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いつ死ぬかわからないから、生きる。書籍『自分思い上がってました日記』『調子悪くて当たり前日記』感想

その著者の存在を知ったのは、つい2ヶ月ほど前。

友人「いろどり書房」の鳥平(とりひら)さんが、文学フリマ大阪で出会ったその人は、百万年書房という出版社の代表、北尾修一さんだった。

百万年書房という出版社は、以前参加していた読書会の課題図書などで目にはしていたし、僕も一冊!取引所のページで気になっていた本がいくつかあった。でも、その代表の方の名前は存じ上げていなかった。

今夏に浅草で開催されたブックマーケットで、以前からお世話になっているイーストプレスの中野さんが編集された本『いつもより具体的な本づくりの話を』の著者が北尾さんであることにも、最近やっと気付いたくらいだ。

僕の好きな坂口恭平さんの『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』の編集をされていたことも、この記事を書き始め、たった今知った。すごい人じゃないか・・・。

こうした点でも、本屋を名乗りながらも、僕は本の世界、出版の世界のことを全く知らない。それが欠点でもあり、自分の武器であるとも思っている。

話は脱線するが、そんな北尾さんが、癌になっていたという。
大腸癌になって、入院するところまでの日記を『自分思い上がってました日記』に。入院して、手術をしてから現在に至るまでの話を『調子悪くて当たり前日記』に記したという。どんなバイタリティなんだ・・・。

そして退院の十日後には、大阪まで行って文学フリマで本を売っていたという。なんてバイタリティなんだ・・・。絶対力など入らないし、笑ったりものを持ったりした時に傷が痛むのは大いに予想がつく。
手術で痛くないのは、手術の間だけで、治る過程では痛いものなのだ。



話が変わるが、歯科医師になった二年目、僕は歯科医師ではない時間を一年間過ごしていた。
当時所属していた病院では、口腔外科の医局員が、学費を払えば一年間医科の色々な科をローテーションで勉強できる、医科研修という制度があった。

一つの科を3ヶ月かけて学ぶそのシステムで、僕が選んだのは麻酔科、外科、内科、耳鼻咽喉科だった。

外科を回った時は、実に色々な手術に見学として入り、手伝いなどをさせて貰った。肝臓、胆嚢、膵臓、大腸、胃、肺、血管の手術や、果てには乳がんの手術まで、勉強させてもらっていた。

その中で、大腸がんの患者さんを診ることも何度もあった。
癌の場所やサイズによって開腹手術や腹腔鏡手術を使い分け、出血しない様血管を先に閉じながら切りつつ、病変のある腸を切除し、その前後の腸を接続する。予後を考えてその場では繋がず、人工肛門にすることもあった。

そんな経験が、北尾さんの日記を読みながら甦ってきた。あの時迫ることができなかった患者さんの内面の部分が、淡々と、でも切実に描かれていた。だがしっとりとはしていない。感情に流されきらず、ある種の客観性を保っているその書き方が、シリアスなのにユーモアすら感じさせる。日記であるが、闘病記ではないのだ。命の話を書いているのに、重くない。感情が乗りすぎている文章は読んだ後に引きずられ辛くなるのだが、全くそんなことはなかった。むしろ爽やかですらある。

不思議な書き手だと思った。

ただ、手術を控えている身のはずなのに、容赦なく酒を飲み続ける豪胆さには参った。自分が主治医だったら読んで怒らない自信がない。逆に、診療室でどれだけ指示をしても、実際はこんなもんかという諦めもつく。白衣の前では患者でも、病院を出たらその人はもう一人の人なのだ。
でも、もしこの酒が代わりにタバコだったらもっと怒っていたと思う。喫煙者と肥満は全身麻酔において、麻酔科の敵になる。

北尾さん本人は、先日の東京文学フリマでも開場前にちょっとだけご挨拶させていただいたが、飄々とした方だなと感じた。病み上がりの方には悪いが、この感じでどれだけ飲むのか、実際に見てみたいなとちょっと思ってしまった。

友人の鳥平さんが、最近すごい勢いで百万年書房さんを応援している。
僕は北尾さんのことをまだよく知らないが、興味がすごくある。北尾さんは初対面の時に、地位を持った中年男性にありがちな値踏みしてくる感じがなかった。覇気や地位で優位を示そうというあの感じが、まるでない。フラットでニュートラルな、そんな印象を受けた。

本当のところはまだわからない。その部分も含めて、ちゃんと知りたい気がするのだ。
本を読む限り、おしゃれでビビリで、痛い治療を怖がりながらも、軽やかに同時代を歩んでいる、この素敵なおじさまのことを。


同じように気になった方は、もう明日のイベントですが、良かったらぜひ。
まだ席がいくらか残っているようです。

著書は読んでても読んでなくても楽しめるイベントになりそうです。でもお話を聞いたあと、きっと読みたくなると思います。

以下いろどり書房さんのイベント紹介文です。

今回のイベントでは、「調子悪くて当たり前日記」のお話はもちろん、その他の百万年書房の本のエピソードや、百万年書房を立ち上げられたキッカケ、編集者として北尾さんが大切にしている本づくりや、著者を選ぶ時のお話なども伺いたいと思っています。

質問コーナーも設けたいと思いますので、たくさんのご質問お待ちしております!

◾️日時
11月26日(日)14:00〜16:00
※書籍の販売はトークイベント終了後の16:00〜
※書籍のご購入は現金のみでお願いいたします。

◾️会場
東京 北千住「空中階」
※住所はお申し込みいただいた方のみメールでご連絡いたします。

◾️参加費お一人3,000円
※当日現金払いでお願いいたします。

◾️お問合せ先
mail:hiraco21@gmail.com担当:鳥平(とりひら)まで

リンクを貼ったので、
こちらの画像から申し込みページに飛べます。


僕も受付をお手伝いさせてもらいますので、皆様のご参加をお待ちしております。






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