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レティシア書房店長日誌

「存在している 書肆室編」(ミニプレス1430円)
三重県津市にあるHIBUTA AND COMPANYは、異なった考えや生き方をしている人たちが、自由に過ごして束縛を受けず生きていける場所を作り出すことをコンセプトにしています。
「『目の前の一人から』居てもいいと思える場所(居場所)、自分を活かして働ける場所(珈琲店)、生きる希望を感じる場所(図書館/本屋)、生きていきたいと思える場所(住居)を、つくってきました。」その出版部門である「日々詩編集室」から「存在している 書肆室編」が出ました。


その中に村田奈穂の「気が付けば本屋」が掲載されています。
「本屋になるつもりなんてなかった。」で、始まります。そして「三十歳になった年の冬、私は次の日生きているかどうかも定かではなかった。」
病院での検査で直腸癌ステージ3dであることが判明し、そこから長い闘病生活が始まります。治療中、彼女が続けていたのは本を読むことでした。
退院後、彼女はある読書会に参加します。会では「私のようなどこの馬の骨かわからないような者であっても、『本を読んできて、その本について語りたいことがある』という一点だけで、その場合においては平等だった。」と強く感じるのです。そこで感じた安心感に強く惹かれて、積極的に読書会に参加していきます。紆余曲折を経て、本屋を立ち上げるプロジェクトに参加することになり、全くの素人から本屋の開業に走り出します。

ここからは、当店も歩んできた道と同じように、独立系出版社や、一人出版社等へのアプローチを、自分たちがやるべき書店の方針に取り込んでいきます。
「一人の人の本気の仕事が、賛同する他の人々を巻き込んで、その業界を、ゆくゆくは世界全体をゆっくりと変えていく。本物の『仕事』にはそんな力があるのだと、身をもって教えられたように思った。」私と同じような考えで本屋を立ち上げようとしている、とても嬉しい思いになりました。
「『ひとり出版社』の人たちが発する声を、地元に届けられる本屋になりたい。」ここには、当店でも長くお付き合いをさせていただいている出版社が沢山登場しています。

もう一つ、大事なことが語られていました。
「本の役割の一つとして、忘却を防ぐというものがあると思う。この先、第二次世界大戦を経験した生存者がゼロになる日が必ずやってくる。それでも、本に書かれた経験者の言葉を読むことで、その人の経験は消えずに残り続ける。この世界が続いてくる中で、あらゆる人々が味わってきた苦しみ、喜びを、その人の命が失われた後も世界に受け継がせてくれるのが本をはじめとする『記録』だと思う。」
これも本屋が守るべき仕事だと、教えてもらいました。

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