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わたあめ工場「Vampup」鑑賞記~全体版~

 久しぶりの推しの舞台、ということで先に推しのパートについての感想から書いてしまった。
   物語についてもきちんと書かねば、ということで改めて。

  2つの部族が100年以上対立を続けている世界。
 ヴァンパイアとライカン。共に闇の中でしか生きられない種族は、一度は不可侵条約を結ぶに至るが、お互いの王/長が謀殺されたことで条約締結には至らず、長い冷戦状態に入る。
   真っ赤な満月が姿を現す「鮮血夜」に、ヴァンパイアの少女とライカンの青年が偶然出会い、恋に落ちたことから、物語は動き出す。

  フライヤーとキャストヴィジュアルを見た時に、「王道ファンタジーだ!きっと主役のカップルがあらゆる困難を乗り越えて、ハッピーエンドだ!」と浮かれていたのだが。

すみません、まったくわかってませんでした。

  
  単なる恋物語をメインにしたファンタジーではなく、愛とは、部族の誇りとは、王/長たるものに求められる要素とは、種を越えた相互理解とはを描く、壮大な物語だった。
  ヴァンパイアの王に連なる血族のエリザベートは、同性を伴侶とし、永い寿命をその相手と寄り添うことが美徳であることに疑問を持ち、歴史書を読み解きながら、真の愛を求めて悩んでいる。
  自由奔放、フィジカルの強さと快楽が正義のライカンにあって、同族から距離を置くルーヴェン。モテ男のゼノン、長であるドロテアに選ばれるアレクシオにもどこか冷ややかな目を向けている。
  ヴァンパイアの「食事の時間」のむつみあいと、ライカンの複数の異性を相手にする荒々しい場面が、見てるこちらも背徳的な気分になったり、強さ=オスのステータスか、こりゃ大変だとモヤモヤさせられるのか2人の居場所のなさを伝えてくる。
  更に印象的だったのが、エリザベートの伴侶になるはずだったヘルミーナという混血ヴァンパイアの少女が彼女と縁が結べず、アントーニアという別のヴァンパイアの伴侶となっていて、アントーニアからキツくあたられる場面。
  高圧的なアントーニアの前に、ひたすらおどおどするヘルミーナ。2人のやり取りを前に気まずそうなエリザベート。エリザベートはヘルミーナそのものを嫌ったのではなく、当たり前のように宛てがわれた彼女を伴侶とすることを拒んだ。アントーニアはそんなエリザベートが嫌いで、見下した態度を取るし、ヘルミーナへの態度はまるで奴隷をこき使う悪役令嬢である。
   パートナーがいない王族の少女への風当たりの強さは、この他に2人の世界がすべてのカロリナとペトラも露骨に態度に出すので、いたたまれない。
    ライカンにおけるルーヴェンが決して印象が薄かった訳では無いのだが、強さこそ群れにあっての男のステータス!という中にあって、女をはべらせているゼノン、ゼノンのお零れに預かりたいフォティス、ムラト、チームフィジカルで戦いに生き、戦いに死ぬ!という3人とも違い、どこかクールなのがいい。エリザベートに比べれば孤独ではないのは、血統こそがステータスではない一族だからかもしれない。

  この2人が出会い、恋に落ちたのは偶然ではなく必然だったことは、物語が進む中で明らかになる。エリザベートが偶然から暴いてしまった霊廟から目覚めた先王の摂政のひとり・イシュトヴァーンが登場したことで、反故になった2つの種族の不可侵条約、そしてヴァンパイアとライカンを繋ぐ秘密、滅亡したもう1つの種族が犯した罪が明らかになる。
   これがびっくりする展開であった。若い2人の恋を中心に進むかと思いきや、かつての歴史の生き証人が登場なのだから。次世代に任せ、永い眠りについていたはずが、予定より早い目覚めの中で起きている変化に対して揺るがない、時に厳しい言葉でエリザベートを戒め、現在の王であるヴラドに対して警告かと思いきや、規定側につくイシュトヴァーン様、神々しい。
   そしてイシュトヴァーン様の伴侶であり、彼の眠りを守るように同族から虐げられていたルカーチェがその真の姿を現す場面がまた美しい。
   話が逸れるが、背徳的に見えるヴァンパイアのカップルにあって、イシュトヴァーンとルカーチェのような、自分をヴァンパイアへと生まれ変わらせてくれた相手への献身、盲信、依存、様々な形の愛が描かれている。
   エリザベートとルーヴェンが求めた、深い相互理解の上に成り立つ愛は、実はヴァンパイアの中にもあったのだ。

   話を戻す。
   エリザベートとルーヴェンは、思いを深めていく中で「血の契り」を交わそうとする。ヴァンパイアにとっては、伴侶となる相手の首筋から血を吸うことが伴侶の契りとなる。しかしライカンであるルーヴェンがエリザベートの血を口にすることは、ライカンの本能を呼び覚まし、彼女を骨すら残さずくらい尽くしてしまうことになる。躊躇った彼に、エリザベートは手首を傷つけて血を捧げる。
   数滴の血でも本能に乗っ取られそうになるルーヴェンが自制する場面は、やはり2人の絆の深さを感じた。
   ところが運命とは過酷なもので、2つの種族はお互いの存亡をかけて、全面戦争へと突入していく。ライカンの長・ドロテアは戦闘狂の3人を不死身の狂戦士へと変え、生け捕りにしたイシュトヴァーンの姪・ヨハンナを生贄にする。
   ルーヴェンのはからいでヨハンナは傷を負いながらも逃亡に成功するも、声を失ってしまう。伴侶のクラーラに何か訴えるも、声が出ないために伝わらず、エリザベートに優しかったクラーラがエリザベートに怒りとやり切れない感情を込めて睨みつける場面が見ていて辛い。
   ヴラドとエリザベートの姉であるベアトリクスは早々に「高みの見物」宣言をして、伴侶のターニャとともに戦列を離れ、ヴァンパイアとライカンは全面戦争に突入する。
   ここでもヴァンパイアたちの「愛」の形が表される。ヘルミーナにキツく当たっていたアントーニアは、自分を庇おうとする彼女を庇い、ルカーチェは片腕を失う。
   ここで狂戦士化したライカンたちに倒された、と思われるヴァンパイアもいたんだけど、アントーニアを演じた山本美羽さんの振り返り配信で、「公式設定で、ヴァンパイアは再生能力がなく、血肉はもちろん、骨すら残らない」というお話を伺ってしまったので、この物語、ファンタジーの体裁を取った架空戦記かもしれないと確信した。
   「死んだ人は世界の摂理が変わらない限り、戻らない」という一見残酷な縛りはあるものの、いつかやってくる「死」までに、伴侶をいつくしむこと、力を極めること、様々な形で生命は時を過ごす、という隠しテーマがあるのかもしれない。
   そして、単なるモテ男に見えたゼノンが終盤で、ルーヴェンと思わぬ連携プレイを見せる。ライカンの長は、その治世に不満を持つものが長を倒して成り代わることが出来る。不可侵条約を結ぶ際、前の長を謀殺したのはドロテア。そのことを知るゼノンが、その秘密をルーヴェンにうちあけるんだが、心の中でゼノンに全力で詫びた。こいつ絶対最後で裏切る!主人公カップル不幸にする!と思っていたら、筋を通す男だった。新たな長が立ち、今度こそ不可侵条約を成立させるために、エリザベートとルーヴェンはお互いの生命をかけた契りを交わす。
    全てが終わった夜、ゼノンとイシュトヴァーンが、何かを守るように寄り添いあう2人を見届けるところで、物語は終わる。
   エリザベートとルーヴェンの生死については、劇中明言されていない(赤子の産声で終わるのだが、ヴァンパイアとライカンのハイブリッドが誕生する、という象徴であって、2人がもうけた子どもとは考えにくい)のだが、2人が自分たちの恋を成就させるための血の契りではなく、滅亡した民がヴァンパイアの血からライカンを生み出し、その結果長きに渡る分断が起きた悲劇を乗り越え、血を分けた兄弟姉妹としてひとつになるための契りを交わした、と個人的には解釈している。
   相互理解の上に成り立つ愛を、2人は生命がけで成就させた。そういう結末だと思ってるけど、どうだろう?

  時間が経つとあれこれ記憶が薄れてしまいそうなので、Xに書き散らした考察メモで各キャラクターについて掘り下げたい。

   キャストの皆さん、運営のみなさん、素晴らしい時間をありがとうございました。
   


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