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レティシア書房店長日誌

樋口智巳「映画館を再生します」

 北九州市小倉駅から歩いて十数分の魚町商店街に、「小倉昭和館」という古い映画館があります。戦前、昭和14年に芝居小屋兼映画館としてスタートしました。2022年8月10日、この映画館が近隣の火事で全焼しました。祖父、父から引き継いでいた昭和館を、娘の樋口智巳が昨年12月に復活するまでを描いたのが本書です。(新刊/文藝春秋1320円)

 地方の古い映画館というなかれ!ここは多くの映画俳優、監督、小説家、などが応援していた劇場なのです。リリー・フランキーも火事を知って、すぐに連絡をしてきた役者の一人でした。
十数年前、彼女には支えになった手紙がありました。それは映画館を継ぐかどうか悩んでいた時、親交のあった高倉健から届いた手紙でした。
 「映画館閉鎖のニュースは、数年前から頻繁に耳にするようになりました。日々進歩する技術、そして人々の思考の変化、どんな業界でもスクラップ・アンド・ビルドは世の常。その活性が進歩を促すのだと思います。」
甘い言葉ではありませんが、彼女は健さんが映画館経営を励ましてくれていると感じ取ったのです。手紙はこんな文章で締めくくられています。
 「夢を見ているだけではどうにもならない現実問題。どうぞ、日々生かされている感謝を忘れずに、自分に嘘のない充実した時間を過ごされて下さい。ご健闘を祈念しております」
 後生大事にしていたこの手紙も、火事とともに消滅してしまいます。本書は、何もなくなってしまったところから、多くの支援者の協力を得て「昭和館」を復活してゆく様子が詳細に語られていきます。
「映画館をゼロからつくるのは、莫大な先行投資が必要です。昭和館が復活することになれば、最初はみなさん、うちに来てくれると思いますが、十年後や二十年後は、どうなるのでしょうか。生きのこれるのは、並大抵なことではありません。」
 彼女は何度も立ち止まり、思案し、それでも街から映画館の灯火を消さないために、やったことのない経営に挑んでいきます。そんな彼女をバックアップする役者、映画関係者、歌手など多彩な人物が登場してきます。その中には笑福亭鶴瓶もいました。彼は、自分のドキュメンタリー映画「バケモン」を無償で映画館に提供、さらに小倉に来て上映の後、落語をしてくれたとか。
映画「バケモン」のなかにこんな言葉があります。
「何もしなければ道に迷わないけれど、何もしなければ石になってしまう」著者は石にならないように動き続けます。そして、「小倉昭和館」は、2023年12月無事に営業再開にこぎつけました。

●レティシア書房ギャラリー案内
1/10(水)〜1/21(日) 「100年生きられた家」(絵本)
1/24(水)〜2/4(日) 「地下街への招待パネル展」
2/7(水)〜2/18(日) 「まるぞう工房」(陶芸)

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