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メメント小森 解題 自分を遊ぶ

前後編で終わるつもりだったのだけど、ふと、一つの問いを思い出した。

絶賛メンタル落ち中に相談に乗っていただいた僕の人間の師匠と、回復した後にLINEしていた時のこと。

「人生の早い段階から答え見えてたって言ってるのにここで躓くのおもろ過ぎる。
何で今、死にたいまで落ち込んだんですかね?」


そう、ここなのだ。

僕は元来、職場でもトップクラスのメンタル激強人間として生きてきた。

失敗しようが、遅刻しようが、派手に叱られようが淡々と受け流す術に長けてきたはずだったのだ。

それがいつの間にかじわじわとエネルギーが減り、以前なら耐えられた仕打ちが急所に食い込み始めるまでになっていた。

一つには、前回書いたように公私共に予定を詰め混み過ぎた故のエネルギー不足がある。

もう一つは、変な話だとは思うのだが、自分でも自覚しないうちに、わざと、この状況になるように仕向けていたのだ。

例えばここ数年の変化になるが、ちゃんと本と出会って読んでいく中で、武装するのをやめた。

高ストレス環境に置かれた人間の様々な反応を防衛規制と呼ぶが、僕の場合、少し歪んだ防衛規制の仕方をしていた。

例えば、仕事で叱られたとしても、精神・哲学面では自分の方が遥かに深いことを考えているのだから、この人より自分が劣っているわけではないのだ。
と自分を納得させて溜飲を下げていたような節があった。

この結果、書店「読書のすすめ」の小川さんに、初対面の時すでに理論武装でガチガチのヤバい奴扱いされていた、らしい。

思えば確かに嫌なやつなのだが、意外と効果がある。

要は、嫌な相手を根本的に下に見ていたのだ。でもこの感覚はあんまり自然じゃないなと思って、近年は思考の習慣から外してしまった。

当たり前なのだけど、人間を善悪、優劣どれかに切り分けることはできない。嫌な相手でも輝くような技術を持っていたり、逆に信頼している人にも闇が覗く事もある。そこが見えていくのが面白さでもあるなと気づいてからは、どれかに分類して思考停止する事はやめにした。

それが、弱さにもつながるという諸刃の剣だった。
当たり前だけれど、社会人として一人前になるまでには、時間がかかる。
何も知らない状態から始めて、一つ一つ失敗を経験したり、先輩から教わったりして乗り越えていく。
職場で、メンバーが成熟しきった環境では、なかなかそれが難しくなる。

それは、周り全員がベテランドライバーの車道に、初心者マークで突入する様な厳しさだ。

スピードを出すのも怖い。でも出さないと迷惑になる。早く追いつかなければ。上級者なら自然と身につけている判断速度が、自分にはない。先が見えない。右も左も分からない。何をやっても失敗という結果しか返ってこない。

時間的に余裕があって、趣味の世界で自信や尊厳をチャージできる様な環境であれば回るサイクルが、時間がなくなると回らなくなる。

そんな自分を感じながら、さらに追い詰めるような工夫を無自覚に、していた。

本を読むほどに自分に嘘がつけなくなる。という要素もある。

高校生くらいから自己啓発本にハマった。
斎藤一人さんの本や、中村天風さんの本を読んでいた。

さらには、喜多川泰作品や、本調子など、今思えば「読書のすすめ」で推していた本が、父から高校の寮に送られてきていた。

一冊一冊、深い教えに満ちていたが、反面、若くして人生を知った気になっていた部分もある。

その驕りが、実践を遠のかせ、大学受験、国家試験と次々更新される枷に抗う為に暴走した結果、理論武装モンスターみたいになっていた。

その間も本は読み続けていた。世俗の枷から自分の自由を奪い返すためという目的と、後輩や友人たちのような夢ある若者が、現実に潰されないように自分が学んでおくという大義こそあったが、それはかなり歪んだ形だった。

だから、国家資格を取り、研修医も終わって全て解放された段階で、その武装は不要になった。もうこれ以上自分の自由は侵害されない。目先の枷に人生を奪われなくて済む。安堵感から行動すれば、更にいろんな縁に恵まれて、次々と身軽になっていった。それがちょうどコロナ前夜くらい、2019年のことである。

本当に、よくできている。
新しい時代の到来を告げた風邪が、僕を新たな境地へ導く風となっていた。

だから自分にとって、ここ数年の学びのテーマはきっと「弱さを知る」ことだったんだと思う。

武装のいらなくなった世界で、自分の弱さを改めて可視化して、受け入れる。

それを、どれだけ恥ずかしがろうが人に伝えてみる。

隠せば弱みになるが、シェアすれば笑いが起きる。


そうやって一つ一つ身軽になろうという試みに、自分で自分を導いているのではないか、そういう気すらしてくる。

今回、振り返って調子が悪い時にはいくつか兆候があることもわかった。

調子が悪い時、自分は
・朝食を食べなくなる。
・マックに行く頻度が増える。
・酒の機会が増える。
・人に会いたくなくなる。
・なんだかイライラする。
・周りを妬んだり、羨んだり、現在の選択をしなかった自分のことを想像する。
・人の好き嫌いが増える。

などである。

「自分で自分をよく知ること」これもここ数年のテーマのひとつだ。
自分が何を好きなのかは、書店活動を始めてから気づいた。

農業、狩猟、発酵、地方移住、生活改善、植物、子育て

いつもその中心には、生活があった。

仕事で大きなことを成し遂げるより、1日1日を機嫌よく生きられる方が重要に感じた。

自分の手で何か生み出すことの豊かさを学んだ。

「いつか帰らなきゃいけない」のではなく、「帰ってこれをしてみたい」が増えた。


そうやって、一つずつ、自分の日々を点検して、本来の自分を思い出していく。そういう風に、生きていたいことがわかった。

全ての答えは自分の中に。それでいいと今は思っている。



僕が破天荒に書き散らした言葉が、あなたの心の扉を開けてしまう様なことがあれば、こんなに嬉しいことはない。

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