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田舎で~本屋開業日記⑤

街にどんな本屋を作りたいのか?

そんな問いを紐解いていくと、幼い頃、祖母が連れて行ってくれた街の本屋に行き当たる。

伊豆の松崎町に、まりや書店という小さな本屋がある。
残念ながら、来春70年の歴史に幕を下ろす事になった街の本屋である。

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幼い頃の私は、共稼ぎの両親によって母方の実家にあずけられる事が多かった。しばしば祖母は私をまりや書店に連れて行っては、絵本や玩具、駄菓子などを買い与えてくれた。幼いながら、本屋という空間をパラダイスのように感じていた。
当時、本屋の中には町の老若男女様々な人間が集っていて、本を介在としたコミュニケーションを楽しんでいた。
そんな世代をこえたコミュニティの中で多種多様な体験をさせて貰ったように思う。
放課後ともなれば子どもたちは街の本屋に繰り出して、床に座り込みながら読書を満喫した。時々、行儀の悪さを大人たちに叱られる事はあっても、追い出された事などは一度も無い。知の冒険が気軽に出来る空間がいつもそこにはあったのだ。
学研の「ひみつシリーズ」をはじめとする学習漫画はとても人気があった。それから、学年誌だって中学時代とか中学コース、高校~なんてのもあったっけ・・・。

成長とともに欲しい本は移り変わっていったが、目的ではないジャンルの本を一緒に眺めることが出来たのは、その後の興味関心を養うのに一役買っていたように思う。買う買わないに関わらず、子どもたちが居ても良い(民間の)空間が身近にあるのは心強かった。

きっと、往年のまりや書店のような本屋を僕は街に作りたいんだと思う。セレクトされたとかパンチの効いたとかそんな本屋じゃなくて万人に優しく敷居の低いフツーの本屋なんだろう。
だから今の時代でもフツーに立っていられる仕組みを考えて、本屋を増やすチャレンジしていくのだ。

「まりや書店が閉店する最後の日に、どうか僕をレジに立たせてくれませんか?」とおばちゃんに申し出てみた。
たぶん、きっと郷里の読書文化を育んできた書店の何かを、最後に自分の心に刻み込みたかったのだと思う。

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「アリガトね。でも、手伝って貰うほどお客さん来ないから大丈夫よ。」アハハハハハ♪と高笑いしながら、あっけらかんと返すおばちゃんの潔さに救われ、そして、「ウチは一度たりとも取次への支払いを滞らせたことはないのよ。これ自慢。書店の経営はね絶対に借金は駄目よ。儲からないんだから(笑)無理しちゃ駄目なんだからね。」とのアドバイスを肝に銘ずるのだった。
「体が動くうちにやめるの。」退き際まで、教えて貰った書店員の大先輩、有難う。感謝しかないよ。

いつか・・・、この地には本屋を復活させたい。

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