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夜行バスを救いたい〜夜行バスを下に見る風潮やめろ〜

わたしは大阪在住だが、家族が全員東京に住んでいるため数ヶ月に一度は東京に遊びに行く。そんなハイペース帰省を利便性と金銭面の両面において支えるのが、夜行バスだ。

夜行バスとわたしの付き合いは長い。
まだこの世で一番面白い遊びは鬼ごっこだと考えていた小学4年生のとき、祖父母の家に行くために初めて夜行バスを利用した。夜行バスが発車するような時間に外に出る機会などなかなかない年齢。夜の冷たく尖った空気にソワソワしながら、お母さんに手を引かれて大阪駅エリアと梅田スカイビルをつなぐ暗い地下道を通った。

その後も、遠方に住む祖父母や東京に住むお父さんに会いに行く手段はたいてい夜行バスだった。地下アイドルを西から東へ追いかけ回していた大学時代なんかは、月に1回ほどのペースで乗っていた。
わたしと夜行バスは、長くて深い付き合いなのだ。

だが、20歳を越えて、それこそ社会人になって気がつく。
東京に行く手段を問われて夜行バスだと答えると向けられる、眉をひそめ、目を細めた表情。ほおを両側からひっぱったように横にひろげた口から発せられる第一声は決まって、「え〜っ…」。

それに続く言葉はバリエーションがあるが、とどのつまりは「新幹線や飛行機じゃなくて、夜行バスを選ぶ貧乏人」というレッテルを貼られている。

確かに、他と比べればバス移動の身体的負担は大きい。
しかし、旅を楽しむのに最適な移動手段は夜行バスだとわたしは思う。

まず第一に金銭面。バスのタイプに応じて値段にもバリエーションが多いが、快適な3列シートのタイプを選んだとしても料金は新幹線の2分の1ほどで済む。

次に時間の面。夜行バスはたいていマクドかドトールしか空いていないような早朝に到着する。社会人にとっては1分1秒が貴重な休みの日。朝からみっちりと有効に使うことができる。

電車や飛行機自体が趣味な人は例外だが、そうでない人たち、ぶっちゃけ移動手段にこだわる意味ある?
旅先の美味しいごはん屋で、値段に躊躇して下から2番目のコースを選ぶなら、夜行バスにして浮いたお金で上のコースを頼む方がいい。
どうせ旅行中なんて疲れて眠くなるものだから、出勤よりも早い時間に慌ただしく家を出るよりも、前日の晩に出発して余裕のある次の日を迎えたい。
最善のコンディションで旅行を楽しむためには、やはり夜行バスが最適ではないだろうか。


加えて、わたしは単純に夜行バスとそれに関する諸々の薄暗い雰囲気が嫌いではないのだ。

新幹線のホーム、空港に比べて圧倒的に治安の悪いバスの待合所。そこにいる大半は色素の抜けた髪や毛玉のついた服に身を包まれた若者たち。また、身なりへの無頓着さを感じられるオタクっぽい人も多い。スッピンで下を向いてスマホをいじりつつ、待合所のイスが空く瞬間を狙いあっている。

暗くて静かなバスの中。カーテンの隙間から漏れる外の明かりと、ねむれない乗客がひそやかにいじるスマホ画面の光。静寂の中、思いの外に大きく聞こえる車道を滑るタイヤの音は、非日常のBGMにふさわしい。(どうしても気になる場合も、AirPodsのノイズキャンセリング機能は有能なので問題なし。)
これは自論だが、締め切られた車内で、アナウンスの指示通り、後ろの席に座る人に「座席を倒していいですか?」と聞く人は体感6割くらい。意外と多いよね。

他の人の話を聞く限り、自分は夜行バスでかなり眠れるタイプなのだが、それでも寝付けない時もある。そんなときも、身動きの自由がない閉鎖空間で思考に耽るのは楽しい。

往路では旅先での予定に胸を膨らませている。下調べをする訳ではなく、旅で起こるあれやこれやを妄想するだけ。わたしは具体化されずにふわふわした楽しみを追いかけるのが好きだ。
帰路は旅の思い出を振り返りながらも、意識はだんだんと日常のことへ。気がつけば今後の生き方について思案している。仕事、やめたいなぁ…。

自宅のベッドに入ると5分以内に入眠してしまうので、果てのなさを感じる、眠れない夜にも、旅ならではの新鮮さを感じる。
夜行バスは安価で、利便性が良く、楽しい。
夜行バスは消極的な選択肢じゃないんです。
ただ、「ディズニーの帰りに乗った夜行バスの運転手が道に迷って、見知らぬ山奥に連れて行かれた」と言ってたYちゃん、あなたが夜行バスに向ける否定的な視線はめちゃくちゃしょうがない。

AM3:00の浜松パーキングから見えた夜空

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