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レティシア書房店長日誌

光嶋祐介&青木青兵「つくる人になるために」

人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」を奈良県東吉野村に作り、様々な活動を行なっている青木青兵と、「つくるをひらく」(ミシマ社)、「増補みんなの家」(筑摩書房)など多くの著書がある建築家光嶋祐介の二人による往復書簡集が、地元京都の一人出版社「灯光舎」から刊行されました。(2420円)

往復書簡集ってスリリングなものが多いのですが、当事者にとっては結構しんどいものだと思います。何故なら、相手の知性へのリスペクトを失うことなく、さらに高度な議論を推し進めつつ、自らの思想を鍛えてゆく作業だからです。読者をほったらかしにしての、難しい議論は退屈以外の何物でもありませんし、かといって、わかりやすいテーマだけを適当にキャッチボールしてもつまらないだけです。その点、この二人は明確な論理と適切な言葉が選択されていて、すべて理解したとは言えませんが、面白く、いろんなことを考えさせられました。


「僕たちは『わからない』という状態をあまりにも不快に思うところがないでしょうか。わからないことは間違いであると学校で口を酸っぱくして言われて育ってきました。しかし、わからない状態というのは、不安ではあるものの、そんなに悪いことではないと思うのです。むしろ、わからないという状態は、次なる可能性に満ちていて、動きを生成する豊かな土壌ととらえることができる。僕たちは、何事においても因果関係をはっきり理解して『わかった』気になりたいというふうに思いすぎていないでしょうか。」とは、光嶋祐介の発言です。何事もどんどんと進んでゆくこの世界にあって、ちょっと立ち止まるというのは、なかなか勇気のいることかもしれません。「わかりません」と声をあげ、どこまでが理解できていて、何が理解できていないのかをぶつけるという対話を続けることが必要なのです。
本書では、様々なテーマを取り上げられています。私たちがめまぐるしく変遷するこの世の中でつい忘れてしまいそうになる、人間としての考えていかねばならないことが浮かんできます。

「僕にとってこの往復書簡は、生きるための土壌を耕すような、生態系を取り戻すような、循環する世界を足元からはじめるような、そんな言葉の送り合いでした。 この往復書簡が、みなさんが生き物として少しでも心地よく生きられる一助となればうれしいです」と青木は書いています。
二人の言葉の応酬を楽しみながら、私たちも「考える」ということの原点に今一度戻って、自分の信じる世界を構築してください。

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