#362 田崎基『ルポ特殊詐欺』読書アウトプット(第五章~最終章)

第五章 人生を見つめ直す加害者

この章では、ある加害者の生い立ち、犯罪に手を染めた経緯、逮捕後の反省まで書かれている。

3歳のころに父と母は離婚し、母と祖母に育てられた。
母は一度も働いたことがない。3人は生活保護を受けて暮らしを維持していたという。
(中略)
歳を重ねるごとに自身の境遇を自覚するようになっていった。家にひとり放置されていたのは「ネグレクト」だろう。母は保育園にさえきちんと送り迎えをしてくれなかった。
(中略)
気が付けば「健全とはいえないような仲間」の中にいた。

P156-161

被害者の人たちには本当に申し訳ないことをしたと思っている。不審な連絡が来て、財産を失うかもしれないから、家に警察が来たり、その間にキャッシュカードが盗られて、さらには本当に財産が盗られてしまった。おれは全く関係のない人たちを巻き込んで、その人たちを傷つけてしまった。
その行為をしてしまった自分は決して許されることではなく、今後、その罪に対して深く反省し、二度と同じことをしないと誓う。俺の行為はそれだけ重い罪だ。

P185-186

経済的にも家庭的にも恵まれた環境でない生い立ち以外にも、知的障害や発達障害のある人が加害者になることにも触れ、弁護士や社会福祉士のコメントも書かれていました。

最終章 トクサギの行方

この章では、ある加害者の生い立ち、犯罪に手を染めた経緯、逮捕後の反省まで書かれている。

取材を進めて特に感じるのは、法改正の必要性だ。発生が警察庁に認識され20年近くを経て、凄まじい実害が発生し続けているにもかかわらず、いまなお厳罰化の法改正はなされていない。
(中略)
2003年から21年までの被害総額は5743億円に上る。この経済的損失は計り知れない。国民の私有財産が組織犯罪グループの巨大な資金源になっているのだ。被害金の大半は反社会的な組織へと流れ、その使途からさらに害悪は拡散していく。

P220-222

筆者が、警察庁に、法改正にうちて質問状を送ったところ、
・携帯電話不正利用防止法の制定
・犯罪収益移転防止法による規制対象の追加
・通信傍受の対象罪種の拡大
・犯行に利用された電話番号の利用停止
・指定暴力団の代表者等に対する損害賠償請求訴訟への支援
と対策強化を図っていても、刑法犯の詐欺罪について、特殊詐欺を類型化した改正や、特別法の創設はなされていないとのことです。

最後の項では、「社会構造が生み出す犯罪」というタイトルで、以下のように締めくくられています。

世帯収入の中央値が、ピーク時の1996年の約550万円から、2019年は437万円と約20%も下落し、貯蓄ができない世帯も増えている。そうした家庭、社会で育った若年層が、どう生きていくか。食っていくための収入源として何を選択していくか。指の間からこぼれ落ち、すり抜けるようにして犯罪に手を染める若者をどうすれば減らせるだろうか。2021年に発生した特殊詐欺の1日あたりの平均被害額は、約7730万円に上る。たった1日で、である。
「特殊詐欺」をどう捉え、どう対峙していくのか。そのテーマの内実は重く、そして暗い。

P230

私は、社内の新規事業コンテストで特殊詐欺を防止するサービスを立案したことがあり、特殊詐欺はなくなって欲しいという気持ちを抱くようになりました。
自分の力でサービスを立ち上げるところまでは及ばず、数年を経ても未だになくならない特殊詐欺について、再び何か策はないのか?と考えるようになりました。
そんな中で見つけたのが本書です。
今までは加害者側は多様な手口があるということしか認識しておらず、いかに被害者側で防ぐか?と考えていました。
今回、加害者側にフォーカスした本書を読んで、被害に手を染めるまでの経緯や特殊詐欺という犯罪自体が、非常に複雑で根深い問題であると知ることができました。

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