spider-Verse (Soundtrack) - Metro Boomin’ <54,000 pt/1,164枚*>
6 (1) (2) 5-Star: The 3rd Album - Stray Kids <53,000 pt/44,278枚*>
7 (6) (3) Almost Healed - Lil Durk <50,000 pt/137枚*>
8 (9) (27) SOS ▲2 - SZA <49,000 pt/5,885枚*>
9 (11) (127) Dangerous: The Double Album ▲5 - Morgan Wallen <45,000 pt/835枚*>
10 (12) (199) Lover ▲3 - Taylor Swift <37,000 pt/6,158枚*>

またまたモーガン野郎がトップに返り咲いてしまった今週の「全米アルバムチャート事情!」いかがでしたか。最後にいつもの来週の一位予想です(チャート集計対象期間:6/16~22)。来週もモーガン野郎はギリギリ10万ポイントに踏みとどまるでしょうが、久しぶりにヒップホップの大型新譜、ガンナのアルバムがドロップされるのでおそらくこれが15万ポイントは稼いでモーガン野郎を撃墜してくれるでしょう。それ以外では同じくヒップホップの6ix9ine、ロックのクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジあたりがトップ10入りしてきそうです。ではまた来週。

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