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フランスACBDがオススメする「2024年夏の必読10選」
今年は例年より遅い梅雨入りでしたが、毎日暑いしもう夏ですね…。
そんな時節のお楽しみがフランスのACBD(バンド・デシネの批評家とジャーナリストの協会)が発表する「夏の必読10選(Les indispensables de l’été 2024)」です。
今年上半期(1月1日から5月31日まで)に刊行されたバンド・デシネの中からACBDのメンバーが選ぶ10冊!
年末に発表されるACBD批評グランプリにノミネートされる作品も多く、どんな新作が刊行されたのか、次に何を読もうかを考えるときの参考にいつもしています。
今回の記事ではどんな作品が選ばれたのかをご紹介します。
Youtubeライブでも詳しくご紹介していますのでこちらもご覧ください!
Au-dedans(内部)(原題:IN.)
作:Will McPhail、発行:404 Éditions(原書:英語)
The New Yorkerのアーティストであるウィル・マクファイルの『In: The Graphic Novel』。人とつながることができない若いイラストレーター、ニックは、近くの病院に勤務する皮肉屋で明るいガン医師レンと出会うことによって物語が始まる。人生の苦痛と孤独をカラーとモノクロで描く半自伝的な作品。
2022年アイズナー賞ノミネート。昨年、イタリアのマンガ賞でもよく見かけた作品です。
Carcajou(カルカジュー)
作:El Diablo, 画:Djilian Deroche, Marion Chancerel、発行:Sarbacane
19世紀末のカナダ極北では、フォックストン社の社長である悪徳起業家ジェイ・フォックストンが小さな町シナーガルチを統治していた。数マイル離れたところに住むガス・カルカジューは社会から遠ざかり、もっぱら狩猟や釣りをしながら暮らしていた。しかし、この土地に石油が豊富にあることがわかると、フォックストンはその利益を手に入れようとする。
カルカジューとは小さな悪魔と呼ばれるクズリやアメリカアナグマを指す言葉だそう。
Le Combat d’Henry Fleming(ヘンリー・フレミングの戦い)
作:Steve Cuzor、Meephe Versaevel、発行:Dupuis
18歳の若い農夫ヘンリー・フレミングは、英雄になることに憧れて、母親を置いて北部軍に加わった。しかし、戦闘にならないまま時間ばかりが経過するにつれて、ヘンリーの意気も薄れていく。そんななか戦闘が始まり、大虐殺が繰り広げらるなか、興奮と恐怖、苦悩が彼を襲う。
スティーヴン・クレイン『勇気の赤い勲章』を自由に翻案した、ヒロイズムに疑問を投げかける平和主義者の告発。小説のあらすじでは「南北戦争を舞台に色彩豊かに描かれるアメリカ戦争文学の傑作」とあり、バンド・デシネ版でその色彩がどのように描かれるのかは注目ポイント。
La Cuisine des ogres(鬼の台所)
作:Fabien Vehlmann、画:Jean-Baptiste Andreae、発行:Rue de Sèvres
山城に住んでいる人食い鬼は美食家として知られている。ブランシェットという名の孤児の少女が他の子どもたちと捕らえられ、人食い鬼たちの食事として提供されようとしていた。彼女らはそこから生き延びることができるのか。ゲーム「リトルナイトメア」を思い起こさせるような世界観。
脚本は『かわいい闇』のファビアン・ヴェルマン。
Horizons obliques(斜めの水平線)(原題:Hexagon Bridge)
作:Richard Blake、発行:Urban Comics(原書:英語)
探検家のジェイコブとエレナ・アームレンは幼い娘アドリーを残して、奇妙な並行世界に閉じ込められてしまう。そこはとらえどころのない風景や変化する建築の世界であり、悪意ある存在が住んでいた。成長した千里眼を持つアドリーは、ロボットのシュターデンを伴い、両親を探しに行く。
原書はImageから2024年5月に単行本が出たばかり。精巧なSF作品。
It’s lonely at the centre of the earth(地球の真ん中での孤独)
作:Zoé Thorogood、発行:Hi Comics(原書:英語)
新型コロナ禍の6か月を描いた自伝的作品。不安、鬱、インポスター症候群など精神的な浮き沈みと闘いながら、生き延びるために創作に打ち込み、その過程で自分自身を見つけていく様子を、メタ的表現も交えつつ感動的で独創的に描く。
2023年ラス・マニング最有望新人賞、2023年リンゴ賞のベスト・グラフィック・ノベル部門受賞、2023年アイズナー賞ベスト・グラフィック・メモワール部門とベスト・ライター/アーティスト部門ノミネート、フォーブスの2022年ベスト・グラフィック・ノベルに選出。
L’Odeur des pins(松の木の香り)(原題:Der Duft der Kiefern)
作:Bianca Schaalburg、発行:L’Agrume(原書:ドイツ語)
ドイツ人作家ビアンカ・シャールブルクがベルリンでの幼少期と、第三帝国、ドイツの再建、冷戦時代を経て1968年までの40年にわたる家族の歴史をたどるグラフィック・メモワール。「私たちは何も知らなかった」と語る祖母の言葉。国防軍の会計士だった祖父が果たした役割。果たして戦争の残虐行為を知らずに戦争を体験することができるのか。
アウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る家族が映し出される映画「関心領域」が注目を集めていますが、ノンフィクションものでこういったマンガ作品が描かれていることはとても興味深いです。
Petit Pays(ちいさな国で)
作:Marzena Sowa、Sylvain Savoia、発行:Dupuis
フランスとルワンダのミックスであるギャビーとアナ。ブルンジに住む二人の楽しい日常は内戦によって崩壊した。多数派のツチ族と少数派のフツ族の抗争が繰り返されてきたブルンジで1993年にフツ族の大統領が暗殺されたことを機に巻き起こった内戦。さらに隣国ルワンダでツチ族の虐殺が起きたことで事態は悪化する。
内戦を生き延びたミュージシャン、ガエル・ファイユの自伝『ちいさな国で』のバンド・デシネ化。
La Route(ザ・ロード)
作:Manu Larcenet、発行:Dargaud
コーマック・マッカーシーの小説でピュリッツァー賞を受賞し映画化もされた『ザ・ロード』を、『ありきたりな戦い』(「ユーロマンガ5号」から連載)のマニュ・ラルスネがバンド・デシネ化。世界は荒廃し、灰と死体で覆われたポストアポカリプス世界。その中を父と息子は、シビアな天候や残忍な略奪者たちから逃れ南へ向かう。
Sang neuf(新しい血)
作:Jean-Christophe Chauzy、発行:Casterman
2020年、新型コロナ下で世界が外出禁止になっているなか、作者のジャン=クリストフ・ショージーは無菌室に入れられていた。骨髄が血小板を産生しない骨髄線維症と診断され、生命の危険にさらされ、妹のコリンヌがドナーとなることになった。介護の重荷、落胆、死の恐怖、病気との壮絶な戦いを描くグラフィック・メモワール。
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ACBDは玄人のマンガ読みたちの集団なので、硬派な作品が選ばれやすい傾向がありますが、グラフィック・メモワールのようなノンフィクションものからSF、ファンタジーまで幅広いラインナップでしたね。
英語圏ものが3作品入っているのも興味深いです。
気になる作品がありましたら幸いです。
参考資料:過去の紹介記事・動画
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