見出し画像

田舎で~本屋営業日記 R4.1.13

「僕のことを覚えているんですか?」驚いたように青年は聞き返してきた。

「もちろんです。」
ひと月ほど前、筒井康隆の著書でお勧めを尋ねてきた彼は、私が紹介した本の中から「旅のラゴス」(新潮文庫)を購入して帰った。

「あの本、凄くよかったです。」と言いながら、二度目の来店となった今日、身の上などをポツリポツリと話してくれた。16歳であるということ。杜氏を目指し、岡山から単身この地にやって来たこと。そして、本が好きであるということ・・・。
杜氏になれたら、作ってみたい目標の酒を認めたメモ書きまで見せてくれた。
彼がそんな話しをしなければ、二十歳くらいかと見まがうほどに大人びていたし、礼儀正しく物怖じしない口調は、アイデンティティの確立を感じた。

今日もお勧めして欲しいという彼に紹介したのは、『土と内臓』(築地書館)、『分解の哲学』(青土社)、『菌の声を聴け』(ミシマ社)、『新しい発酵ごはん』(静岡新聞社)などから、心境に合わせ、蔵仕事の合間でも読めるような小説に及んだ。

帰り際、「日本酒は飲みますか?」と聞いてきた彼に、「君が作ったお酒なら、是非飲んでみたい。」と答えた。
いつの日か、夢を叶えて欲しいと思う好青年との出会いだった。

街で本屋を始めて2年になるが、一度来店し、お話したお客さんはほぼ覚えている。小さな本屋だからこその楽しさがある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?