喜多村勝徳「記載例からみる民事裁判文書作成と尋問の基礎技術」

元裁判官の先生が書かれた、新人弁護士向けの文書作成と尋問の本。

書式に関しては、大島明「書式民事訴訟の実務」のほうがくわしいが、本書は薄めなので通読できる。

地味に助かった、というより一番読みたかったのは証拠説明書のところである。
証拠説明書を起案していると、立証趣旨に何を書こうか、写しやFAXは誰を作成者とすればいいのか等悩みが多かった。しかし、証拠説明書について解説している文献は少ない、というか多分ない。本書は、

要証事実は要件事実に限定されるものではなく、却って、間接事実まで踏み込んで記載するほうが分かりやすい場合もある。借用証書を提出するのであれば、立証趣旨は「金銭消費貸借契約を締結したこと」とすればよいが、借用証書がないので、その代わりに資金調達の証拠として預金通帳を提出するのであれば、立証趣旨は「金銭を貸し付けるために預金を引き出したこと」と記載するほうが分かりやすい。

といったかたちで具体例もふくめて解説してくれるので非常に参考になる。

あと、コラムがおもしろい。

弁護士であっても書記官に聞いたほうが適当な場合は堂々と質問して構いません。貼用印紙代、予納郵券の額、添付書類の通数などは、弁護士職務便覧を見れば書いてはありますが、必ずしも明確ではない場合もあり、直接書記官に聞いたほうが間違いないし、時間の節約にもなるでしょう。

訴えの主観的併合で貼用印紙代をどうすればいいのか迷った経験がある。被告それぞれに対する請求額を単純に足したものを訴額とすればいいのか…といった疑問である。結局、そのときは講義案を確認して計算したが。

尋問事項書は二つの点で重要性を欠いているように思えてなりません。第1に、現在では交互尋問が中心であり裁判所による尋問は補充的な役割を担っているに過ぎないので、事前に裁判官が個別・具体的な尋問事項を知る必要は必ずしもありません。……第2に、尋問の前に陳述書が提出されます。そこには詳細な事実が記載されており、それが証拠申出にかかる尋問事項そのものです。それゆえ、証拠申出書に添付する尋問事項書に「別紙陳述書のとおり」としても問題ないのではないでしょうか。

さすがに「別紙陳述書のとおり」とするまでの度胸はないが、尋問事項書に時間を割くよりは陳述書に時間を割いたほうが合理的だし、そのように今後進めたい。

おそらく、書式や尋問の技術に関しては、他の本のほうがくわしいだろうが、通読できる+要件事実についても記載がある+具体例が豊富という点で使いやすく、記憶に残りやすかった。