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レティシア書房店長日誌

黒川博行「悪逆」

 以前にも当ブログで書きましたが、黒川博行の新作は、出たらすぐに読むことにしています。ファンなもんで。


 「週間朝日」に2021年11月12日号から23年3月3日までの長きにわたって連載されていましたが、これが凄い!登場人物の数が多く、その数40数名にのぼります。大半が、大阪・滋賀の警察に勤務する刑事、巧みな配置で一人一人の個性を浮き上がらせてゆく手腕はたいしたものです。さらに凄いのが、総ページ580ページという分厚さ。もちろん、今年読んだ本の中で一番の重量です。さらに言えば、私にとっては心癒される?下品なセリフ。例えばこんな感じ。(刑事と詐欺師の会話です。)
「あんたは市民や。けど、善良やない。税金も払うてない。」「どつかれんなよ、こら。調子に乗りくさって」
さらにヒートアップして、
「あほんだら。寝言は寝てからいえ」「なかなかの強面やな。あんた、ヤ印か」「やかましい」
 スピーディーにやり取りされる主役の二人の刑事、玉川と舘野の会話などは、まるで上方漫才を聞いているようで、何度も吹き出してしまいました。
 本作は過払金詐欺師、悪徳商法の親玉、カルト宗教総務庁たちが惨殺され、その資金が強奪されたのを追いかけてゆく話。フツーこういう刑事物のラストは、主人公が犯人逮捕というアクションで終了するのですが、それがありません。逮捕の瞬間は描かれないままで、主役の刑事二人が自宅で鍋をつつくホンワカな雰囲気の中で、ぼそっと顛末が語られるだけ。刑事物の王道を突き進みながら、変化球っぽい描き方や、リアルな惨殺シーンも交えてゆく「大作」で、本当に面白い作品でした。私見ですが、いまのところ代表作だと思います。
 主人公の一人、箕面北署の玉川刑事と他の刑事とでこんなやり取りがあります。
(玉川)「仕事はできるけど、使いにくい………。そういう刑事(デカ)、い  てますな。」
(刑事)「君がそうか」
(玉川)「わしは口と愛想で世渡りしてますねん。」
玉川さん、愛すべきキャラクターです。

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