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今週の全米アルバムチャート事情 #134- 2022/6/4付

いよいよ5月も終わって6月に突入。日本はそろそろ梅雨空の心配も始まる時期ですが、全米は先週末にまた起きてしまったテキサス州ユヴァルディでの学校銃乱射事件で、大きな闇に包まれてしまっています。更に当日の現地警察の対応不備が暴露されてしまい、アメリカの心ある人々の心痛は想像に難くないところ。しかし少なくともテキサス州では合法になってしまっている公衆での銃器携帯をまず禁止、免許制を厳格にして、18歳の高校生が誕生日に買ったショットガンを普通に持ち歩いて学校に侵入する、なんてことができないように法規制の厳格化が急務ですよね。それでも合衆国憲法修正第2条(銃器を保有する権利)を盾に、銃規制反対論者は「銃は悪くない、悪いのは撃った人間」と問題のすり替えするのみ(今回の犯人は精神やメンタルの障害の履歴はなかったとの報道です)で、やはりアメリカの闇はここでも深いと思わざるを得ない、そんな先週末でした。犠牲者の方々の冥福と、遅すぎる銃規制強化の実現をただただ祈るのみです

"Harry's House" by Harry Styles

さて気を取り直して今週の全米アルバムチャート、6月4日付のBillboard 200の1位は先週の予想通り、ハリー・スタイルズの3作目『Harry’s House』のぶっちぎりの1位でしたが、先週ケンドリック・ラマーが記録した、今年最高のポイント数を軽々と超えた521,500ポイント(うち実売330,000枚で、これも2022年の週間最大売上枚数)という予想を遙かに超える規模の1位になりました。50万ポイント超えの1位というのは2014年12月13日付チャートでストリーミングポイントが加算され始めてから、この8年弱でわずか20回で、今回のハリーの記録は歴代19位になります。ここでその50万超えのリストを見てみましょう(日付に*が付いているものはリリース初週)。

  1. 3,480,000 pt 25 - Adele (2015/12/12*)

  2. 1,238,000 pt Reputation - Taylor Swift (2017/12/2*)

  3. 1,190,000 pt  25 - Adele (2016/1/9 - 5週目)

  4. 1,160,000 pt 25 - Adele (2015/12/19 - 2週目)

  5. 1,040,000 pt Views - Drake (2016/5/21*)

  6. 867,000 pt Lover - Taylor Swift (2019/9/7*)

  7. 846,000 pt Folklore - Taylor Swift (2020/8/8*)

  8. 839,000 pt 30 - Adele (2021/12/4*)

  9. 825,000 pt  25 - Adele (2016/1/2 - 4週目)

  10. 732,000 pt Scorpion - Drake (2018/7/14*)

  11. 728,000 pt 25 - Adele (2015/12/26 - 3週目)

  12. 653,000 pt Lemonade - Beyonce (2016/5/14*)

  13. 649,000 pt Purpose - Justin Bieber (2015/12/5*)

  14. 613,000 pt Certified Lover Boy - Drake (2021/9/18*)

  15. 605,000 pt Red (Taylor’s Version) - Taylor Swift (2021/11/27*)

  16. 603,000 pt DAMN. - Kendrick Lamar (2017/5/6*)

  17. 537,000 pt Astroworld - Travis Scott (2018/8/18*)

  18. 535,000 pt If You’re Reading This It’s Too Late - Drake (2015/2/28*)

  19. 521,500 pt Harry’s House - Harry Styles (2022/6/4*)

  20. 505,000 pt More Life - Drake (2017/4/8*)

何だかアデルとドレイクとテイラーだらけ(笑)というリストで、しかもアデルの『25』はリリースチャートインから5週連続50万ポイント超えという化け物的ヒットアルバムだったことが改めて判ります。このリストにハリーは白人男性としてはわずか2人目、イギリス人男性としては唯一ランクされているということで、前作の高評価からの流れでハリーのスーパースターとしての存在感が一気に跳ね上がったのがよく判りますね。ちなみに今回の『Harry’s House』はヴァイナル週間売上182,000枚で、上のリスト15位のテイラーが『Red (Taylor’s Version)』で樹立した記録114,000枚をこれも大きく抜き去って記録更新しています

さっそくそのヴァイナルを購入して聴いてますが、前作からのシンセやドラム・マシーンと生音とをうまーくミックスした音像で、ライトなポップ・ファンクや、R&Bポップっぽい魅力溢れる楽曲が詰め込まれた、かなりクオリティの高い仕上がりになってますね。「Daydreaming」なんて凄いスローグルーヴなファンク・ポップだなあ、と思って聴いてたら何とブラザーズ・ジョンソンのブチブチファンク曲「Ain’t We Funkin’ Now」をサンプリングしているのを発見。でも見事に自分の音世界に取り込んで余計なエッジを感じさせない(言われなければブラジョンのサンプルに気が付かない)あたり、ソロ当初からプロデュース担当していて、全曲ハリーと共作しているキッド・ハープーン(トーマス・ハル)タイラー・ジョンソンの見事な仕事ぶりが際だってます。その他の曲もどれも粒がそろっていて、今全世界でシングルヒット中の「As It Was」が地味に聞こえてしまうほど。その「As It Was」、Hot 100では今週2回目の1位返り咲きで通算4週目の1位を決めている他、トップ10にこのアルバムから3曲初登場。更にUKでは今週シングルチャートのトップ3独占と正に今週世界を席巻していて、既に来年のグラミー賞最優秀アルバム部門ノミネートの呼び声高いこのアルバム、充分その可能性ある作品だと思います。メタクリティックでも84点。

最後に一つ面白いエピソードを。アップル・ミュージックでこの作品についてインタビューを受けていたハリー曰く、このアルバムタイトルは細野晴臣のソロ・デビュー・アルバム『Hosono House』(1973)を聴いていてヒントを得たということ。先日のザ・ウィークンドの「Out Of Time」での亜蘭知子カバーといい、70年代Jポップの影響がまた意外なところで登場しているのが興味深いところです。

"American Heartbreak" by Zach Bryan

さて、ということで今週はハリー・スタイルズ祭なわけですが、トップ10にはもう1枚、フレッシュなアーティストが初登場してます。Billboard 200初チャートインで堂々5位に初登場したのは、オクラホマ出身のシンガー・ソングライター、ザック・ブライアンのメジャー・デビュー・アルバム『American Heartbreak』(71,500ポイント、うち実売6,000枚)。アコギ一本で切々と振り向いてくれない恋人への思いを歌うハートランド・ロックなバラード「Something In The Orange」が現在Hot 100でヒット中のザックのこの作品、ストリーミング・サービスではカントリーに分類されているようですが、どちらかというと、フルパワーなロッカーに変貌する前の初期のジョン・メレンキャンプを思わせるような、フォーキーな中にもロックを感じさせる、最近なかなか見かけないタイプのシンガーソングライターですね。

今回のこのアルバムの躍進の要因の一つは、メジャーでのデビュー・アルバムながら何と3枚組、全34曲収録の大作なので、「Something In The Orange」での彼の歌を気に入ったファンがいろんな曲をストリーミングで聴いてみた結果、というのもあるんでしょう。でも徒に白人至上主義的で分断をあおるようなメッセージを歌うやつらや、黒人差別発言で干されながらブラック音楽にすり寄るような楽曲で人気を取り戻しているような輩に比べると、「今のアメリカで26歳の男であることの痛みや愛情、喪失感、嫌悪や許しなどの思いを作品にしてみたんだ」という彼の言葉が真摯に響いてきて、そのサウンドのシンプルさとも相まって大変好感が持てる、というのも大きいのでは。米国海軍にいた父親の沖縄駐留中に日本で生まれたというザック、ちょっと注目したいアーティストです。

今週のトップ10初登場はこの2枚なんですが、何と今週は11位以下100位まで圏外の初登場アルバムがゼロという、今年に入って1月22日付チャート以来2回目の珍しい状況です。なので今週はこのまま今週のトップ10のおさらいと行きましょう(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

*1 (-) (1) Harry’s House - Harry Styles <521,500 pt/330,000枚>
2 (2) (3) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <155,000 pt/1,554枚*>
3 (1) (2) Mr. Morale & The Big Steppers - Kendrick Lamar <96,000 pt/3,160枚*>
4 (3) (4) I Never Liked You - Future <77,000 pt/372枚*>
*5 (-) (1) American Heartbreak - Zach Bryan <71,500 pt/6,000枚>
6 (5) (72) Dangerous: The Double Album ▲2 - Morgan Wallen <51,500 pt/1,273枚*>
7 (6) (3) Come Home The Kids Miss You - Jack Harlow <41,000 pt/674枚*>
*8 (9) (53) Sour ▲3 - Olivia Rodrigo <32,500 pt/6,967枚*>
9 (4) (2) Minisode 2: Thursday’s Child (EP) - Tomorrow X Together <30,500 pt/28,550枚*>
10 (10) (11) 7220 ● - Lil Durk <27,000 pt/60枚*>

さて今週のハリー・スタイルズ祭な「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。最後に恒例の来週の1位予想。今回の対象期間は5/27-6/2ですが、先々週の記事でも触れたように、5/27にはそれまでデジタルオンリーだったケンドリック・ラマーの新譜がCDリリースされてます。今週まだ10万ポイント近くを維持して3位にいるケンドリックがこのCDリリースで10万ポイント以上は上乗せしてくると思うので、2週目でポイントを半分は減らしてくるであろうハリーとの1位争いになるのでは、というのが見立てですね。それ以外にトップ10に入ってきそうなのは、このメモリアル・デイ・ウィークエンドに併せて封切りされて、トム・クルーズ主演映画過去最高の週間興行成績を記録した『Top Gun: Maverick』のサントラ盤か。ではまた来週。

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