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盗作詩

唐突だが、たまたま拾った百均のメモ帳に書かれた言葉ほど、面白いものはないと思う。それは太陽からの拾い物である。



黒くうねりのある畔が、視界の端々、地平線の向こう側まで続き、太陽の肛門に頭から巣食う寄生虫のように見えた。

目に入るものが食えるか食えないか、そのことだけを極めて生真面目に追求した彼の眼は、無数にある鱗の一つ一つが宇宙を内包しているように見える時もあれば、くだらないビー玉みたく幼児の唾液のように輝くときもあった。

用水路の流れるコンクリート製のトンネルに住んでいる一匹のワラジムシに、自分の姿を重ねる者は案外たくさんいそうな気がしている。だが、そのような突如現れる詩的な、そして極めて無用な感情は日々の雑事の中に埋もれて消えて行ってしまう。そして俺たちはそれを望んでいる。

言葉があふれて取り返しがつかなくなるとき、俺は自分の目の前にあるものを言葉で粉飾することで網膜を裏切る。ひとたびそうしてしまえばそれは麻薬となる。目に入るものすべてをごたごたと飾り付け、「あはれ」だの「美しい」だのと言った言語でカテゴリー付けしてしまえばそれだけで簡単に自分を抱くことが出来る。詩人が詩を書く、自分の心臓の音から耳を塞ぎ、残酷にも見下ろす青空の肌の匂い、きわめて女性的な匂いから逃れてたどり着いた一軒の温泉街の娼婦宿、そこの便所に置いてある、トイレットペーパーの上に「カマキリ」などと書いてあり、それを見た射精後の兵士は、しばしの安い感動を味わった後に故郷の母と先ほどの娼婦の胸の柔らかさを思い出して赤面する。これは、エディプス・コンプレックスだ!とやかましく喚きたてる学者たちの声が、かの兵士の勃起を妨害してくる。あらゆる知識は毒でありそれはこの世から色彩を奪うもので、まるで生活に疲れた独身男がウイスキーに入り浸るのと同様に、荒廃した精神から幼さを取り戻すための試みで、

楽しいことをやろうよ、彼は口走る。楽しいこと、ワクワクすること、時間があっという間に過ぎ、もう夕方だ、帰ろう、帰ってご飯食べて寝よう、明日は学校だ。サバの味噌煮、エディプス・コンプレックス、民放のグルメ特集、そういった日常に再び浸っていこう、そうすれば救われる。あらゆる知識は毒だ。

夏目漱石もそう言ってたじゃないか。







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