逆噴射2020ライナーノーツ 没作品編


エル『こんばんは! 夢世のエルよ』

しもべ「こんにちは。しもべです」

『投稿作に引き続き、書いたけど応募はしなかった、いわゆる没作品5発についても語っていくわよ!』

「熟成させて来年までとっておこうかな、とも思ったのですが、アイディアを出し惜しみする奴は腰抜けと逆噴射先生も仰っていたので、こうして形にしてみました。投稿作以上に拙い作品ばかりかもしれませんが、書いてる本人はとても楽しかったので、未読の方はぜひご一読くださいませ」


1発目:その苦しみは生きるかぎり続くのか?

イメージのもと
■小説:白狼の子たる修道女(自作品)
■音楽:裏切り者のレクイエム - ハセガワダイスケ

『前回のライナーノーツで、白狼の子たる修道女は長編化する予定って言ったわよね。この作品はその2作品目のオープニングをイメージしたものよ』

「白い髪の修道女に対して、黒い羽根の修道士。対になってますね」

『バットマンに対するジョーカーみたいに、何もかもが真逆といえるライバルキャラを探したからね』

「実はこれ、全10発の弾丸のなかで最初に書き上がっていた800字でもあります。ストーリーラインはほぼ浮かんでいるので、逆噴射小説大賞の練習としてちょうど良いのではないかと思いまして」

『没にした理由は?』

「全体的なパンチ力不足と、色々な要素が他の弾丸と被っちゃったからですね。家族を亡くして病んでしまった優男が主役な点とか。でも没にしたとはいえ続きは浮かんでいますから、長編一作目を書き上げることができたら、ぜひこれも書きたいです」


2発目:剛腕羅刹のネクロマンサー

イメージのもと
■ゲーム:世界樹の迷宮V(父親のヴィジュアルイメージ)
■小説:ニンジャスレイヤーのアンブラ(ミナのイメージ)

なんか重苦しい作品ばっかりでお腹が重い、コメディ風の作品も書きたい……ってしもべ君が愚痴ってたからそれっぽいのを持ってきたやつ。反抗期真っ盛りのヤンキーネクロマンサー娘と、ムキムキマッチョのネクロマンサー親父の気まずくも楽しい二人旅って売り込みね』

「主役がネクロマンサーってあたりにどうしても闇が滲んでいますが、実に楽しかったです。全体が明るい話は全然書いてこなかったので」

『闇が深いわねぇ』

「闇が深いアイディアしか持ってこないのはエル様の方で……アッいえ何でもないです」

『アイディアの根っこは元々、しもべ君が遊んでいた世界樹の迷宮Vっていうゲームね。自分でキャラメイクするWizライクゲームなんだけど、ネクロマンサーを奥さんが塩とゾンビパウダーを間違ったせいでゾンビ化しちゃったっていう設定で遊んでたから、それを掘り起こしてきたの』

「何がどこで素材になるか分からないものですね、ほんと」

『これを没にした理由は?』

逆噴射小説大賞のフォーマットを意識しすぎて不自然な感じがしたからです。書き直しても良かったんですが、もともとストレス解消のために考えたものであって、ここでぐちぐち悩むのは本末転倒だなと思ったので、スパッと切りました」


3発目:白黒はっきりつけたい倶楽部

イメージのもと
■音楽:ハルジオン - YOASOBI

なんか重苦しい話ばっかりでお腹が重い、カワイイな作品も書きたい……ってしもべ君が愚痴ってたからそれっぽいのを持ってきたやつ。そんなに重かったのぉ?』

「一時期なんにも食べてないのにオエオエ言ってましたよ。まあ自作を発表することへの緊張のせいだとは思いますが……。でも実際、この子たちを考えてるとスッキリ癒されました」

『これはタイトル先行型作品ね。白と黒、何もかもが対になる二人、でもとっても仲良しで……って探していたら、割とあっさりこの娘たちが見つかったわ。特に黒の方の子は《剛腕羅刹のネクロマンサー》を起点に探したから』

「さらにこのタイトルから、《「し」「く」「は」っきり「つ」けたい「く」「ら」「ぶ」》 → 四苦八苦羅武・Seek Hack LOVEというキーワードを導き出して、一気に二人のキャラと作品の方向性が決まりました。ほんと、タイトル先行型って強い」

『でもこれは没なのよね』

キャラクターは立ったけど話を動かすことができなかったからですね。このストーリー、この主人公ならこの始まり方だろうとは思うんですが、逆噴射的には違うという判断です。でもこの子たちのお陰でお腹がスッキリしたからよし!」

『そいつはよござんしたねー』

(ぜったい興味ない)


4発目:灯台と茨の国

イメージのもと
■現実:レドンダ王国

なんか重苦しい話ばっかりでお腹が重い、カワイイな作ひ……さっきのでスッキリしたんじゃなかったのあなた!』

「いいじゃないですか! カワイイはいくらあっても困らないんですよ! 宇宙の天秤が平和にかたむく!」

『(白い目)』

「それは兎も角として、自分の作品はおふざけが少ないなあと常々感じてて、練習がてらちょっと変なのを考えたくなったんですよね」

『で、レドンダ王国っていう素材からパルプのにおいを感じたってわけね』

「最初は島に眠る財宝を目当てに王位継承権をめぐって兄弟たちが争うバトルロワイヤル……で行こうかと思ったんですけど、もっと王国っていう素材を活かした方向にしたいなと考えた結果、グリム童話と結びつきました。さらに一捻りくわえて主人公を女性に。王子様志望のおじさまどもをバッタバッタとなぎ倒しつつ、事態を収束するために自分で茨姫を起こしに行く王女様の珍道中という筋道が出来上がりました」

『……カワイイの、これ?』

「ほら、主人公がね、これから、ね……?」

『現時点だとカワイげ全然感じないわよこの子。父親のこと大事にしてんだかしてないんだか……いいキャラしてるとは思うけど』

「ほら、茨姫様もね、いるから、ね……?」

『順当に進んだら出てくるの終盤っぽくない?』

「……いいんですよ! 最初に考えてたのから大分ズレても! スッキリはできたんですから!」

『(白い目)』

「え、えっと、没理由は2発目と同じくフォーマットを意識しすぎたことですね。とぼけた雰囲気のおかげで何とかなってる気はしますが、自分はどうも不自然に感じました。あとは王国の承認書を奪えば王子になれるっていう理屈も強引な気がしたので、もっと時間をかけて練るか、逆にもっと思い切りとぼける必要があると感じました。どちらにせよ10月中に出せそうにないな、と判断したので見送ることに」


5発目:紅色に錆びた爪

イメージのもと
■小説:吸血鬼カーミラ
■音楽:紅、Rusty Nail - X Japan

レ・ファニュの吸血鬼カーミラを題材に、女吸血鬼×人形×人間の爛れた関係を描く百合小説……っていう触れ込み。ここに来て重苦しいのに戻ってきたわね』

「もうだいぶスッキリしましたからね」

『タイトルは言わずと知れたX Japanの名曲ふたつから。特にヴァンプマトンの発想はRusty Nailの曲名から辿って見つけたわ。冒頭ではカーミラの視点で始まってるけれど、タイトル的にはローラが主人公ってことになるわね』

「レ・ファニュの原作は、成り行きからカーミラと共に過ごすことになった少女『ローラ』の手記という形をとっています。そのラストにおいてカーミラは杭を打たれて滅ぼされてしまうんですけど、手記という形ならばそこに嘘が盛り込まれてることもあるんじゃないか?と思ったのがきっかけで、『ローラ』の意思によってカーミラは生き延びたというIF世界を構築したのがこのお話です。ローラの口調や外見は原作に則っています。ただカーミラは原作通りの口調だとローラとほぼ同じになってしまって区別しにくいので、改変しました。正しいとは思ってますけど、地味に悔しいです」

『ローラの一人称がじゃなくてわたくしなのも原作(訳:平井 呈一)に則ってのことね』

「おかげで文字数調整に苦労しました……」

『これ、結構うまくできてるんじゃない? 吸血鬼が血を注がれる側っていうのも珍しい気がするし。なんで没にしたの?』

「形になったのが投稿作5発目の《暁滅のナイトフォール》を完成させた後で、既に4発目まで投稿済みだったんですよ。二者択一でどっちを投稿するかなーと悩みに悩んで、投稿する5作のバランスを散らす方向に判断機軸を設定したんですね。つまりこっちだと全体が暗くなりすぎるということで、泣く泣く没にしました。出来自体は気に入っているので、続きを思いついたら書きたいと思いますね」

『いいと思うわ。誓いを守りたいのにかつての想い人の面影に衝動を抑えきれない吸血鬼……自分は代替品だと分かっていても主のために《本物》の血を吸おうとする人形……先祖とヨロシクやってた吸血鬼と先祖そっくりの人形を殺したい人間……爛れた殺し愛……うふふふふ……』

「(白い目で見てやろうかなと悩む目)」


振りかえってみて

『さて、没作品についての解説もひととおり終わったけど、どうだった?』

「没とはいえ、どれも考えていてとても楽しかったです。そもそも没にした理由の多くは逆噴射小説大賞のフォーマットに合ってないとか、逆に合わせすぎたとか、作品自体の面白さとは別の観点からのものですし。このまま続きを書いていけば面白いものに仕上がるかもしれないな、と思います」

『逆噴射フォーマットはあくまで冒頭の800文字だけで競うもの。言ってみれば100m走の最初の10mだけを見るようなものだから、実際に100m走ったら結果は変わるかもしれないものね』

「大切なのは、自分はどんな目的で作品を創るのかという部分をちゃんと認識すること。10mを速く走り抜けたいのか、100mなのか、42.165kmなのか、そもそも良い記録ではなく走ることそのものを目的とするのか。それを見失わないように、と肝に銘じておくことにしましょう」

『Practice Everyday……』


(おしまい)

※投稿作のライナーノーツはこちら

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