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店主と、本のある暮らし March 2023

こんにちは。いどうほんやKOKOです。
Instagramにて連載中の、【店主と、本のある暮らし】を
noteにも投稿していきたいと思います。

本との出会いや、交流のきっかけになればとても嬉しいです。


くつくつあるけ

March 3, 2023

【店主と、本のある暮らし】
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今日は桃の節句。
雪と氷に覆われていた道路も見え始め、お散歩が楽しみになってくる季節です。

冬生まれの我が子たちは、ちょうど生まれた翌年の春に、あんよができるようになりました。
かわいい靴を買ってお散歩したのが懐かしい!

さて、3月15日は靴の日。
1870年、築地入船町に、日本で初めての西洋靴工場ができた日です。
海外製の靴は既に日本に入ってきていましたが、日本人の足に合うものを作るためにと開設されたそう。

合わない靴を履いていると、ぐったり疲れますよね。
自分が自分ではないような気持ちにすらなってきて、早く裸足になりたい!と思った経験はありませんか?
でも逆に、なりたい自分に近づけてくれるものでもあるのですよね……。

わたしが子どもの頃からある、透明のビニール素材のあみあみのサンダル。
通称「ガラスの靴」は、まさにその典型のような気がします。
あれ、好きだったなあ。
そして長女も、大好きでした。

流行りのスニーカーや先の尖ったパンプス。
大事に履こうと奮発した革靴。

靴好きというわけでもないのに、靴の思い出は尽きません。

赤ちゃんの中には、靴を嫌がる人も多いのではないかと思います。
慣れさせるのに苦労した、今ちょうど苦労しているところという方もいらっしゃるかもしれませんね。

あらかじめお伝えすると、この絵本は、子どもが靴を履くようになるための絵本ではありません。

でも、靴と友達になってほしいなと願いながら、新しく仲間入りした友達の紹介と思いながら、読んであげるのは良いのではないかと思います。

また、既に靴と友達になった赤ちゃんは、きっと自分のことのように感じてくれるはずです。

そのうちきっと、靴は人生の相棒になると思うのです。
体の一番遠いところにあるけれど、一番身近な信頼のおける相棒。
ここぞというときに一緒に頑張ってくれて、怪我や汚れからも守ってくれて、素敵な自分にもしてくれる!

歩き始めた赤ちゃんたち!靴と仲良くなれますように。

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『くつくつあるけ』
作:林 明子
発行:福音館書店 1986年初版


のせのせせーの!

March 12, 2023

モノクロームの世界が、少しずつ色付き始める季節。

卒業や異動など、お別れの季節でもありますよね。
寂しさの中にも明るい希望を感じられるのは、春の気配が、背中を押してくれているからかもしれません。

『のせのせせーの!』は、2022年4月に発行された絵本です。
いどうほんやKOKOで、初めて仕入れをした本の中の一冊でもあります。
一度に同じ本を複数冊入荷することが少ない当店でも、売れては入れて、売れては入れてを繰り返し、昨年のベストセラーになりました。

ページをめくる前後の変化も楽しい絵本ですが、明るく優しい色使いに、心が刺激されます。
うきうき楽しくなるので、つい手にとってめくってしまう、そんな絵本です。

透明の絵本カバーにも、「のせのせ」な工夫が!

今年も、たくさんの方にお楽しみいただきたい絵本です。
作者の斉藤倫さんの『ポエトリー・ドッグス』(講談社、2022年)も在庫がありますので、ぜひお手に取ってみてください。

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『のせのせせーの!』
文:斉藤 倫・うきまる
絵:くの まり
発行:ブロンズ新社 2022年初版


星の王子さま

March 15, 2023

先日、楽しみにしていた映画『丘の上の本屋さん』を鑑賞しました。
イタリア・ユニセフが共同制作したこの映画は、イタリアのある村の古書店を舞台に、店主と移民の少年との交流を描いた物語です。

映画のホームページには、ブックリストも紹介されていますので、ご覧になってみてください。

さて、そのブックリストの中に、『星の王子さま』があります。
店主のリベロはこの本を、「一度目は理解するために、二度目は考えるために読むんだ」というような(うろ覚え)言葉とともに、少年エシエンに手渡します。

『星の王子さま』は、わたしにとっても、何度も読んでみる本の一つです。
一度目も二度目も理解するために。
そして何度目かでやっと、やっと自由に読めるようになりました。

『星の王子さま』は、さまざまな出版社から、さまざまな訳で出版されていますし、絵本版もいくつもあります。
読み比べてみるととても面白いのですが、わたしが馴染み深いのは、岩波書店から発行されている、内藤濯さん訳のものです。

正直なところ、何度躓いたことか。

子どものわたしには、言葉も難しかった。
例えば、まず1ページ目の「のみこんだけものが、腹のなかでこなれる」という表現。
「腹ごなしに散歩する」と言うことはありますが、「散歩のおかげで昼ごはんがこなれた」なんて言っている人を見たことがなかったので、「こなれる」んだからきっと、お腹の中の環境に適応したのかな?くらいに解釈していました。

今読み返して感じることは、一見易しい表現のニュアンスが、自分が知っているものとは違っていたのだなということです。
それは、文化への理解や経験が少ないということとも関係していますが、『星の王子さま』は難しいと言うのが長年の印象で、『星の王子さま』が理解できないなんて言ったら恥ずかしいか??と、密かにコンプレックスにも感じていたのでした。

それなのに、何故か何度も読みたくなる『星の王子さま』!

コンプレックスが解消したのは、集英社から発行されている、池澤夏樹さん訳のものを読んだ時でした。
まず、「こなれる」は「消化」って書いてある!わかりやすい!

大人になったからなのでしょうか……でも、こんなに自由に読めるなんて!と目から鱗が落ちました。

キツネとの絆の作り方がなんだかビジネス戦略に見えてきたり、バラに費やした時間云々もまあ理解できる。

何より、わからないところも受け入れられるようになっている自分に驚きました。

内藤濯さん訳も読める読める!
新発見だらけです。

卒業シーズン、長年コンプレックスだったこの本を、卒業生におすすめします。

何度も、読んでみてほしくて。

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『星の王子さま オリジナル版』
作:サン・テグジュペリ
訳:内藤 濯
発行:岩波書店 2000年初版


おさんぽステッチ

March 20, 2023

学生時代からの友人は、職人です。
今年1月に丸井今井YORIAImarketで開催した『本と睦む月に』で、そんな彼女の職人の一面を思って選んだ絵本『おさんぽステッチ』。

ものを作る喜びを伝える絵本を作りたいというエスメスの思いを、100%ORANGEのお二人がかたちにした一冊です。

自分の知識や技術を使って誰かを幸せにするというのは、ものづくりはもちろん、あらゆるシゴトの基本精神のような気がして、ふむふむと見入ってしまいます。

きっと、こんなことを考えるのは、今自分が、ちょうどそういうことを考えていたからなのでしょう。

シゴトなんて言わずとも、自分の起こしたアクションで何かが変化し、それがハッピーにつながったとしたら、こんな楽しいことはないですよね。

これは、大人も子どもも赤ちゃんも、同じだと思うのです。

子どもから初めてプレゼントをもらった時、涙が出るほど嬉しかったのですが、それは、おさんぽで偶然見つけた、たんぽぽや小石でした。

そのアクションはまんまと母を喜ばせ、その結果、家がたんぽぽや石ころだらけになったのは言うまでもありません。

それがいつの間にか、本屋さんのお母さんに似合うと思って……とはにかみながら、ちょうど欲しいなと思っていた、ベレー帽を選んでくれるようになるなんて。(出店の時、ときどきかぶっています!)

多くの赤ちゃんは、物を落とすのにどハマりする時期がありますよね。

「物を落とすと音が鳴る」(さらには、パパやママが「あー」と言って、落ちたものがまた戻ってくる!笑)のように、自分の行動が世界に影響を及ぼしたことへの大発見が、のちのちの複雑なコミュニケーションと幸せにつながっていくのかもしれないと思うと、何だか愛おしい。

この話、ちょっと脱線したように見えてつながっていると思うのです。

喜びが詰まっているエルメスの絵本、ぜひ読んでみてください。

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『エルメスのえほん おさんぽステッチ』
作:100%ORANGE
装丁:名久井 直子
発行:講談社 2022年初版


はるがきた

March 25, 2023

今年は雪解けが早く、気づけば、だいぶ大きくなった蕗のとうを見かけるようになりました。

桜も、いつもより早く咲きそうですね。

今日は、大好きな『どろんこハリー』の作者による、春の絵本『はるがきた』をご紹介します。

「はるは まだ こないのかしら」としずんだ顔のまちの人たちを見て、男の子がいいことを思いつきます。
そのアイデアはみんなを笑顔にし、市長さんをも動かし、まち中を巻き込んでいきます。

印象的なのは、男の子のこの言葉。
「ねえ!どうして はるを まってなきゃ いけないの?」

来ない来ないと言ったって、いずれ春はやってくるもの。

だから、待っていたっていいのだけれど、ただ待っているだけだったら、こんなに笑顔にはなれなかったかも。

春の訪れは人々を笑顔にしますが、それだけじゃなく、笑顔になれることを自ら行ったというところに、心を動かされます。

そうだそうだ、動き出そう!!

春の始まりに、絵本に背中を押してもらっています。

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『はるがきた』
文:ジーン・ジオン
絵:マーガレット・ブロイ・グレアム
訳:小宮 由
発行:主婦の友社 2022年初版(新装版)


きみの行く道

March 27, 2023

これから先は、自分で行く先を決められるという場所に立った時
まっさらな未来が眩しすぎて、戸惑ったという経験はありませんか?

わたしにとっては、高校を卒業した時が、その時だったかもしれません。

わからないことがあったら、調べたり人に聞いたりすればいいかもしれない。

でも、わからないのではなくて、選べないのだとしたら?

この絵本には、こんなことが書かれています。

「きみの頭には、脳みそがつまってる。
靴には、足が入ってる。
つまり、行きたい方角へちゃんと行ける。」

行きたくないなと思う道があったとしても、「つまらなそうな道へは、行くこたあない」と。

なんて、心強い言葉なのだろう!
あの頃の自分に教えてあげたい。

嫌だなと思うことは選ばなくていいということを知っているだけで、随分と気持ちが楽になる気がしませんか?

人生における困難な局面についても、ごまかすことなく描かれているこの本は、希望に満ちています。

「ふうん、そんなもんかなあ」なんて思うかもしれません。
でもきっと、「ああ、そういうことだったんだ」と腑に落ちる日が来るような気がします。

この春、何かに挑戦しようとしている方へ、お届けしたい一冊です。

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『きみの行く道』
作:ドクター・スース
訳:伊藤 比呂美
発行:河出書房新社 2008年初版

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