県民投票

 九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の20年運転延長の是非を問う県民投票実現に向けて、県民有志が6月から署名活動を始める。私もその一人だ。原発問題というと、技術的な問題がフォーカスされる。もちろん、技術的課題を議論することは必要だ。ただ、それ以外の重要なことが忘れられているように思う。それが、民主主義だ。
 鹿児島県では県原子力専門委員会分科会が20年延長を検証している。南日本新聞によると、九電側は「『商業機密』などを理由にデータ開示に消極的なケースが相次」いだという(*1)。委員が知りたいと主張するデータもなしに、そもそも何が検証できるのだろう。「商業機密」だけではなく、核物質防護上、開示されない資料、データも多い。
 ドイツの緑の党の綱領「緑の党は何をしようとしているのか」(1980年)では、原子力を所有する社会について、こう述べている。「核エネルギーの使用は民主主義と種々の基本権を危険に曝しているだけでなく、安全性に関する高いリスクのために、我が国に警察国家と監視国家への道を歩ませている」(『脱原発の哲学』佐藤嘉幸、田口章臣)。
 「民主主義」は「人民が権力を所有し行使するという政治原理」と定義される(大辞林第4版)。原発については、情報量で見れば、国・企業と一般市民の間には大きな差がある。軍隊もそうだ。情報がなければ、「人民が権力を」持つことなど、到底できない。原子力発電を維持するということは、非民主主義下の社会で生活し続けるということに他ならないのではないだろうか。
 福島第1原発事故で、原発は「絶対安全」ではないことが誰の目にも明らかになった。20年延長問題で議論されるべきは、安全性だけでなく、私たちはどのような社会に生きたいのか、ということだ。
 有権者の50分の1=約2万7000筆超の署名を集めれば、知事が県議会に条例案を提案。県議会で可決されれば県民投票が実現する。総務省は直接請求制度について、「間接民主主義の欠陥を補強し、住民自治の徹底を期するため、直接民主主義の原理に基づく直接請求の権利を住民の基本権として認めているもの」とホームページで説明している。法定数超の署名が集まるということは、20年運転延長の決め方について、県民が「欠陥がある」と指摘したということだ。署名が集まった暁には、全県議が条例案に賛成してくれるものと信じている。

「(…)私は核分裂に関係する仕事には参加しないと決心したのだ。人間が理性的に暮らすには、現在の善と善良さは十分ではない。(…)原子内部にあるエネルギーが人間の手に握られたら、どうなるだろうか。(…)」

『人生と運命 3』(ワシーリー・グロスマン)p130



*1)南日本新聞 373news.com 「【詳報】川内原発運転延長「適正」総括 独自性発揮に苦慮 県分科会報告書 議論不足を指摘する委員も」
https://373news.com/_news/storyid/173590/(2023年5月5日閲覧)


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