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今週の全米アルバムチャート事情 #84- 2021/6/19付

さてこの記事がアップされる頃には、既にゴルフのUSオープンが始まっていることでしょう。マスターズの歴史的優勝以降、PGAツアーの3大会連続不振を囲っている松山英樹選手が、先週の笹生優花選手の躍進に刺激を受けて奮起するか?ゴルフファンにはたまらない週末になりそうですね。そして今週もこの記事と連動したポッドキャストを配信済ですので、下記のリンクからお楽しみ下さい!

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さてそんなこの週末、6/19付のBillboard 200全米アルバムチャートは先週予想した通り、今乗ってる二人のラッパー、リル・ベイビーリル・ダークのコラボ・アルバム『The Voice Of The Heroes』が、150,000ポイント(実売4,000枚)という予想よりは少し少なめのポイント数でしたが、先週1位のテイラーEvermore』が85%ポイント減で8位に陥落という大きなダウンにも助けられて、見事1位初登場を決めています。これでリル・ベイビーは昨年の大ヒットアルバム『My Turn』に続いて2作目、リル・ダークは去年の『Just Cause Y’all Waited 2』と『The Voice』の連続最高位2位を経て初の全米No.1アルバムを記録したことになります。

リル・ベイビーは昨年の『My Turn』からの大ヒットで、BLMを正面から取り上げた「The Bigger Picture」(2020年最高位3位)がグラミー賞2部門にノミネートされて、授賞式でも緊張感たっぷりのパフォーマンスを見せ、現在も「On Me」(最高位15位)がヒット中など、今キャリア的にかなり盛り上がってます。一方のリル・ダークも去年ドレイクの「Laugh Now Cry Later」(2020年最高位2位)にフィーチャーされてこちらもグラミー賞2部門ノミネート、まだピンでのヒットがないのでこれからの人なんですが、今やシカゴのドリル・シーンの代表選手として充実しているので、この二人が組んだアルバム、まあ今週の1位は妥当なんでしょうね。ちなみにアルバムタイトルの「The Voice」というのはリル・ダークの小さい頃からのニックネームで、「Heroes」というのはそのリル・ダークリル・ベイビーに進呈したニックネームらしいです。極々ストレートでギミックとかもない、ウィージーロンドン・オン・ダ・トラック、マーダ・ビーツといったトラップ系の売れっ子プロデューサーを配したメインストリーム感満載のトラップ作品なんですが、サウンドは不思議に聴きやすいです。リリックの内容は全てチェックしたわけではないですが、ちょっとエモっぽい感じもあり、自分達を誇示した内容もありと、単なるブリンブリンやエロではないリアルな内容を中心にラップしてるようですね。ヒップホップヘッズには一定支持される内容なんでしょう。

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さて今週のトップ10内初登場はもう1枚、こちらは完全にノーマークでした。43,000ポイント(実売39,000枚)で5位に初登場してきたのは、Kポップの5人組、BTSと同じ事務所のビッグ・ヒット・エンターテインメント所属、トゥモロー・バイ・トゥギャザー初の全米トップ10アルバムとなった『The Chaos Chapter: Freeze』。BTSの弟分的な位置付けもあって今回人気を呼んでるんでしょうかね。Kポップに詳しい方のコメント大歓迎なのでお願いします。このアルバムのトレイラーPVとか見ると、BTSがめっきりエンタメ路線なのに対し、TXT(と略するんだそうで)はSF近未来仕立てのイメージPVでもう少しクールなイメージ路線を狙っているような印象を受けますね。ただ楽曲をいくつか聴くと、よりTXTの方が今のメインストリーム・ポップ作品、という感じがします。なかなか悪くないですね。

最近のKポップ・マーケティングの常として、こちらのアルバムも4種類のCDパッケージ(1種類はUS小売チェーンのターゲット専用パッケージ)がリリースされてて、それぞれ異なるフォトカードや葉書とかが同梱されてる関係で、実売の96%がCD売上らしいです。こういうところはしっかり稼ぐBig Hit、という感じですね(笑)

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一方トップ10圏外に目を移すと、今週は100位までの間に4枚のアルバムが初登場、平均的な状況ですね。その中で一番高いところで初登場してるのが、39位に入ってきた、2000年代初頭から安定した人気を誇るシカゴ出身のメロコア系パンクバンド、ライズ・アゲンストの9作目『Nowhere Generation』。彼らは2枚目からメジャーのゲフィンと契約して、ここ5作連続トップ10にコンスタントにチャートインしてたんですが、今回インディーのロマ・ヴィスタに移籍したと同時にこの順位。やはりメジャーのプロモーション体制から外れるとこの手のバンドはキツくなっちゃうんでしょうかね。

前作『Wolves』(2017年9位)まではロック・アルバム部門1位を3作連続確保してたんですが、今回は4位。タイトル曲も含めて楽曲的には悪くないとは思うんですが。最近のエレクトロ・ポップ系のメインストリーム化の傾向を考えると、このタイプのバンドは今後苦戦を強いられるのかもしれません。

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一方、今週56位に初登場、初のアルバム・チャートインを果たしたのは、韓国系アメリカ人の女性ボーカル、ミシェル・ゾーナー嬢率いるオレゴン州出身の4人組、その名もジャパニーズ・ブレックファーストの『Jubilee』。このバンド、しばらく前から音楽メディアのあちこちで取り上げられてたので気になってました。今回初めて聴きましたが、基本すごく良質のインディロック・ポップですが、曲によってはホーンやストリングスアレンジを配したチャンバーポップ風だったり、80年代シンセ・ニューウェーヴ・ポップのミッシング・パーソンズ風だったり、はたまた今風打込みトラックにポップなメロディを乗っけた曲だったりとバラエティ満点。そしてそこに乗っかるミシェルのボーカルがドリーミーな感じで気持ち良く、結構気に入りました

今回が3作目なんですが、前2作は2014年にミシェルの母親が膵臓癌で亡くなった影響で哀しみに支配されてた作品だったようですが、今回ミシェル曰く「もう5年も悲しい事ばかり書いたから今回は喜びについて書くことにしたの」というだけあって、アルバム全体からそこはかとないポジティブさも。何でもこのアルバムに先駆けて4月にミシェルが出版した、母の癌闘病のことを綴った回顧録『Crying In H Mart』もニューヨークタイムスのベストセラーリストに載り、映画化もされるみたいです。グループ名への親近感もあるし、メディアの評価も上々なミシェルジャパニーズ・ブレックファースト、要注目ですね。

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そして3枚目の圏外初登場は、79位に初登場した男性カントリーシンガー、ブレット・ヤングの『Weekends Look A Little Different These Days』。大学時代は野球チームのエースでドラフトの声もかかるくらいだったんですが肘の怪我で音楽の道に転じて、40歳にしてこれがまだメジャー3作目(デビューEPを入れると4作目)というちょっとした苦労人。2017年の「In Case You Didn’t Know」(カントリー2位、Hot 100最高位19位)でブレイクしてからポップのトップ40ヒットも「Mercy」(2018年29位)「Catch」(2019年29位)と都合3曲放ってますが、まだまだキャリアはこれから、というアーティストですね。ちょっとソウルフルなボーカル回しがいい感じのシンガーですけど。

アルバムタイトルは、2018年に結婚して、2019年に生まれた娘のプレスリーちゃん(凄い名前!)と専ら週末を過ごすようになった生活の変化のことで、コロナロックダウンのことではないようですが、いずれにしても自分や共作者の経験を元にした曲が多い彼のこと、このアルバムもほとんどは自分の家族のことを歌ってるようですね。

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最後4枚目の圏外初登場は、あら懐かしや、90年代50セントを中心としたGユニットの一員だったラッパーのロイド・バンクスが何と11年ぶりにリリースした新作『The Course Of The Inevitable』が84位初登場。てか、まだやってたんだ!と名前を見てちょっとビックリしました。2010年の前作『H.F.M. 2』を最後にEMI傘下のGユニットの契約を失ってて、今回はインディ・リリースなんですが、まだまだ結構支持してるファンが結構いるってことですよね。

フィーチャーされてるゲストもフレディ・ギブスとか、スタイルズPとか、渋くてベテランの連中が固めてて、音の方も今風のチャラチャラしたトラップ風とかではなく、ストリート感満載のシャープでクールなサウンドとフロウで固めてるようなので、その当たりがフォロワーを確保してる要素なんでしょうね。最近NYのMCというとジェイZはめっきり実業家だし、DMXも亡くなってナズとこの間久々に新譜出したバスタくらいが頑張ってる状況ですから、これをきっかけに頑張って欲しいものです。
ということで圏外初登場4枚は以上。今週のトップ10、いつものようにおさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト)。

*1 (-) (1) The Voice Of The Heroes - Lil Baby & Lil Durk
2 (2) (3) Sour - Olivia Rodrigo
3 (4) (22) Dangerous: The Double Album - Morgan Wallen
4 (3) (4) The Off-Season - J. Cole
*5 (-) (1) The Chaos Chapter: Freeze - Tomorrow x Together
6 (5) (7) A Gangsta’s Pain - Moneybagg Yo
*7 (6) (62) Future Nostalgia ▲ - Dua Lipa
8 (1) (26) Evermore - Taylor Swift
9 (9) (60) After Hours ▲2 - The Weeknd
10 (10) (83) What You See Is What You Get ▲2 - Luke Combs

さて最後に来週の1位予想です。来週のチャートの集計対象期間は6/11-17ですが、その初日の6/11リリースがなかなか凄いことになってます。おそらく来週1位の争いは、昨年の大ヒット「Memories」を収録したマルーン5の新譜と、ここ2作連続1位をマークしているミゴスに、去年『The Goat』が2位になってテンション上がってるポロGの3つ巴の戦いになりそうです!その他KポップのTWICE、ミュージカル『Hamilton』の作曲者・出演者のリン・マニュエル・ミランダが自分が曲を書いたヒット・ミュージカル『In The Heights』の映画盤サントラなどもトップ10入りしそうで、来週のチャートは賑やかになりそうですね。ではまた来週。


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