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2023年10月14日 11:10〜11:40

岡山城 ///ついか。ひろめる。こつこつ

旭川にかかる月見橋の下の河原へ降り、草のうえにオレンジ色のレジャーシートを広げて座って書いている。対岸に見える岡山城は、うっすらとした曇り空の下で、快晴だったきのうよりも明るい黒にうつる。こちら岸では三人の釣り人がみじかい竿でアユを狙っている。仕掛けを投げ込んではたぐりよせてをくり返した紺色のチョッキのおじさんが「何もかからんわ」とつぶやいて場所を移した。足元に咲いていた彼岸花がひとつ踏まれて折れた。眼のまえには二センチほどの太さのロープが横切っていて、片端は背後のレストランの外壁に固定され、もう一方はボートのりばへと伸びている。のりばからは手漕ぎボートが一艘出港していったが、オールを手にして苦戦しているようすでなかなか前に進まない。京橋のほうから観光屋形船が戻ってきて停まり、乗員みんなでお城を眺めていた。桃の姿の足漕ぎボートがスムーズに上流へとすべっていく。八つのカラフルなカヌーたちがお城の足元を下っていった。手元ではヤマトシジミの小さな羽がせわしなく舞って、ロープのうえに止まりそうで止まらない。ひらひらと寄ってきてノートのうえをすべり、鉛筆をもつ手をかすめていちど視界から消えた。ヤマトシジミはほんとうにずっと飛び跳ねていてせわしない。少し休んでほしい。と思ったら、ようやくロープに止まってくれた。けれど、よくみるとさっきとは別の個体のメスで、たたんでいた羽を広げたときのオモテの黒色がはっきり観察できた。きょうのお城の黒に似ている。ほどなく、先ほどのオスがまた寄ってきてメスのそばに止まり、羽をゆっくりと開いてくすんだブルーを光らせた。

この風景スケッチは、作家・乗代雄介さんを講師に迎えた創作ワークショップ『小説の練習 〜自分を変える風景を書く〜』の第1回にて作成されました。

現場でスケッチしたノートと、推敲・清書の用紙


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