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龍の民


 ホロタ アイサ 文   
 
 希夢 絵  





何かが小さく弾けた 始まりの 合図

静寂はゆらめき
あちこちで かすかに 音が鳴り始めました

「ポパッ・・・ポパッ・・・ポパッ・・・」

その音は 
だんだんと大きく 広がってゆきました

それはまるで 波動の共鳴
それはまるで 光のダンス

真空劇場に 
アルトナイトが 生まれた その瞬間

空(くう)が

弾け

未だ見ぬ

すべてが

生まれました


とてもとても とっても長い 
気の遠くなるような時間が あっという間に過ぎ
大宇宙には 大小様々な星が生まれました

星たちは 色鮮やかに燃え盛り
虹色の宇宙雲が 暗闇を彩り
飛び回り ぶつかり合い
賑やかな 光と波動のカーニバル
 
そして それは だんだんと  穏やかになり
ゆっくり揺らぐ 静かなる世界がやってきました




   

小さな火の星と龍のおはなし






燃える星たちの弾ける波動が 
大きな揺らぎになった頃
小さな火の星から 
一匹の龍が生まれました

小さな火の星には 幾つもの穴が開いており
その穴から「ボッボッ」と時折炎が飛び出します

龍は 小さな火の星から飛び出す炎を食べて 
みるみる大きくなりました

小さな火の星は 炎に飛びつく龍を 
とても 愛おしく思いました

龍は どんどん 大きくなり
炎は だんだんと 小さくなり・・・・

気がつくと 小さな火の星の炎は 
弱々しいともしびとなっていました

そして 龍はついに 
小さくなった火の星の
最後のともしびを 
きれいに平らげてしまいました

しばらくすると 龍は 満たされない面持ちで
大宇宙に輝く たくさんの火の星を見つめました

そして 意を決したように 勢いよく飛び上がり 
火の消えた星を後にしました

小さな巌(いわお)となった星は 
龍の旅立つ後ろ姿を見送り 泣き続けました



  


    


大きな火の星と龍のおはなし






それは 長い長い旅でした

旅の間 龍は 
数えきれないほどの 火の星を見つけては 
次々と炎を食べ尽くし
お腹がすくと 
また次の火の星を目指し 
旅には終わりがないように思えました

ある時 龍は 勢いよく燃え盛る炎に包まれた
大きな火の星にやってきました

すっかり大きく成長していた龍は 
大きな火の星の炎を ペロリと食べ尽くし
星の上に 横たわりました

火の消えた大きな星は 静かに龍に言いました

「金色に輝く美しき龍よ 
私の炎を喰らい尽くし満たされたようだな
しかし お前はまた 炎を求めるだろう
だが 龍よ よく見よ
この宇宙に あれほどあった火の星は 
ただの一つも 残ってはいない 
さぁ 困ったものだ
このままでは お前は 
闇にすっかり飲み込まれて 虚無 となるぞ」

黙って聞いていた龍でしたが 
大きな星の言葉を理解した次の瞬間
込み上げてくる不安と恐怖で 
ガクガクと震え出しました

黒い塊となった大きな星は 
龍を哀れに思い 智慧を授けました 

「マコトノコトハリを探すのだ
アルトナイトが 
お前の霊性へと導くだろう・・・」

大きな星は そう告げると
もくもくと煙に包まれました
そして 渦巻く煙の中に  
コトバの花の蕾が生まれました

大きな星はもう何も語りません
大宇宙に 静寂が広がり
真っ黒な口を開けた「闇」が 
ぽっかりと浮かんでいます

龍は さらに大きくブルルッと体を震わせ 
コトバの花の蕾を そっと口にくわえると 
よろよろ力無く飛び立ちました


  



   

   

コトバの花と龍のおはなし






火の消えた 冷たい宇宙には
巌(いわお)となった星々が 
無表情に浮かんでいました

凍えるような寒さ

一筋の光さえ見えない暗黒の世界 

龍はとても心細くなり 気がつくと 
飢えは なくなっていました

それどころか 龍のお腹の中は 
恐怖と不安でいっぱいになり 
今にも 吐きそうです

マコトノコトハリ・・・
アルトナイト・・・
レイセイ・・・

龍は 小さく呟きましたが 
全く意味がわかりません

「マコトノコトハリとはなんだ?
導いてくれるって もしかしてお前が 
アルトナイトなのか?」

コトバの花の蕾は硬く 何も語りません


昇っているのか

降りているのか

進んでいるのか

回っているのか

龍は 行く先もわからず

闇雲に泳いでいました


このままマコトノコトハリを見つけることもなく
闇に飲み込まれ 
虚無になってしまうのか・・・・

そんな考えがふと頭の中をよぎると
龍は 大きく頭を振り 
恐ろしい考えを振り払おうとしました

そして コトバの花の蕾を
二本の手で しっかりと優しく抱きしめました

すると 手の中で何かが弾けた音がします


「ポパッ・・・」


龍は目を凝らして コトバの花の蕾をよく見ると
蕾は微かに震え いのちのひかりを放っています

その微かな振動に共鳴するように 
龍のお腹は激しく鼓動を打ちはじめ
大きく見開いた龍の目にも 
いのちのひかりが灯りました

「アルトナイト!」 

龍が叫ぶと
いのちのひかりは どんどん強くなり
龍のお腹の中からは 
恐怖と不安が吹き飛びました

「アルトナイト! マコトノコトハリ!」

もう一度叫ぶと 
それまで 無表情に
浮かんでいるように見えていた星々が
龍を暖かく見守っていることに気づきました




「あの・・・お水をいただけませんか」


龍の手の中で 
ふっくらとした蕾になった
コトバの花が言いました

龍は コトバの花の美しく響く 
いのちの芽吹きを両手に感じると
なんとも言いようのない嬉しさが込み上げ
大きくお腹を膨らまして 
ありったけの力で咆哮をあげました

すると 大宇宙は大きく震え 
暗黒の世界に 光が灯りました

無数の星々がきらめき
宇宙雲は鮮やかな色彩を取り戻し
彗星は 規則正しい光の尾を描きます

輝きが戻った大宇宙
それは いのちそのものでした

息を飲むほどに美しく輝くいのちに包まれ 
龍はこれまで感じたことのない 
とても幸せな気持ちになりました

 

 

  



水の星と龍のおはなし






色とりどりに輝く星々の中に 
ひときわ青い とても美しい水の星がありました

龍は コトバの花に水を与えようと
美しい水の星へ降り立ちました



水の星は 龍とコトバの花を暖かく迎え 
こう言いました

「金色に輝く龍よ 聞いておくれ
私はかつて 小さな火の星だった
静かなる世界が訪れたとき 
私は小さな龍を生んだ
私は 龍をとても大切にしていた
しかし 龍は 
私の最後の炎を飲み込んだ後 旅立ってしまった
私は 寂しくて いく日もいく日も泣き続けた
そして 私の涙は海になった」

そう言うと 水の星は 
傍らの小さな穴から 清らかな湧き水を 
龍の鼻先へ スゥーッと流したのです

龍は 一瞬戸惑いながらも 
水の星が流した湧き水を
「ゴクリ」
と飲み込みました
清らかな水は 龍の口から 喉元を通り 
お腹の中にじんわりと広がりました
龍は その水のあまりの美味しさに驚きました
そして龍は たった一口の水で 
とても満たされていました

コトバの花の蕾は 
すっかりこの星が気に入った様子で
日当たりの良い小さな沼を見つけ 
気持ちよさそうに浮かんでいます

穏やかで美しい水の星

ぽかぽかと暖かい陽だまりの中   
龍は 生まれて初めて 
深い深い眠りにつきました




   

神様と龍のおはなし






龍は夢の中で 神様に出会いました

神様は 龍に こう言いました

「龍よ お前を生んだ 小さな火の星は
己の止まらぬ涙で水の星となった
そして 大宇宙の火が消え 
水の星は氷に飲み込まれた
だが お前の放った大いなる波動は 
再び 大宇宙に火を灯したのだ
水の星の氷は溶け 様々な生命を生んでいる
お前は そこで 
マコトノコトハリを見るだろう」

そして神様は彩雲となりふわりと消えました





目がさめると龍の目の前に 
コトバの花が凛と美しく咲いて居ました
花は風に揺れ キラキラと輝き 
素敵な香りをあたり一面に振りまいていました

龍はこの花が
とても愛しく
うっとりと眺めていました

「スゥー」

龍が花の香りを思いっきり吸い込むと
花は楽しそうにキラキラと揺れました

「スゥー」

「キラキラキラ」

「スゥー」

「キラキラキラキラ」

繰り返しているうちに 
龍はすっかりいい気分になりました

フワフワ ユラユラ と 龍はソラに昇り
彩雲の隙間から 水の星を見渡すと
水面に差し込んだ光が キラキラと輝き 
なんとも美しい光景が広がっていました
そして 龍の頭上には 
大きな火の星 がありました

大きな火の星は とても立派で力強く
そこから溢れるエネルギーは 水の星を温め
様々な生命を育んでいました

夢の中で神様が言ったとおりです

「マコトノコトハリは どこにあるのだろう?」





   

ドラゴンビート







「ピリカモシリ ウエンカムイ 
アイノウタウ アイノオドル」

水の星のどこからか 歌が聞こえます

龍は初めて聞く歌に とても楽しくなり
歌声に誘われて 
静かなる大地「アイヌモシリ」へとやってきました


アイヌモシリには「コタン」と呼ばれる村があり
歌声は そこから聞こえてきているようです

コタンは とても活気に満ちており
大きなもの
小さなもの
四つん這いのもの
皺だらけのもの・・・

様々な姿をした
「アイノ」という者たちが暮らしていました

アイノの周りには 
たくさんの生命が生まれていて
いのちの輪が 絶えず回っています

全ての 
いのち、物、出来事に
カムイ(神)が宿り
アイノは
カムイとの調和を大切に暮らしていました

アイノは 森に行き 
木のカムイに許しをもらうと
丁寧に木を伐り倒し
「チセ」と呼ばれる家を建てました

大きなアイノがチセを建てる傍らでは
小さなアイノが 水草や木の皮を美しく丁寧に織り上げ
儀式に使うための敷物「ニカプンペ」を作っています
その周りでは もっと小さなアイノたちが
走り回ったり 歌ったりしていました

コタンに 見事なチセが完成し
皺だらけのアイノが儀式の準備を始めました

龍は アイノの歌や動きのすべてが面白く 
山の頂から しばらく眺めていました

「カムイウタウ カムイオドル 
ピリカピリカ ピリカピリカ」

アイノの歌声は 螺旋を描きながら 天にのぼってゆきます 
龍はすっかり楽しくなり のぼってゆく歌を追いかけながら
大地から空へ そして空から大地へと
雲を突き抜け ぐるぐると踊り出しました

龍が踊りだすと あたりの様子は一変し 
コタンに強い風が吹き荒れました
厚い雲が 大きな火の星を覆い隠し 
激しい雨が大地を叩き 
歌声はどよめきに変わり 
アイノたちは大急ぎで
チセに逃げ込んでしまいました

ところが 龍の尾が打ち鳴らすビートは ますます激しくなり
ついに龍は アイノの歌を 音吐朗々と歌い始めました

「カムイウタウ カムイオドル ピリカピリカ ピリカピリカ」

次の刹那 歌は一筋の雷となり 村はずれのイチイの木に落ちました 


イチイの木が激しく燃え上がると 
その炎の中から 
一匹の 小さな龍が生まれました

小さな龍は すぐさま天に掛け昇り 
大きな火の星めがけ 
凄まじい速さで消えて行きました

龍は 歌うことを忘れ 
呆気にとられて その一部始終を見ています

すると 嵐は止み 静寂が訪れ
雲の隙間から 暖かい光が降り注ぎ
アイヌモシリはあたたかさに包まれました

見事なチセは嵐の中でもびくともせず
アイノたちを嵐から守りました

チセから出てきたアイノたちは
突然の嵐に畏敬の念を抱き
厳かに天を拝みました

小さなアイノが 燃えたイチイの木を見つけ
根元に残っていた 熾(おき)を
大切にチセへ持ち帰りました

そして、アイノは 熾に小枝をくべて
火の神様「アペフチカムイ」に
感謝の祈りを捧げました

この時 龍は アイノたちにとって 
火がとても大切なものだということを知りました
 
小さいアイノたちは燃えたイチイの木の周りで 
歌を歌ったり 踊ったり とても楽しそうです

自分自身の放つ大きなチカラに気づいた龍は
アイノの楽しい歌や踊りを 邪魔しないように 
静かに楽しんでいました


そしてふと 
先ほどの 小さな龍 のことが気になりました

振り返ると 大きな火の星は 
紅色と金色を混ぜたような光を放ち
大きくゆらめきながら 
茜色に染まった水の星の頂に座っています


龍は 
大きな火の星に向かって 
ゆっくりと飛んでゆきました  

 



   

目覚めのおはなし








「真(マコト)の理(コトハリ)を 見つけたようだな」

大きな火の星が 龍に向かって言いました

その聞き覚えのある声は
龍が最後に炎を食べ尽くした 
大きな星の声

それから
 
夢に出てきた 
神様の声 によく似ていました

「マコトノコトハリ・・・まだ・・・」

龍は小さく答えました

「お前は 気づいていないのか」

大きな火の星 は 龍に優しく問いかけながら
忙しく炎を追いかけ飛び回る小さな龍の背中を 
トントンと軽く叩き 
少し落ち着くようにと促しました

そういえば 龍の飢えはすっかり消え 
癒され 満たされていました 
そう 龍は既に 
マコトノコトハリを見つけていたのでした

しかし 龍にはまだわかりません

龍は今までのことを思い出しながら 
しばらく目を瞑り 考えました


いつの頃からか
龍は いつも空腹で 欲望のままに 
星々の炎を平らげていました
欲望を満たすことが 幸せだと思っていたのです
そして幸せの終わりは突然 龍の前に現れました

最後の炎を食べ尽くしたあの時
目の前の大きな星は 
物言わぬ大きな塊となっていました


龍はゆっくり目を開け
大きな火の星をじっとみて言いました

「あなたはあの時の 大きな火の星。
でも、おかしいな。
あなたの炎は
全部食べてしまったはずなんだけど」

龍が 不思議そうに首を傾げると
大きな火の星は おかしそうに笑いながら

「あぁ あの時 確かにお前は 
私の炎を食い尽くした
しかし お前の見事な咆哮は 
私の中に残ったわずかな熾さえ 
大きな炎に変えた」

龍はようやくわかり始めました

恐怖と不安に満ちた 暗黒の世界 
絶望と焦りに満ちた 未知の世界
驚きと喜びに満ちた 躍動の世界
幸福と慈しみに満ちた 美しい世界

全て龍が生み出した世界でした



大きな火の星の助言がなければ
龍は 本当に闇に飲まれ 
虚無となっていたでしょう

龍はこの時 初めて
自分の愚かさと偉大さに気づき
大宇宙の智慧と慈悲深さを思い知りました

「アルトナイトは花の名前ですか?」

龍は 大きな火の星に訪ねました

「お前がそう思うのなら そうなのかもしれない」

大きな火の星は 
小さな龍を炎で優しく撫でながら言いました

龍は 大きく息を吸いこむと
鼻腔の奥に 
「マコトノコトハリ」をしっかりと捉えました

そして 大きな火の星に 
ゆっくり深く頭を下げ 
水の星へと帰ってゆきました




   

或ると無いとのおはなし







水の星は たくさんの新しい生命を生み 
癒しの星「地球」となりました

地球には コトバの花の子どもたちや
様々なカムイやアイノが生まれては消え 
そしてまた生まれを繰り返し
いのちの輪が 豊かに 
そして 大らかに息づきました

霊性を目覚めさせ美く立派に成長した
金色の龍の波動は 地球を震わせ 
たくさんの龍を生みました
龍たちは 山間を流れる清澄な川や湖の神となり
金色の龍は恵み豊かな「龍の島」となりました

この世界は いのち溢れる とても美しい世界

「或る」と「無い」とが織りなす 
大宇宙の壮大なリズムに乗って
途切れることなく 繋がり 巡り 
共振共鳴する 愛の波動

これが 龍の見つけた 
この世界の「マコトノコトハリ」だったのです




   

龍の遺伝子






 
刻々と変化する現世界に溢れる 様々な周波数は
時として人々の心をざわつかせます

耳触りの良い言葉に従い 見えない空気を必死に読み解き
いつの間にか自分が何者なのか わからなくなってしまいました

でも 思い出して欲しいのです
私たちの遺伝子に書き込まれた素晴らしい叡智と創造力を

私たちは 日々感じる恐怖や不安 怒りや焦りなど
負の感情を 自ら手放すことができます
そして
朗らかに いのち輝く 美しい世界 を創造することができます

     龍の遺伝子は こう言っています

 「龍の民たちよ 新たな時代の幕開けだ
       こころおどる ドラゴンビートを打ち鳴らせ!」



ーーーーーーーーーーーーENDーーーーーーーーーーーー




ところで イチイの炎から生まれた小さな龍は 
その後どうしてるかって?

きっと 水の星の頂から 
私たちが これからどんな世界を創造するのか
ゆったりと 見守ってくれていることでしょう

ピリカピリカ
美しい未来を紡いで行けますように 拝

Love & Peace



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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どうぞよろしくお願い致します


有料記事には
この物語の誕生のきっかけとなった
ちょっと不思議な体験を書きましたので
よろしかったら読んでみてください



”全ての輝くいのちにいつも幸せが或りますように”



2023.4.6.満月

ホロタ アイサ


《 編集のお知らせ 》
2023.6.21.
松果体の成熟が進んだため 物語の一部を加筆修正させていただきました。

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