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読んだ本の感想

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卍丸的な読書感想文集
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#海外文学のススメ

絶対的空間の欠如と回復──非暴力の企て

妻と週末に庭の柿をいくつか収穫した。キッチンに無造作に置かれた柿と同化するかのような西日…

卍丸の本棚
7か月前
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Fight Club Chuck Palahniuk

いつだったか忘れた。ある大事な友人Kが亡くなって、その子と共通の友人と寮でファイトクラブ…

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須賀敦子さんのイタリア文学論を読む  第2回 現代詩論編

はじめに前回の中世詩論に続き、今回は須賀敦子さんのイタリア文学論から現代詩論について。 …

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須賀敦子さんのイタリア文学論を読む  第1回 中世詩論編

はじめに二〇二二年九月十七日から、一日一篇須賀敦子 というハッシュタグをつけて、僕は毎日…

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ヘッセとクリムトのダナエ

この詩が僕をむかし掴んだ頃のように、今、僕を捉えて離さない。かつての頃よりも深いところで…

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サーガとマジックリアリズム① フォークナーとガルシア=マルケス

村上春樹さん(以下敬称略)の新刊にガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』が出てくるらしい…

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『黒いチューリップ』 アレクサンドル・デュマ

『黒いチューリップ』 アレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ) フランス文学 1850年作 作品の舞台は三銃士のダルタニアンから二十年後くらいのお話だろうか。 勧善懲悪な冒険活劇で程よい純愛がある。 デュマの作品は三銃士ものやモンテ・クリスト伯など、ひとつひとつがとても分厚い。 そんなデュマの作品群の中でも、『黒いチューリップ』は奇跡的に小ぶりで一冊に収まるため、時々読み返している。 小ぶり故にモンテ・クリスト伯のようなスケールの広がりはあまりない。 しかしなが

『同調者』アルベルト・モラヴィア

夕方、妻に買い物を頼まれて、材木座近くのドラッグストアへやってきた。車の中に夕暮れの西日…

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『ある家族の会話』 ナタリア・ギンズブルグ

こんなにひとりの翻訳者を追いかけたことはないかもしれない。 須賀敦子全集から知ったナタリ…

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Memoirs of Hadrian

回想とは、過去あるいは歴史における己の生への賛歌だろう。 誰かの頬をつたう涙はその讃歌の…

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善悪とr>gを超えたヒューマニズム

はじめに8月に、少し前に流行った本、フランス経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本』を再…

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ワーニャ伯父さん─ 中年からの生き方小説

かわいい女・犬を連れた奥さんなど、チェーホフの短編はリアリズム溢れる文章にシニカルさや風…

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アリ・スミス四季四部作④『夏』

はじめに四部作全編を読み終えた感想 前三作品の伏線のように散りばめられたものたちが回収さ…

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アリ・スミス四季四部作①『秋』

※本投稿は、どの政党を支持するしないと扇動したりするような内容ではありません。 「何を読んでいるのかな?」 スコットランド、インヴァネス出身の作家、アリ・スミスの四季4部作、第一弾の『秋』の中で、老人介護施設で眠り続ける101歳のダニエル・グルックがかつて主人公エリサベス・デマンドにいつも、そう尋ねていた。 英国ポップアートのアーティスト、ポーリーン・ボディのコラージュを見ているかのように1960年代や2000年代を行ったり来たりする物語。作中の老人は落ち葉を揺らす美しい