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パスタの適正な長さについて考える

暗殺者のパスタというおだやかではない名前のパスタがバズってた

最近、というかちょっと前だけどtiktokのおすすめによく「暗殺者のパスタ」というレシピが流れてきた。レシピじゃないか、調理法ダイジェストみたいなショート動画だ。プロ料理人が作ってみたとか、アレンジレシピみたいなやつとかバリエーションも流れてきた。特徴としてはお湯を沸かして茹でるのではなく、パスタを炒めて、トマトピューレを継ぎ足し煮詰めていくという、なかなかに斬新な方法だ。レシピについては調べればあちこちにあると思うのであらためて紹介はしないがそんな感じ。穏やかではない名称だが、このレシピ発祥の地イタリアでそのように命名されたらしい。そそる動画を何度もみると作ってみたくなって、作ってみた。

どのレシピにも共通した儀式があって、標準サイズの長さのパスタを二つに折るのだ。お湯で茹でるならパスタはすぐ柔らかくなるが、乾麺を炒めるこのレシピでは家庭用のフライパンにパスタが入らないので仕方がないのだがいきなりここから抵抗があった。長い歴史でちょうどいい長さになっているものを半分にするのはいかがなものかと。少ないお湯で柔らかくなるまで茹でてから湯を切って炒めるのはどうだろう、とか考えたがいきなりはみ出すのもどうかと思ったのでレシピ通りやってみた。

パスタを作る時って、麺を茹でている間に具?というかあえる具材を作ってがっちゃんこ、いつもそんなに凝ったものは作らないのでむしろお湯が沸くまでの時間にできちゃって、茹でている時間が余っちゃったりする。それも逆算して作ればいいが、調理時間を決定づけるのは湯が沸くまでの時間だったりすることが多い。村上春樹のように「やれやれ」とスパゲティーを茹でる間に短編小説を読む、なんてことはできないなあ。あと、ガス代も上がっている折にちょっと気になったりもする。その点、これは時短にもなるし湯も捨てない。フライパン一つでできるのもいい。

味つけに関してはまあ、適当に。あまり具を入れないポリシーなのはわかるがそれは好きなようにやらしていただく、とマッシュルームとウインナーの輪切りを入れたりしてみた。ちょっと、ナポリタンに寄せる感じで。

できた。食べた。そして。

パスタの茹で時間相当と炒めるとのことだったけれど、満遍なく芯まで火を通すにはもう少しかかった。3人前を作ったので、麺が重なったからかもしれない。火加減かもしれない。ともかく、できた。食べた。アルデンテとか茹ですぎ、の硬さとはまた違う、おこげの香ばしさと麺自体のもっちりの2面ある感じ。そして生地に練り込んだごとくしっかりトマトが染み込んでいる。確かに具材をあえるパスタとはテイストが違う。でも気に入った。子供たちの評判も悪くなかった。いつもと違うね、これはこれで、みたいな感じ。女子高生はSNSで知っていたらしく、「これ、あれでしょ」と気づいてくれた。

さあ、これは特に夏とかたくさんのお湯を使いたくない時は特にいいな、ペペロンチーノ系とかもできるかな、その場合水足しは何にしたらいいだろうか、などを考えてみたりした。スープスパゲティ系は相性いいかもな、私は今回トマトジュースとピューレでやってみたが、やっぱトマト系が染み込ませ的にはいいのかもなあ、などと思いを巡らせていて、ふと気づいた。

最初にかなり心理的に抵抗があった、パスタの長さが半分であることに全く意識せずに食べ終わってしまったことに、である。食感の違いとか味つけに関しては多少意識していたが、麺の長さについては良くも悪くも全く違和感を感じなかった。どういうことか。

息子はフォークでパスタを適当な量巻き巻きするのが苦手だ。最初に真ん中ズバッとフォークを入れそのまま巻き巻きするとこぶし大の巨大なお団子みたいになってしまい口に入らない。お皿の辺境から適当な量を見当つけて差し込み巻いていく。これは経験を積むことでまず解決する。息子はその塩梅をまだ体得しておらず、おっきくしたり、少なくてほどけてしまったり、見ていてなかなかもどかしい。今回は悪戦苦闘がなかった。巻き巻きの対象物が短かったため巨大化されなかったのが大きいのではなかろうか。塩梅をわかっている私はそんなことにさえ気づかなかった。これは何を意味するのであろうか。

結論:暗殺者のパスタはパスタの「ちょうどいい長さ」の概念を変えた

ラーメンや蕎麦の長さは多分にすする快感、唇に当たる感じや麺とスープの絡んでいる感じ、あと「食ってる感」を演出するのに重要な意味があると思われる。すすらずにひと口分を口に運ぶパスタに関していえば長さが料理そのものの味わいに影響される部分は少ないのではないだろうか。となると無器用な子供とかでも食べやすいこの長さは、マイナスではなく、実はありなんじゃないか。マカロニやペンネなどそもそもバリエーションがたくさんあるわけなのだけど、スパゲティは見事に長さが一律(私の印象)だったのでこれは新鮮な発見であった。ただ、こんなに長文で表現しなければいけないほどのインパクトがあったかというと、正直、そうでもないけれども。

カバー写真:全然暗殺者じゃない、会社の近所のイタリアンのパスタ




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