人魚のいた島(仮)①
これは、わたあめ工場「Corcocoru」鑑賞後に、物語が終わった後の島の人々を勝手に想像して書いたもので、非公式二次創作です。ご了承ください。
海と空が溶け合う程美しいと言われる島、シルーレ島。この島にある日突然、嵐が襲った。嵐は三日三晩吹き荒れ、四日目には何事も無かったように晴れ渡った空と穏やかな海が戻った。
この島を知る人々は、いにしえより伝わる伝説のようだと噂した。海の王が大切な姫を奪われた悲しみと怒りから、島に嵐をもたらす。
その姫は、陸では人魚と呼ばれる存在。
鱗が、血が、肉が、病・美しさ・永遠の命を与えるという。嵐の後に人魚が現れたのかどうかは定かではない。ただ、奇妙な流行り病が蔓延し、島の医者でも匙を投げたそれが、奇跡的に収まった事だけが島の外にも知らされた。
やはり人魚はいたのではないかと言う噂から、訪れる人々が増え、島は再び活気を取り戻しつつあった。
緑の思想の長・コルネリアは、レナートからある報告を受けて、表情を曇らせた。
「では、灯台守……いえ、エリオは今どこへ?」
「わかりません。あの灯台を訪れ、エリオに関わっていたノエミも、あの日以来姿を消しました。残っていたのは、血だまりとナイフだけでした。」
不吉な証だ、とコルネリアは思う。
島を襲った謎の病。それを治す秘薬を手に、自分たちに関わらないでほしいと懇願したエリオの纏う「色」は、無思想の白では無かった。
慈しみ、己の正義を貫く強さ、一途に誰かを思う美しさ。あの青年は、全ての「色」を纏っていた。
マリエッタの命の恩人でもあるエリオを追う理由はなかったが、何事かあれば、力を貸してやりたい。コルネリアはそう考えていた。
姿を消したエリオ、ノエミ、マリーンの間に何が起きたのかを探るのではなく、この島が優しさと思いやりで満ちるように努めていくことが、緑の思想を纏うものの使命。
コルネリアは、レナートに命じた。
「レナート。貴方に頼みたい事があります」
『この島には、確かに人魚がいた。人魚がもたらすものに、私たちを律していた思想は意味をなくし、その力を我が物にしようと狂乱した。だが、人魚の恵みは、我々の思想や欲望に縛られた者にではなく、何も持たない小さな者にもたらされた。太古の昔からそう約束されていたように。その約束に背いてしまうほどの妄執にかられてしまうのも、我々人の弱さである。
私たちは、その弱さを認めあい、慈しみと思いやりがこの島だけでなく、世に満ちるように努め、祈ろう。』
緑の思想の修道院管理長・レナートの記した書は、後の世に置いて、迷える人々の心の拠り所となった。
(つづく)
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