見出し画像

Boonzzyの「新旧お宝アルバム!」 #183 「Tower Of Power」 Tower Of Power (1973)

(この記事は最後まで無料で読めます。またご購入でサポートも頂けます)

この四連休ですっかり世間は我慢できなくなって、コロナそっちのけで各地での行楽に繰り出し始めた様子。まあ気持ちもわかるので、感染対策さえちゃんとやってくれればいいんですがあれだけ人が混雑してるとそれも難しいような気がしますが。まあ皆さん手洗い・マスク・うがいを欠かさず、呉々も気を付けましょう。

さて四連休で何となく気分もゆったりする中、今週の「新旧お宝アルバム!」何を取り上げようかな、と思っていたところ友人がFacebookにポストしていたタワー・オブ・パワーの名前を見て、久しぶりに彼らのアルバムが聴きたくなりました。このコラムで取り上げるの、数ある名盤のうちどれにしようか結構悩みましたが、やはり彼らの黄金期をスタートしたと言える3作目、タイトルも『Tower Of Power』(1973)しかないな!ということで今日はこの素晴らしいソウル・ファンクの傑作アルバムをお届けします。

画像1

タワー・オブ・パワーといえばあの鉄壁のホーンセクションでバリバリのファンクもソウル・バラードも完璧のグルーヴで演奏してみせるバンド、という印象が強いですよねえ。このアルバムの冒頭を飾る彼らの代表曲の一つ「What Is Hip?」なんて「これぞヒップ(70年代当時のスラングで、今で言うと「ヤバい」かな)だぜ!」という彼らのファンク・スタイルはこれだ!と宣言しているような、完璧なチューン。名手デヴィッド・ガリバルディのドラムフィルで始まり、ただひたすらそれと一体になって地を這うようなそれでいて正確無比なリズムを叩き出すロコことフランシス・プレスティアのベースがこの曲の最重要構成部分。そこにひたすら16ビート後乗りでファンキーに絡んでくるホーンセクション。そしてこのアルバムからリード・ボーカリストとしてジョインしたレニー・ウィリアムスのソウルフルながらしなやかなボーカル。いやあ、ファンクの教科書みたいなこの曲、よくDJやる時もアイスブレーカー(場の雰囲気を一気に盛り上げるための曲)としてホントに重宝してます。

画像3

テナー・サックスのエミリオ・カスティーヨとバリトン・サックスのドックことスティーヴン・クプカが中心になって、ザ・モータウンズという名前でホーン・セクションを中心にしたソウル・ファンク・バンドを結成した60年代後半といえば、彼らがベースにしていたオークランドや近隣のサンフランシスコなどには、カルロス・サンタナを擁するサンタナ、ソウルフルな白人女性ボーカリスト、リディア・ペンスを擁するコールド・ブラッドといった多様な人種のメンバーによるサンフランシスコ湾近辺を中心に活動するファンク・ロック・バンドが群雄割拠していた時代。そんなロック多様化の時代に登場したタワー・オブ・パワーは、単純に人種混合というだけではなく、分厚いホーン・セクションによるファンク・サウンドと、一方でAMのトップ40ラジオ局でもかかるような味わい深いソウル・バラードの両方の魅力を持っていると言う点でセカンド・アルバム『Bump City』(1972)をリリースした頃には一つ抜きんでた存在になっていました。

そんな彼らを一気にメジャーレベルに押し上げたのが、前作までのある意味弱点だったボーカルを、新ボーカリスト、レニー・ウィリアムスの参加で強化したこのアルバム。レニーはこのアルバムから『Back To Oakland』(1974)、『Urban Renewal』(1975)の3枚だけに参加して、その後ソロ活動でバンドを離れて行くのですが(彼のソロ時代の作品は90年代以降、数々のヒップホップ・アーティストにサンプルされまくっていて、彼に対するミュージシャン達のリスペクトを感じます)、この時期レニーのボーカルは、ファンク・マシーンであるタワー・オブ・パワーを、数多くのメローでありソウルフルである、素晴らしいR&Bバラードやミディアム作品をパフォームする、ヴァーサタイル(幅広い範囲で高いパフォーマンスをする)なバンドに進化させる、極めて重要なピースであったことは間違いありません。

その証拠に、このアルバムでのバリバリなファンク・ナンバーは、冒頭の「What Is Hip?」とアルバム後半のその名も「Soul Vaccination」くらいで、残りはウキウキするようなリズムとリフが最高な「This Time It's Real」やミディアム・ファンクやメロウ・ファンクな曲と、彼らの最大のヒット曲となった「So Very Hard To Go」(1973年全米13位)や、ホーンセクションのアレンジが素晴らしい「Will I Ever Find A Love?」や、アルバム最後を締める胸を締め付けられるような雰囲気たっぷりな「Just Another Day」など、レニーのボーカルのしなやかさと魅力が存分に楽しめるソウル・バラード曲で占められていて、バンドの演奏とレニーのボーカルをいかに相乗効果を持ってオーディエンスに聴かせるか、と言う点に工夫を凝らした楽曲構成とプロデュースワークが光っています。そしてどういうスタイルの曲でも、そうしたレニーのボーカルとバンドの演奏をガッチリ下支えしているのが、ロッコのベースとガリバルディのドラムスによる強力で、心地よいグルーヴを産み出しているリズム隊の存在なのです

古くからのタワー・オブ・パワーファンの皆さんにはもう何をか言わんやですが、この後のレニー参加のアルバム『Back To Oakland』や『Urban Renewal』も、ややバンドのファンキーな演奏力を前面に出してよりタイトになっている部分もありながら、このアルバム同様全体にどちらかというとレイドバックな雰囲気が支配的な作品群。この三作はこの時期のタワー・オブ・パワーの魅力を最大限に引き出している作品群ということで、是非ともこの『Tower Of Power』共々是非楽しんでほしいものです。

日本にも熱狂的なファンの多いタワー・オブ・パワー、1974年の初来日以降、コンスタントに来日して日本のファンを楽しませてくれています。またRCサクセションの『シングル・マン』(1976)のバックなど日本のアーティストと共演したこともありますし、70年代後半から80年代前半にかけてはメンバーのドラッグ問題でバンドが最低の状況だったところから、1982年に同じサンフランシスコ・ベイエリア出身のヒューイ・ルイス&ザ・ニューズのブレイク作『Picture This(ベイエリアの風)』(1982)に全面的にフィーチャーされて再度一線に復活。90年代にはコンスタントにアルバムを出していましたが、2018年に9年ぶりの新作『Soul Side Of Town』でその健在ぶりを見せてくれていました。そして今年もなんとあのジョー・ヴァネリエミリオと共同プロデュースした新作『Step Up』をリリース。

画像2

2017年にはガリバルディとベースのマーク・ヴァン・ヴァーゲニンゲンが地元オークランドで鉄道にはねられて大けがをするというショッキングなニュースが伝わって来て、復帰できるのか?とファンを心配させたのですが、2019年の来日時には、見事二人とも復帰して参加、熱いライブを聴かせてファンを唸らせてくれたらしい。らしい、というのは、これだけ彼らのことが好きな自分なのに、何故か彼らのライブとは未だに縁がなく、一度も生のタワー・オブ・パワーのステージを拝んだことがないのです。今年はコロナで仕方ないとしても、来年頃にはまた再びガリバルディエミリオら、今のメンバーでの興奮するステージを是非全身浴びたいな!と密かに思っているところ。

画像4

それまではこの『Tower Of Power』、そして『Back To Oakland』『Urban Renewal』の黄金期三部作を存分に楽しみながら、コロナの秋を過ごそうと思います。既に「レコードがすり切れるくらい聴いてるよ!」という古くからのTOPファンの皆さんはもちろんのこと、彼らにまだ馴染みがないという若手の洋楽ファンの皆さんも、是非この機会にタワー・オブ・パワーのファンク・ソウル・サウンドを思いっきり浴びて、コロナを蹴散らして下さい。

<チャートデータ>
ビルボード誌
全米アルバムチャート 最高位15位(1973.9.1付)
同全米R&Bアルバムチャート 最高位11位(1973.8.25付)


ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?