見出し画像

葛巻の人魚

岩手県岩手郡葛巻町は人口約5500人、岩手県を顔としてみると、眉間あたりに位置します。わたしは2020年4月からこの町で生活をしています。

街を歩いたり郷土史を読んだりしているうち、「イモンバサマ」と呼ばれるカミサマに出会いました。葛巻文化財保護委員の藤岡一雄さんによれば、「イモンバサマとは疱瘡神のことで”いも神”ともいう。」(1)とのこと。コロナ感染が拡がっていく中、100年以上昔の人々が疫病の際に何にカミサマを感じ、祈ったのか興味が湧き、少しずつ調べているところです。

「昔から、瘡(できもの・かさ)が出来たらイモンバサマにオスレコ(おしろい)を塗って拝めば治ると言われていた。」(2)

「これは昭和末期頃の聞き取りであるが、同じ一戸町の面岸地区では”天然痘で出来たカサをイモッコといった。天然痘を治してくれるのがイモンバ様である”というのである。天然痘で出来たカサがジャガイモの表面の凹凸に似ているためそう呼ぶようになったとの事である」(岩手県立博物館研究報告)

わたしも小さい頃、中指にイボが出来た時に、「イボガミサマ」というところに連れていかれ、石でできた大きな牛のおでこにある突起にイボをこすられたことを覚えています。「あ、治ってる」という記憶がありますが、実際はどうなんでしょう。

星野のいもんば堂 

葛巻にあるという五体のイモンバサマのうち、変わった姿をしているのが田代にある雷電神社のイモンバサマです。星野のえもんば堂に祀られた高さ47㎝ほどのイモンバサマが眉毛からにこっと笑った優しい表情の人の姿なのに対し、田代のものは、丸い玉を両手に掲げひょうきんな顔をした懸仏です。そのほかのイモンバサマたちが人の姿を摸しているのに対して、あまりにもかけ離れているな、、、ほんとうにイモンバサマなのだろうか?と不思議に思い、少しずつ聞き込みをしていました。

雷電神社のイモンバサマ? 写真:「くずまき歴史散歩」 著者:藤岡一雄より引用

そんな中、毎日新聞で「謎の光線出す玉持ったアマビエの仲間を確認 江戸後期の資料に 名古屋市蓬左文庫」という記事が出ました。記事によれば、「同じように流行病を予言した奇妙な姿の妖怪が、江戸後期の出来事を中心にまとめた史料に描かれていた。アマビエをはじめとした「予言する妖怪(予言獣)」を研究する福井県文書館職員の長野栄俊さんが確認した。うろこに覆われた胴体や3本足はどことなくアマビエを連想させるが、角の生えた顔や、何より謎の光線を出す玉を両手に持つ姿はまるで別物。アマビエと違い自らの名を言わなかったため、名前は不明という。」(3)とある。https://mainichi.jp/articles/20200821/k00/00m/040/061000c  

写真:毎日新聞(3)記事より引用

この記事に掲載された写真を見ると、なんだか田代のイモンバサマに似ていることに気が付くだろうと思います。正しいことはわかりませんが、もしかしたら、この記事のような予言の人魚?の話を聞き、その力に縋ろうとした人が彫ったものを、神社に奉納したものかもしれないと勝手に想像してしまいました。それが「イモンバサマ」と呼ばれ語り継がれているのではないかと。

昔、塩が太平洋側から内陸へと運ばれた、”塩の道”の途中にある街に海辺の預言獣人魚の姿が残っているというのも面白いなと思うところです。

注⑴⑵ くずまき歴史散歩 藤岡一雄・著より             注⑶  「謎の光線出す玉持ったアマビエの仲間を確認 江戸後期の史料に 名古屋市蓬左文庫」毎日新聞2020年8月21日 11時08分(最終更新 8月21日 14時05分) https://mainichi.jp/articles/20200821/k00/00m/040/061000c?pid=14606          




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?