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日食なつこ 極私的批評

10年以上前。孤高のシンガーと出会った時の事を今でもハッキリ覚えている。

1時45分からの30分、深夜の音楽番組。キーボードを弾きながら歌う彼女にロックオンされた。その頃は自分の中ではバンドブームでとにかくバンド編成だったらなんでも聴いて耳を肥やしていった。逆に言うとバンド以外のSSWやソロアーティストなんかはあまり聴いていなかった。彼女は他の誰とも違って見えた。成長過程の細い身体から説得力に満ち満ちた「」を紡ぐ彼女の力強さは見た目じゃ図れなかった。

「なんかこの人凄い」「こんなの聞いた事ない、いや凄いわ」「だって周りバンドだらけだよ?」「1人で演奏もとちらず、堂々と歌ってるってすげーな」「しかも一個下!おれもなんかしなきゃ!」

当時の映像がありました。

と深夜1人身悶えていた。ストリートファイターズ(ストファイ)というテレ朝系の音楽番組があり、どハマり番組の中で日食なつこを見つけた。2009年18歳以下限定の番組音楽フェスの東北エリア代表として演奏した彼女は番組内でも注目され1stミニアルバム「LAGOON」を2010年に番組からリリースする運びとなった

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オフィサルサイトかitunesでしか購入出来ない仕組みで、当時ガラケーだった自分は購入しようかどうか猛烈に迷っていた記憶がある。ネット黎明期でネットで物買うのが今よりハードルの高かった頃。親に頼んで代わりに買ってもらった経験はあったが自分の意思でネットからCDを購入するのはそれが初めてだった。(ちなみに初めてのネット通販はヤフオクで買ったスケボー。乗った瞬間真っ二つに割れた木の板は半ばほぼゴミだった。1000円税別)

恐る恐るガラケーをポチポチして購入。本当に届くんだろうか。という思いと、バンド以外聴いてもいいのか?という今思うと訳の分からない自問自答でウダウダしていた。数日後CDが届きすぐにプレイヤーに乗せて聴き込んだ。

「やっぱり凄いや、この人。ちゃんと歌だ。勢い重視でもたつく学生バンドと訳が違う。もう完成されているような気がする」

そんな生意気な感想だったと思う。ピアノと歌だけのシンプルな演奏。手に入れたあの日から未だに引っ張り出してきて聞くほど好きなアルバム。特に歌詞に胸を打たれる。深夜潜水という曲が特にお気に入りで必ずサビの部分で涙が溢れてしまう。

夜闇の潜水艦
今夜僕は どこまで泣かずに記憶を追えるだろう

彼女の歌を聴いてると自然と喜びや悲しみが混ざった感情の塊が押し寄せてきて涙ぐんでしまう。

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1stフルアルバム「逆光で見えない」2015年リリースの4曲目・水流のロックではそれまでのピアノと歌のみのスタイルにドラムを導入。一触即発、どちらも一歩も引かないバチバチのインファイト。スリリングな演奏でありながら、ピアノとドラムが何十年来の恋人同士かの様な錯覚すら覚えた。高次元なマリアージュっぷりに舌を巻く。

彼女のピアノ演奏は鍵盤単体なのにバンドが演奏しているように聴こえるのも特徴で、ギターリフやアルペジオっぽい旋律を弾きつつ、左手でベースの単音を奏でつつ、パーカッシブにメロディーラインをなぞる。それをこなしながら歌える彼女の肉体は音楽的に捉えるとあまりハイスペック過ぎると言えるでしょう。作品を出す毎にユニークなメロディ、リズムアプローチが増えたり、より研ぎ澄まされていく歌詞の情景描写。

さとうもか・吉澤嘉代子・中村佳穂・フィービーブリジャーズ、エイドリアンレンカーと女性アーティストの活躍がうんと目覚ましい昨今の中で、日食なつこは比較すると知名度的に少々地味かも知れませんが、純粋に長く愛される歌の普遍性があると思うのでもっともっと幅広い層のリスナーに聴いてもらいたいと勝手なお世話を焼いています。

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4thミニアルバム「逆鱗マニア」2017リリース 8曲目「あのデパート

歌を通して彼女の生きてきた人生や故郷が見えるかのようだ。懐かしさと寂しさと愛しさ。日々僕らは大人になっていって少しずつ何かを得て、失ってを繰り返して生きている。その情景を切り取り永遠へと変えることが出来る圧倒的な歌の持つ力。やめられないね。こういう歌に出会う度に、生きる理由がまた一つ見つかったような気がしている。

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現在の最新作2ndフルアルバム「永久凍土」2019リリースの9曲目「致死量の自由

シンプルなリフなのになんとまぁ華やかなんでしょう。ハンドクラップの祝祭感も良い。コンスタントに作品を作り続けてくれるのでファンとしては嬉しい気持ちです。シンセを取り入れる日も来るとすればまだまだ日食なつこワールドは広がりそうでニヤけちゃう。最後に今月公開された新曲「音楽のすすめ」を聴きながらお別れです。スケール感がグッと大きくなった素敵な一曲。






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