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VOICARION XVII スプーンの盾

スプーンの盾2023東京公演千秋楽おめでとうございます!

朗読劇史上(おそらく)最多公演数&最多キャスト数を誇る、VOICARIONシリーズ屈指の名作スプーンの盾。個人的に2022年の舞台で1位タイだった大好きな作品が早くも再演されたということで、さらに再々演への願いも込めて食レポをしたためます。

INTRODUCTION

この物語はフランスを料理で救ったアントナン・カレームという料理人が主人公です。
血の一滴も流すことなく、まさにスプーンを盾にしてフランスを守った世界で一番美味しい戦争です。

公式サイト INTRODUCTIONより

初演のとき「クリスマスに家族が集まる暖炉のような、あたたかく優しい世界観の見えるセット」「強く再演を願っている作品」と感想を書いたのですが、まさか翌年のクリスマスシーズンに再演が叶うとは。本当に嬉しい驚きでした。

そしてもうひとつの驚きが、たった4役の物語に対してキャスト38名、役替わりを含めると49役、全46公演のロングラン。「豪華声優陣が集結」というのはVOICARIONシリーズ定番の煽り文句ですが、まさに劇中のタレーランの台詞「誰がこの世界の主人かを見せつけ圧倒し屈服させる」「叩きのめすのだ」とばかりの圧倒的キャスティング力。

平成のアニオタなのでキャストが豪華すぎて選べず苦悩しつつ、初演で大好きだった山口勝平さんのナポレオン回、必見のall女性キャスト回(通称ひな祭り回)をまず押さえ、後にどうにかスケジュールの合う回を追いチケしました。

🥄武内駿輔カレーム
     山口勝平ナポレオン
     三石琴乃マリー
     井上和彦タレーラン

🥄沢城みゆきカレーム
     朴璐美ナポレオン
     日髙のり子マリー
     緒方恵美タレーラン

🥄牧島輝カレーム
     高木渉ナポレオン
     日髙のり子マリー
     安原義人タレーラン

30代エース声優さんの王道カレームが見られなかった悔いは残りますが、各役の登板回数多い順では
・カレーム牧島さん8回、梶さん豊永さん榎木さん3回
・ナポレオン山口さん12回、高木さん7回
・マリー日髙さん10回、井上さん三石さん9回
・タレーラン安原さん9回、関さん6回
なので、2023年の最多登板キャストは全員観られて良かったです。

STORY

人間ナポレオンと料理の天使カレームの交わりを描くようでもあり、皇帝ナポレオンと皇帝カレームの鏡合わせのようでもあり、語り部のマリーとタレーランの物語のようでもあり。キャストによって感じることが全く違うのでストーリー単体について書くのは難しいですが、“食べる”ことを描くことで、誰も死なないのに深く“生きる”ことを感じさせる、普遍的であたたかな物語だと思います。

藤沢朗読劇は大きな流れとしてはわりあい史実に忠実でありながら、それに向かう個人個人の想いやプライベートな出来事をダイナミックに創作するのが特徴的だと思っていて、予習復習は基本的に必要ないのですが、今回は複数回観劇するのもあってカレームの伝記など文翁さんが初演時に参考資料として挙げていた本を何冊か読みました。史実のカレームは料理人として言わば“スターダムを駆け上がった”人であり貴族や富裕層に仕えることには誇りを持っていたように感じられて、純真な作中のカレームとはかなり印象が異なるので興味深かったです。

CREATIVE&STAFF

キャスト38名 49役ということでお衣装が49着と聞きましたが、実際には1幕2幕でタイやサロンを変えるカレーム、ジャケットを変えるタレーランなどがいるのでもっと多いのでは……?と震撼しています。下手なグランドミュージカルより多そう。そしていつもそうですがほぼ動かないのに素晴らしい布量とひらみ、重厚感のある生地や釦、カレームの衣装はキャストによって黒基調のものと白基調のものがあり、誰がどちらなのかもファンの楽しみの1つだったり、大戸美貴さんのお衣装大好きです。

そしてVOICARIONと言えば、ドラマチックな照明と特効。同じトリコロール🇫🇷のライトでも場面によって3色の配分が違って場面の雰囲気を表現していたり、今回大盤振る舞いだったスモークはあの時代の厨房にはかまどの木炭の煙が立ち込めていて、料理を冷やさないために換気もできず料理人たちの健康を害していた、という背景を表現していたり(これは公式にそうと言われている訳ではないので私の想像ですが)。

冒頭に書いたように美術も素敵です。いきいきと今にも動き出しそうな(美女と野獣の世界?)調理器具たち、スプーンで掬ったように丸く切り取られた向こうに覗くバンドとかまど、数え切れないほどのスプーンはその数だけの食卓、その数だけの人の生活を思わせて、いつも泣いてしまいます。

MUSICIANS

音楽が、良すぎるんです。そもそも編成がピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、パーカッションの時点で涙腺を刺す気しか感じないのですが、程よく当たりが柔らかくて朗読より耳につくことはなく、それなのに程よくポップでナンバーリストもないのにどれがカレームのテーマでどれがタレーラン、厨房、とちゃんと分かるのが凄い。フルートのフラッターがSEのように不穏さを表現したり、G.P.したところに銃声が鳴るなど音楽とSEの一体感も素晴らしかったです。

2幕頭のスプーンのソロ(観ないと絶対に分からない、スプーンのソロ🤔)は仕掛けとしても面白いですが実はリズムが日替わりだったり、その他にもカトラリーやボウルが打楽器になっていて面白かったです。

演奏陣は全員を観られた訳ではないですが、個人的には特に、ヴァイオリンの印田千裕さんの演奏が豊かで柔らかくて、そして周りに溶けるように調和していて大好きでした。追いチケするときに印田さんの回を探しました。

CAST

ひな祭り回のことは後述するとして、ベテランたちに囲まれた若手カレーム、の構図だけが同じで他が何もかも違った2回について。

🥄武内駿輔カレーム
     山口勝平ナポレオン
     三石琴乃マリー
     井上和彦タレーラン

🥄牧島輝カレーム
     高木渉ナポレオン
     日髙のり子マリー
     安原義人タレーラン

武内駿輔カレーム

私は初見が初演の津田健次郎カレームなので比較的落ち着きがありつつもエキセントリックな性格、というイメージがあったのですが笑 武内カレームはとにかく純真で高潔な"料理の天使"といった風合いで、カレームの料理や輝く生き方に照らされた"ナポレオンやマリーやタレーランの物語"に見えるのが不思議でした。

武内カレームの好きなところはキッチンの様子が変わったとナポレオンに問われて「ここで生地を捏ねて、ここでパイを焼き、」と答えるところで大した動きも説明もないのに、前後の工程が隣合ったセクションに配置されて作業が効率化されたのだ、と分からせる声の芝居です。武内さんに限ったことではないですが、話す対象や目線の先がどこへ向いているのかを声だけで表現する声優さんの技術にはいつも感嘆します。

牧島輝カレーム

対する牧島カレームは完全に“王”で、あまりに王者の風格がありすぎて建築なんか学んだら街を作ってそのまま建国しそうなくらいです。ナポレオンという戦争の王様とカレームという料理の王様が対比された物語に見えたのはこれが初めてでした。

牧島カレームは料理に対しては真摯ですが、ナポレオンの“皇帝”という肩書きに対して積極的な興味を持っているらしい部分などから、性格的には気位が高く権威的なところを感じられ、史実のカレームの印象に比較的一致する気がして新鮮でしたが納得感もありました。

山口勝平ナポレオン

信長の犬の豊臣秀吉役が素晴らしくて、VOICARIONは必ず勝平さん回を観ようと決めて観たスプーンの盾初演でやっぱりナポレオンに大号泣、信頼of信頼の山口勝平さんのナポレオンを再演のmy初日に、と決めていたら最前ドセンのチケットが当たり、干からびるほど泣くことになりました。

怒涛の早口で1度も噛まない超人ぶりはその天才性と進軍の速さを思わせますが、1歩戦争から離れれば愛嬌たっぷりな愛さずにはいられないナポレオン。2幕で暴走し転落していく姿の迷いのなさには、この人は絶対に立ち止まったり振り返ったりしないのだろうと、悲しみと諦めと、少し憧れるような気持ちにもなって涙が出ます。再々演でも絶対にみたいナポレオンです。

高木渉ナポレオン

勝平ナポレオンしか勝たん、と言いつつ高木ナポレオンも評判が良かったので気になって追いチケしました。確かに良かったです……。

高木ナポレオンは自分が天才で周囲が着いてこられないという事をちゃんと飲み込んでいると言うか半ば諦めていて、悟ったようなところがあります。その分王冠に足りる人物であるようにも見えますが、その才能が向く方向と本人の気質と求められることと時代の流れと、“荒れ狂う海では誰もが溺れる”ように等しくナポレオンも溺れてしまった。そんな哀しさがある姿だと思いました。

井上和彦タレーラン

タレーランって諏訪部さんとか安元さんのときはセクシーでちょっと斜に構えたというか、悪い大人感がある気がするんですが、今回のタレーランは皆やさしい印象でした。井上和彦さんのタレーランは飄々とした態度ではありますがどっしりと構えた、まさにフランスの大地。

ナポレオンが暴走していても揺るぎない姿が2人の心が離れたことを感じさせましたが、ナポレオンさえ落ち着けばまた戻ってきてくれるようにも感じる、フェアなタレーランだと思いました。

安原義人タレーラン

安原タレーランは物腰柔らかく朗らかで、それが裏切りのタレーランなので却って老獪な策士なのか、とも思わせるような。冷静で比較的落ち着いた高木ナポレオンの小さな綻びにも早くから気付いていて、高木ナポレオンとちゃんと噛み合っているまさに“同じ速度で回る2つの車輪”なので、そうでなくなってしまった悲しさが立っていました。

三石琴乃マリー

キャラクター的にも、私の初見が沢城みゆきマリーだったこともあってかなり大人な、と言ってもカレームと対等なくらいの三石マリー。カレームに深い情はありながらも、自立している印象がありました。

日髙のり子マリー

気丈で自分の足で立とうとしているのに、どうしても不安が拭えないような気弱さも見える日髙マリー。ひな祭り回で唯一の女性役を担当するだけはある、圧倒的可愛さなのにあざとい訳でないバランスが見事でした。

ひな祭り回

🥄沢城みゆきカレーム
     朴璐美ナポレオン
     日髙のり子マリー
     緒方恵美タレーラン

46公演中たった2回しかない、男性3役・女性1役の物語を女性4名で演じる通称「ひな祭り回」。作品ファンとしてこれは観なくては、とチケットを取ったのですが、誤解を恐れずに言えば、通常回と大差なかったことにとても驚きました。

男性3役が通常回と同じままの一人称代名詞(俺、私など)だったことにはやや違和感がありましたが、シナリオ上には何の齟齬も感じませんでした(「お前は戦場に盲目の女を連れ出すのか」という台詞はありますが、ここで問題になっているのは盲目の方なので除きます)。一人称代名詞の違和感に気付けたということは、シナリオ上に存在した何らかの性差を女性キャストが完璧に表現していた、つまり完全に男性に見える演技をしていたと言うよりも、そもそもシナリオに性差が関わっていない、男性でも女性でも成立する物語だということでしょう。それが驚きでした。

沢城みゆきカレーム

役作りで特徴的だったのは沢城みゆきカレームで、とにかくヘラヘラしている笑
それこそ他の人達とは“位が違う”人で、と言うと天使だった武内カレームや王だった牧島カレームも高位ではありますが、沢城カレームは風や川のような掴み所のなさがあります。武内カレームは他の人を照らしていましたが、沢城カレームは風なら台風、川なら氾濫を起こすようにこちらに(良くも悪くも)大きな影響を与えておいて、本人は素知らぬ顔で立ち去って二度と戻らない。それぞれにそれなりに苦しみながら生きている俗世の中で一人勝ちしているような超越した感、エキセントリックな印象を覚えました。

緒方恵美タレーラン

緒方タレーランは童心のタレーランでありながら、常に本の5ページ先を見ているような落ち着きがあります。ナブリオーネとの出会いの場面ではそれが逆に5ページ先の輝かしい未来を確実に見据えている高揚になっていて、観ていて独特の感動がありました。

文翁さんが♪冷めたスープ(ナポレオンとタレーランの別れの場面の曲)は喧嘩や戦いではなく好きなのに別れなければいけない悲恋のニュアンス、と仰っていたのですが、そのニュアンスを1番強く感じたのが緒方タレーランと朴ナポレオンで、とても切なかったです。

COLLABORATION

ブラッスリーレカンさんとのコラボレーションメニュー。1品1品、作品に因んだこだわりを説明しながら出してくださって、なんて丁寧なコラボなんでしょう。VOICARIONの強火ファンでもいらっしゃったんでしょうか。

ナポレオンの出身地コルシカの名産であるオリーブオイル、ハチミツ、フランスのフロマージュブランのチーズで作ったカレームのスペシャリテと言われるババロアは2人の出会いを表現

ヴァランセ城とその周りのハーブ園をイメージしたペンネのシャルロット仕立て

作中に登場するヴァーミセリのコンソメポタージュの現代風アレンジ、硬いパンをイメージしたグリッシーニを添えて

海の王様ヒラメはカレームが愛した調理法ブレゼで。フェンネルをカレームへの賞賛として添える

マリーが食べたカレームのまかないのフリカッセを、盗まれていたホロホロ鳥で。カレームが考案したと言われるヴォルオヴァンはレカン(=宝石箱)コラボということで、中には宝石のようにカットした野菜が。

柔らかなアーモンドクリームとパッションフルーツのエクレアには、ピエスモンテ(=ステンドグラスの意味もある)風にココアパウダーでデコレーション

カレームとナポレオンをそれぞれイメージしたホワイトチョコとビターチョコのかかったラスクは、硬いパンで作ったお皿の上に。

とこんな具合で、スプーンの盾強火かつアントナン・カレームの強火ぶりが伺えるコース内容、1公演観劇したくらいの充実度で、大変美味しくいただきました。


という訳で、公演も食事も目一杯楽しんだスプーンの盾、もう東京公演が終わってしまって寂しい限りです。年末の定番になってほしい。

最後にこの強すぎるキャスティングを実現させた、大信頼の白石朋子プロデューサーと、毎公演幕を押さえるために全力疾走でいつか転ぶんじゃないかと勝手に心配している演出部の中川花奈さんにBIG LOVEを叫んで終わりにします!いつもありがとうございます!!再々演もよろしくお願いします!!

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