ゴシップと面の皮とVさん

一昨日、夜遅く帰ってきた夫が教会員の方に聞いた話をしてくれた。その教会員の方の行っている美容師が夫の悪口を言っていたというのだ。私たちはその人が誰かも知らないし、会ったことこともないし、その美容師は教会員でもない。私たちは有名でも何でもなく、小さな町の中くらいのサイズの教会の牧師にすぎなくて、何で知らない人にそんなことを言われるのか?と不快と共に不思議でもあった。明らかに夫のことを知る教会の誰かが噂を振りまいているらしい。

牧師になってしばらく経つけれどあいにく、教会の人に陰口を言われるのは珍しいことではない。有る事無い事、面と向かって言われるのではなくて陰でこそこそ言われる。そして何故かそれは必ず私たちの元に帰ってくるのだ。教会とはいえ人間の集まり、ましてや傷ついている人たちが多い集まりでもあるので、お互いを傷つけることがおきてしまう。

20年前、初めて誰かが陰で夫のゴシップをしている(ゴシップとは誰かのこと(主に悪口)を本人に言わずに他の人たちに言うことと定義します)と聞いた時は不覚にも悔しくて悲しくて、泣きながらメンターでもある日本の私の牧師に電話してしまった。でも今は泣くこともなければ、怒ることもあまりしなくなってしまった。

先日親しい友達である同僚と教会のことを話していた時に、"You gotta have thick skin."と言われた。これはまあ、日本語で言うところの「面の皮を厚くしなきゃ」と言うことなのだけれど厚かましいとか図々しいと言うネガティヴなことよりも、どちらかというとタフでなきゃね、と言う感じである。何かを言われても感じないくらい、皮を厚くしてと言うことなのだろう。

そして私は自分の皮が厚くなったのを感じる。何を言われても一瞬悔しかったりムカっとくるけれど、本気で怒ったり悲しんだりすることはない。言った相手を流して、「あ、そうですか」と言う感じ。また「どうせ私のことを本当に知らない人に何を言われてもいいや」と言う感じ。でもそうすることによって私のほうこそ相手を人間として見ずに、見捨ててしまっているのかもしれない。そして段々と多くの人に心を開けなくなってしまった。いつどこで何を言われるかわからない、裏切られるかわからない、と言う警戒でますます皮を厚くしてしまうのだ。そしていつの間にかそれは自分を守る手段となってしまった。

昨日BTSのVさんがWeverseと言うファンコミュニティSNSにポストしていた。具体的に誰に対してとは書いていないけれど、かなり怒っているのだろうな、と言うことが感じられるポストだった。そしてそれはおそらくその日にでたゴシップ記事に対してだったのではと、推測された。最初はこのおそらく繊細な青年がとても傷ついて怒っていることに悲しくなったけれど、こうして感情を表現できることが少し羨ましくなった。きっと彼の皮はまだ厚くなっていないのだ。

私はVさんのソロ曲が大好きだ。Scenery, Winter Bear, Sweet Night、全部がとても優しくて、歌詞も美しくて彼の深い声で歌われるそれらはとても暖かく、のんびりした気分にさせてくれる。四次元、5歳児と言われているらしい彼だけれど、とても綺麗なものを心に持っているのだろう。ジミンさんが彼のことを一番人間らしい、と言っていたけれどそれは感じる心をきちんと持っていると言うことなのかもしれない。

Justin Beiberの "I'll Show You" と言う歌で、"'Cause life's not easy, I'm not made out of steel(人生は簡単じゃない。僕は鉄で出来ているわけではない)
Don't forget that I'm human, don't forget that I'm real(僕は人間で、実在するということを忘れないで)Act like you know me, but you never will(僕のことを知っているように振る舞っているけれど、絶対に知ることはない)”という歌詞がある。彼もまた沢山のゴシップで苦しんできた。ゴシップをする人はその対象が感情もあって、傷つくこともある人間であると言うことを忘れている。同じ人間として扱わずに興味の対象、悪意の対象としてしか見ていない。それはとても人間らしくないことだ。

Vさんがもし自分の後輩だったら、”You gotta have thick skin"と私は言うだろうか? おそらく彼にはそうは言えないと思う。もし彼の皮が感じないくらいに厚くなってしまったらあんなに美しい音楽を作ることができないような気がするから。皮が厚くなると痛みを感じないのと引き換えに他の良いことにも感情が麻痺してしまうのではないだろうか。私が人を信じられなくなってしまったように。彼は色々なことを時にはヒリヒリと感じながらもそれを全て音楽に昇華させることが出来ると信じている。

今はただただ嫌な、人間らしくない人たちを見ずに、綺麗で良いものだけを見て欲しい。そしてよく寝て欲しい。私の嫌なことにあったこと対する最初の対処法は寝て忘れることだから。"I wish you a good night, good night, good night...Sleep like a winter bear." 

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