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ちょっとブラック本の虫です

さて本日は、漫画の紹介。
職場の方との会話の中で、ちょっぴりもやもやすることがあったんですが、なんていうか、こう、農家も色々あるんだけど説明は難しいしムキになるのも大人気ないし……。
ご本人には悪気はないと思います。食の安全を色々考えておられるんだな、と思うんですが、え!今時そんな話信じてるの!と驚くようなことをおっしゃっていて、わー、違うって言いたいけどマウントとってるみたいだし、言ったところで伝わるかどうか自信もなかったしで、とりあえずヘラヘラやり過ごしてしまった自分にももやもや。
というわけで、これ、中学あたりで課題図書的にしてくんないかなあ、と思ってる漫画です。
説教くさくなく、楽しく農業ってこうなんだ、ってわかる漫画。

超ヒット作『鋼の錬金術師』の荒川弘の最新作!大自然に囲まれた大蝦夷農業高校に入学した八軒勇吾。授業が始まるなり子牛を追いかけて迷子、実習ではニワトリが肛門から生まれると知って驚愕…などなど、都会育ちには想定外の事態が多すぎて戸惑いの青春真っ最中。仲間や家畜たちに支えられたりコケにされたりしながらも日々奮闘する、酪農青春グラフィティ!!

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マンガ家になる前は北海道で七年間、農業に従事していた荒川弘。牛を飼い、野菜を作り、クマに怯え、エゾシマリスに翻弄される―年中無休で働き、切ない想いも多々あるハードなお仕事。「水がなければ牛乳を飲めばいいのに」。なんたって“百姓貴族"ですから!!知られざる農家の実態を描いた、日本初農家エッセイ登場。

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『鋼の錬金術師』の荒川弘氏が書かれた農業高校を舞台にした漫画と、ご自身のご実家(酪農と畑作)での体験を書かれたエッセイ漫画。
『百姓貴族』の商品説明に7年間と書かれていますが、これはあくまで学校を卒業なさってから専従なさっていた期間で、もちろん子供のころから農作業はやっておられましたから、キャリアは20年近く、というところでしょうか。
まず『銀の匙』は主人公の八軒くんという勤め人のお家で育ったとっても頭のいい男の子が主人公です。父親との確執から、当初行くつもりだった進学校に行かず、寮のある農業高校に進学し、逃げるように実家を離れて入学するのですが、見るもの聞くもの初めてだらけ、でも周りの同級生たちは農家の子が多くて、高校生活やっていける自信もなくヒネていたんですが、農業の現実や友人たちとのドタバタさわがしい高校生活の中でどんどんたくましくなっていき、自分の考える農業の未来、というものに進んでいくというお話です。
『百姓貴族』は農家あるあるや、お父様の破天荒ぶり、北海道の自然などなど笑えて楽しいエッセイ漫画です。お父様がめちゃくちゃいいキャラ。そして荒川さんの体力オバケぶりに驚きます(笑)。作っているものは違うけど、農家あるあるは共感できるところも多くてほんとに楽しい漫画です。
この2つ、特に『銀の匙』は真面目すぎずでも農家の現状とか色んな形態の農家のことや、どう食べていける農業にするか、農業の6次産業化などなど、実際に農家出身の荒川さんだからこそ描ける書き口で語られていてすごくいいんです。跡取り問題や借金、そんなマイナスの面も描かれていますが、まだまだ若い高校生の視点で悩みもがいて行動するという爽やかさが入ってくるので、とっても読みやすいし説教くさくもないし、なにより綺麗事に収めてしまわないところが嬉しい。答えなんて簡単にはでない、けどこのままじゃいけない、と行動する若さが眩しいです。
最初に八軒くんが産業動物、家畜としての動物との距離の取り方に戸惑い、豚に名前を付けてしまうエピソードがあるのですが、その時に同級生から「やめとけ」と言われたり、学校の先生からも諭されたりします。その中で、八軒くんは自分の頭で考えて悩みながら、自分で家畜との距離の取り方を覚えていきます。
以前、『ブタがいた教室』という映画を見たんですが、うまくいえませんが、この映画とは決定的に違う何かがあります。もちろん小学生と高校生という違いはあるのですが、それだけではない何かがありました。
私はこの「命の教室」という取り組みが大嫌いです。こんな強いことを書くのもどうかと思いますが、そこを誤魔化しても仕方ないので、この記事では少し強い言葉を使ってしまいます。
命をいただくということを教える、自分の口に入るものがどう作られているのかを知る。お題目は立派です。ですが、経済動物という概念も知らない小学生に、畜産の経験もない教師がやることじゃない。畜産という環境が身近にある者は、教えられるでもなく、ただその環境が当たり前にあるから大人たちがするのと同じように、ペットかそうじゃないかを感じて覚えていきますが、そうでない子供にとってみれば、ある日突然やってきた可愛らしい子豚を、食べるために育てるんですよ、と言われたところでそれを自覚してお世話できる子なんていないでしょう。案の定、名前をつけてかわいがってお世話をすることを教師も止めない。学校で育てるウサギなんかと同じ愛玩動物感覚で飼育させておきながら、最初に食べるっていったでしょう、だから屠場に送って食べます、ってなんなの。
段階を踏めよ。まず畜産ってものを教えて、自分も学んでから飼育をしろよ。それで涙を流しながら食べる子供を見て素晴らしい教育ができたって思ってるのはお前だけだよ。
すみません、言葉が強くなりすぎました。
でもそれぐらい呆れてしまうんです。生産の現場を知ることと、これは違う。
うちは畜産はやっていませんでしたが、鶏は飼っていました。あくまで自家用ですが。廃鶏は当然潰して食べます。茶色のチャボはかわいいけれど、ペットの犬と同じように扱うことはありませんでした。卵を産んでもらうための鶏、産まなくなったら食べる。別に説明されたわけでも教えられたわけでもありませんが、そういうものとただ受け入れていました。酪農をやっているお家もありましたし、養鶏場もありました。そうした環境で育っていると、農家の子でなくとも、何となくそういう感覚をわかっていたように思います。兼業農家の子も多かったというのもあるでしょうが。
そういう感覚を持った子が多数で、農業を教える高校でこの家畜というものとの接し方を考える八軒くんとは全く違う話です。八軒くんにはちゃんと、農家はこれで飯を食っているということを教えてくれる人がいた。出荷するためだから当然飼料や肉質を良くするためのやり方も教えられます。ペットの世話とは全く違う、けど愛情はある、というこの複雑な家畜との関係を、ちゃんと考えられる環境が用意されている。だからこそ八軒くんは悩みながらもちゃんと自分なりの折り合いの付け方を見つけられた。教えるといういならここまでやらないと、ただの自己満足にしか思えない。
そうしたところから始まって、農業というものに向き合っていく、農業に従事するつもりのなかった八軒くんが、商売になる農業、食べていける農業を考えて成長していく。
『百姓貴族』でも立つことのできない仔牛をどうするか、という話が出てきます。珍しい症例のようだから、研究用にもらってもいいかという獣医師に、どう返事をするか迷う姿が描かれています。こうしたことを少しの説教くささもなく、きちんと描き、それでいて湿っぽくもならず、伝えてくれるこの2つの漫画は他にない農業漫画だと思っています。
農家の懐事情もぶっちゃけられているし、大規模農家と中小規模農家の違い、生産効率の上げ方、その中でも食の安全という消費者ニーズにどう答えるか、など、ギャグ展開なども織り込みながら明るく楽しく、でも考える余地を作りながら描かれています。
例えば『美味しんぼ』などで生産効率を重視している農家なんかは親の仇のごとく書かれていますが(残留農薬や抗生物質などの薬剤投与、密飼い)、そういう時代もあったことは否定しません。そういう農家があることも否定しません。ですが、かつての基準と変わってきているし、農業は変わってきています。そして何より農業も商売なのです。そこの視点を見落としてほしくないなあ、と思います。
経済活動としての面と、人の口に入るものを扱っている、命のあるものを扱っているという面と、そのことはいつも両輪になっていて、試行錯誤しながらやっていっている。それがすごくわかりやすく描くことができるのは、やはり荒川さんの経験あってのことだな、と思います。
そんなところも全部ひっくるめておすすめのこの漫画。ややこしいことを書きましたが、この漫画はこんなややこしいことは抜きで楽しんで読めます。あとなにより出てくる食べ物が美味しそう。エゾノーピザなんかはレシピもついててありがたい(ちなみに作りました。うまし。)。
ちょーっともやもやが過ぎて若干キツイ書き方の記事になってしまってすみません🙇‍♀️
実はですね、卵が高いって話から、でも安い卵なんて怖くて買えないー、薬漬けでしょーというお言葉いただきまして。ま、それ以外にも色々と。平飼いの卵しか食べらんないそうです。いやー、だとしたら今はめちゃくちゃ高くてもしょうがないでしょ。防疫どんだけ大変か。鳥インフルだけはもうどんだけ神経質になっても完全には防げないもの。そんなに言うなら飼えばいいじゃん。今飼料高いけどね!
あ、またブラック本の虫になってしまった💦
なんだかストレス発散記事みたいになってしまってるな。反省。
なんだか長々と講釈たれてしまいまいたが、この2つの漫画はほんとにオススメです。
特に『百姓貴族』!こんなに笑えるエッセイ漫画、ないですよー!

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