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Rock In Peace, Jeff Beck

ジェフ・ベックが亡くなったらしい。らしい、というのはこれが俄に信じられない類のニュースだから。多分自分と同世代の70年代以降、彼のギター伝説ぶりを同時代の人間として、同じ時代感の中で経験してきた洋楽ファン、ギターファンの皆さんはみんな同じ思いだろう。ましてやBBA(ベッグ・ボガード&アピス)ジェフ・ベック・グループ、更にはヤードバーズ時代から彼と同時代を生き続けて来た自分らのちょっと上の世代の方々に取っては比較にならないくらい大きな衝撃だと思う。中坊時代以降ろくにギターを手に取ったことのない自分ですら衝撃だから、長年彼の様々な曲でのプレイをコピーし、実際に演奏してきたギタリストの方々の衝撃は想像するしかない。

昨日は朝一番、スマホを開けて見たニュースがジェフ・ベックの訃報だった(なぜか彼のことをジェフと簡単に呼び捨てにできないのは亡くなったからじゃなく、彼はやはり「ジェフ・ベック」だからだと思う)。最低の一日の始まりだったが、仕事はしなくちゃいけないし、期日の決まったグラミー賞予想のブログも書かなきゃいけなかったが、そのブログで簡単にこの件について触れる、というのは適切じゃない気がして一旦スルーしていた(オジーとの共演曲のところでちょっと触れたが)。やっぱりこうして改めて記事として彼のことを思い、追悼し、彼の後にも先にも繰り返されないであろう、ギター・レジェンドぶりを思い返すのが適切だ、そう思った

"Blow By Blow" by Jeff Beck

自分がジェフ・ベックをちゃんと認識したのは、多分多くの同世代の方のご多分に漏れず、あの名盤『Blow By Blow(ギター殺人者の凱旋)』(1975)を聴いた中3の夏。それまで洋楽体験というと、小6の時に感動した「イエスタデイ・ワンス・モア」のカーペンターズとの出会い、中学に入ってちょうど解散10年で国内盤リイシューが進んでいたビートルズの『サージェント・ペッパーズ』『アビー・ロード』『ホワイト・アルバム』の3作の衝撃で一時期ビートルズばかり聴いていたことくらいで、ちょっと上の世代が聴いていたツェッペリンパープルは当時ちょっと自分的にはトゥー・マッチに思えたのであまり聴いていなかった。だからジェフ・ベックも当然自分のレーダー・スクリーンには全く当時かすっていなかったから、どういう曲があるのかも知らなかったほどだ。
そんなある日、渋谷陽一氏のラジオ番組(「サウンドストリート」だと思ったが調べたらまだ当時はまだ「若いこだま」だったようだ)で「ジェフ・ベックの新譜から」ということでオンエアされたのが「Cause We've Ended As Lovers(哀しみの恋人達)」。その静謐でスローなイントロから叙情的な展開を経て後半抑えた感情を解き放つような饒舌なソロに展開していくインスト曲に「ジェフ・ベックってロックの人じゃなかったのか」とちょっとした驚きと軽い感動を覚えたのが記憶にある。もちろんこのアルバム(邦題がかなり当時の担当ディレクターの気合を感じて微笑ましいw)には疾走感満点の「Scatterbrain」やブルース・ロックの「She's A Woman」等、彼のあらゆる引き出しをぶちまけた楽曲が満点のクオリティ高いフュージョン・アルバムで、当時かなりハマったものだ。その後ヤン・ハマーとのライブ盤でのスリリングなプレイを聴いて「ジェフ・ベックスゴい」という評価が自分の中で固まるまでにそんなに時間はかからなかった。1976年にラジオ関東(現ラジオ日本)の『全米トップ40』に出会って、アメリカのチャートヒットの虜になる1年前に、こうしたチャートヒットと関係ない良質の作品とアーティストに出会えたことは未だにチャートとは別の軸で音楽を聴くことができる自分の今のスタイル形成に大きな影響があったことは間違いない

"Wired" by Jeff Beck

残念ながら彼のライブは2回しか観ていない。最初に彼を観たのは、フュージョンからギター・ロックにシフトした1980年の『There & Back』リリース直後の来日時で、確か武道館。確か「哀しみの恋人達」もやってくれたと思うけど、ちょっとアレンジが違ってて「あれ?」と思った記憶がある。それでもバリバリとギターを弾きまくるジェフ・ベックを生で観た!という感銘はひとしおだった。もう1回は、ぐっと最近で2015年、横浜赤煉瓦広場で開催されたブルー・ノート・ジャズ・フェスティバルでのライブ。あの時はロバート・グラスパー、パット・メセニーといったジャズの新旧大御所に加えてインコグニートスナーキー・パピー、ハイエイタス・カイヨーテと今から思うとかなり豪華なラインアップで会場全体が盛り上がっていたのだが、パット・メセニーの後にジェフ・ベック・バンドが登場すると、会場前方の着席エリアにいた(おそらくジャズ・ファンの)皆さんがゾロゾロと会場を出て行くのにビックリ。それでもジミー・ホール(ボーカル)、ロンダ・スミス(ベース)らをバックにギターを弾きまくるジェフ・ベックに35年ぶりに再会できたのは格別だった。もちろん「哀しみの恋人達」そして同じスティーヴィー・ワンダーの「迷信」もやってくれた。こんなスゲーライブを観ずに途中で帰るなんて、何てもったいない連中なんだ、と途中退出した人達に密かに心中で文句並べていたものだ。

"Flash" by Jeff Beck

その後も数年おきにアルバムを出していたのは知っていたし、去年なんかは親友だというジョニー・デップとのコラボアルバム出したりして、やりたい音楽をやりたいようにやってるそのスタイルがいいなあ、と思っていた矢先の訃報だっただけに余計驚いた。今回の訃報でSNSのタイムラインが彼に対する弔意で溢れているけど、よく見るのが「三大ギタリスト(ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン)の中で一番最後までいてくれると思っていた」というコメント。確かにジェフ・ベックって、永遠のギター小僧で、しかもあまり病気とかに縁がなくちょっとやそっとじゃ死にそうもないイメージがあったから確かにそう思う。そういう意味ではボウイと通じるところがあったかもしれない。そのボウイの訃報にも大いに驚いたわけだったけど(あちらは新譜リリース直後だったから別の意味で驚愕だった)。

ジェフ・ベックへの餞に何がいいかと考えたけど、やはり自分が好きなジェフ・ベックの曲をいくつか皆さんとシェアするのがいいだろうということで、「DJ Boonzzyの選ぶジェフ・ベック3大ナンバー」をご紹介しよう。

* Cause We've Ended As Lovers(哀しみの恋人達)(1975年のアルバム『Blow By Blow』収録)

先ほども書いたように自分とジェフ・ベックの初めての出会いの曲。当時ギターの練習をしながら、あのイントロのバイオリン奏法を一生懸命練習してみたけど、さっぱりバイオリンにならなかった(笑)BBA時代にやった「迷信(Superstition)」同様スティーヴィー・ワンダー作というのはかなり後になって知ったし、シリータのオリジナルを聴いたのもかなり後だが、シリータのバージョン聴いた時、ジェフ・ベックのカバーに聞こえてしょうがなかった。それくらいジェフ・ベックがこの曲を自家薬籠中のものにしている、ということだろう。美しく叙情的でありながら、後半の饒舌だけど歌う演奏が最高。ジェフ・ベックといえばこの曲、という曲の一つ。サー・ジョージ・マーティンの絶妙のプロデュースも光っている。

* Blue Wind(1976年のアルバム『Wired』収録)

ジェフ・ベックのフュージョン期のナンバーでは彼のギタープレイは基本シンプルなリフの繰り返しに時折ソロが登場する、という比較的単純な構成なのに、ファンクとグルーヴと疾走感を最大限体現しているのはさすが。このアルバムもサー・ジョージ・マーティンがプロデュースしているが、この曲の作者でグルーヴィーでスペイシーなキーボードを聴かせているヤン・ハマーが共同プロデュース。これを受けてヤン・ハマーとのコラボの化学反応は、次の驚異のライブ盤『Jeff Beck With The Jan Hammer Group Live』(1977)へと発展する。ヤン・ハマーがTV番組『マイアミ・ヴァイス』の主題曲で彼唯一のチャートヒット(そして全米ナンバーワン)を記録するわずか8年前のできごとだ。

* People Get Ready (Featuring Rod Stewart)(1985年のアルバム『Flash』収録)

いうまでもなく1960〜70年代のシカゴソウルの代表的ソウル・グループ、ジ・インプレッションズの1965年の大ヒット(Hot 100最高位14位、R&Bチャート3位)で、そのインプレッションズの中心人物から後に70〜90年代に至るまでゴスペル的思想とメッセージを内包した愛に満ちたR&Bソングを作り、歌い続けた70年代ソウルの巨人、カーティス・メイフィールドの作品。元々R&Bやブルースを自らの出自とする二人がこの曲をカバーしたこと、そしてそのパフォーマンスが素晴らしいことは特筆してもしきれない。「皆のものよ準備はいいか、汽車がやってくる/切符はいらない、ただ乗るだけでよい」というノアの箱舟を想起させるような歌詞を情感たっぷりに歌うロッド、そしてそのバックでタメの利いたリフと印象的なソロを弾くジェフ・ベック。白人による黒人音楽カバーの一つの頂点形だと思うのは自分だけか。

いや、サー・ポール、Great Britain(イギリス)だけじゃない。世界のすべてのギタリストの中でもベストだったと思うよ。

もうすぐ開催されるグラミー賞授賞式で毎年行われるIn Memorium(物故者追悼)のコーナー。ジェフ・ベックは今回第65回で、オジー・オズボーンの「Patient Number 9」にフィーチャーされて最優秀ロック・パフォーマンスにノミネートされているのを含めて、過去17回ノミネート、6回の最優秀ロック・インストゥルメンタル部門受賞を含めて8回受賞している、グラミー・ベテランでもあるので、きっと彼の写真が一際大きく映し出されるだろう。ひょっとすると彼のトリビュート・コーナーも企画されるかもしれない。何といっても世界中のギタリスト、そしてロック・ミュージシャンで彼に影響されたミュージシャンはサー・ポールを含め無数にいるだろうから。

最後に、ジェフ・ベックに冥福は似合わないから、ネットで多くのファン達がつぶやいていた言葉でジェフ・ベックを送りたい。
Rock In Peace, Jeff Beck



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