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2024年1月14日 15:31〜16:15

備中高松城址(附水攻築堤跡、国指定史跡)
///たけのこ。あしぶみ。あそんだ

公園西端の東屋のベンチに座って書いている。眼のまえの池では、敷き詰められた蓮の枯れた茎がひょろひょろと背伸びをしながら風に揺れている。

蓮池の左手の橋を渡れば松林のエリアがつづくのだが、現在は工事中で橋の手前から進入禁止となっている。松林を抜けた先には新設されたばかりの資料館があり、そこでは秀吉の水攻めで知られる備中高松城の戦いがVRで体験できる。きょうのところはみな迂回路である南側の遊歩道を進んで資料館のほうに向かうようだ。

遊歩道と蓮池のあいだは開放的な芝生の広場が続き、手前では親子らしい三人連れが凧揚げをしている。血走った目玉のデザインが印象的なゲイラカイトはほどよい風を受けてどんどん高度を上げ、十メートルを超えたあたりで幼稚園児くらいの子どもの手には負えなくなったようで、糸巻きを父親が引き継いだ。母親がカメラを構えながらふたりに笑いかけている。

奥にもうひと組、親子らしい三人連れがいて、こちらは子どもがふたり。赤いダウンに身を包んだ父親がピッチャーで、幼稚園児くらいの男の子がバッター、小学生のお姉ちゃんが守備についているが、空振り続きでなかなかお姉ちゃんに仕事が来ない。弟が空振りするたびにその場でピョンピョンと飛び跳ねて何かを叫んでいる。

芝生の奥には公園の周囲に沿って低木が並び、遠景には田んぼの先を横切る線路、そのすぐ向こうには住宅街が貼り付いている。線路を進むのは岡山―総社間を走る桃太郎線(吉備線)で、明るい朱色の車両は電車ではなく気動車。屋根にパンタグラフが載っておらず、ディーゼルエンジンで走る、いわばレールを進む路線バスのようなものだ。架線がないため走る姿もすっきりとしていて、遠くから見ると、線路のうえを短い鉛筆が滑っていくようでかわいらしい。上り列車が消えた先には、最上稲荷の大鳥居のくすんだ朱色がぼんやりと浮かんでいる。

背後で声がしたので振り返ると、ブランコとすべり台のあるささやかな遊具スペースで小学生たちがはしゃぎまわっている。以前来たときには部材の木が朽ちて使用禁止になっていたすべり台が真新しいものに更新されていた。階段ではなく、吊るされたロープを手繰り寄せながら登っていくスタイルだ。黒いジャージの男の子がすべり台のほうから登り、ロープで降りるという逆流の遊びを熱心にくりかえしていた。

この風景スケッチは、作家・乗代雄介さんを講師に迎えた創作ワークショップ『小説の練習 〜自分を変える風景を書く〜』の課題として作成したものを乗代さんに提出、添削・アドバイスをいただき、加筆・修正したものです。

乗代さんのエッセイでとりあげていただきました。

加筆・修正前の原稿が下記の作品集に掲載されています。


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