![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/121934745/rectangle_large_type_2_241aa4b1048305f9e7569719b17916a1.jpeg?width=800)
ぼんやり猫の店番
ぼんやり猫(やれやれ猫とも呼ばれている)は店番を頼まれた。
飛行機に乗っている時に頼まれたものだから、飲んでいたブラッディ・メアリも一緒に持って来てしまった。せっかく窓の外のオーロラを眺めながら優雅な時間を味わっていたにも関わらず。
ぱたん。
本を開けるような音とともにぼんやり猫がカウンターに現れた。
店内には数人の客がいたが誰もその小さな変化には気が付かない。
昔好きだった子が風邪を引いた時に声が枯れてしまって「今なら『翼の折れたエンジェル』が上手く歌える気がする」って言った時に、面白い事をいう子だなと思ったと同時に、その子の『翼の折れたエンジェル』を歌っている姿をあまり見たくはないなと思った。
ぼんやり猫がまた次の一文を読んでいく。
一人暮らしの部屋に二人組の女の人が訪ねてきたことがあった。ドアアイを覗くと二人ともキレイでニコニコしていたので、思わず玄関を開けて対応してしまった。宗教の勧誘だった。神の救いが必要そうに見える自分が悪いのかもしれない。でもなんで初対面でそんな事がわかるのだろうか。平日の昼間に家にいる人物を勧誘するようなマニュアルなのだろうか。とにかく読書を続けたかったので「モームの『人間の絆』は読んだことがありますか? ないならぜひ読んでからまた来て感想を聞かせてください」と言ったら二度と来なかった。
そのまた次の一文を読んでいく。
住み込みで働いていた当時、同じ宗旨の従業員は大事にされ、それ以外の従業員(僕とタムラくんだけ)は粗末に扱われていた。仲間意識が強まりとても仲が良かったので、給料日には一緒にうなぎ屋で肝吸い付きの上等なうな重を食べた。水谷豊に憧れていたタムラくんはいつも3ピースのスーツに身を包んで無駄にパリッとしていた。ある日、タムラくんは就業中、バイクに乗っている時に交通事故にあって怪我をして戻ってきたのだが、職場の人達全員に自分で転んだのだと疑われて、僕に愚痴っていた。もちろん僕は信じていたけど、タムラくんは耐えられなくて辞めてしまった。あの時、タムラくんは声優の専門学校に通っていた。その学校も辞めてしまった。だいぶ経ってからタムラくんから手紙が届いた。声優にはなれなかったけど、一人息子と奥さんと温かい家庭に恵まれているという内容だった。
ぼんやり猫の頭の上にあるライトがハートのカタチになっている。このライトはぼんやり猫が考えている内容によってそのカタチを変えるのだが、関連性は謎のまま。
でもやっぱり店内にいる誰もその小さな変化には気付かない。
「慣れない事を考えていたらお腹が空いてきたぞ」
すると、下の棚に美味しい豆料理のレシピが書かれた本が現れた。
「面白いエッセイを読みながらブラッディ・メアリを飲みたいなあ」
すると上の棚に面白いエッセイが書かれた本が現れた。
真ん中の棚には、どこの国の言語なのか不明な本がずらりと並んでいる。
「椅子を貸してください」
ずっと立ち読みをしていた客がそう言った。
ぼんやり猫はブラッディ・メアリを一口飲んで、
「うちは立ち読み禁止」と言った。
「だから座って読みますので椅子を貸してください」
ぼんやり猫は「やれやれ」と言った。
![](https://assets.st-note.com/img/1700195168335-vFtitZfyfU.jpg?width=800)
🐈 🐈 🐈
先日西日暮里のBOOK APARTMENTさんで行われた、
noteオフ会的ゆるイベント「まつりのあとのお茶の時間」に、
サプライズで登場した異次元からの使者、ぼんやり猫のミニチュア模型。
いやもう可愛すぎるし、とても好きな世界観。
ミニチュア模型作者のramさん、志麻さん
(ramさんと志麻さんは姉妹疑惑がある母娘です)
ありがとごじゃいます!
志麻さんがイラストでイメージを伝え、
ramさんがカタチにしてるんです。
そんな共同創作、ほっこりしますし見習いたいです。
素敵なミニチュア模型にふさわしくないかもしれませんが、
(それほど世界観を壊してないことを祈るばかりです)
何かが書きたくなってしまって書いちゃいました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?