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図々しいにもほどがある

 私が住んでいるところは都市部ではないので、カラスやスズメのほかにも数種類の野鳥がいる。カッコウもそのひとつで、毎年6月上旬には啼く声が聴こえてくる。なんとなくのどかな感じがしないでもないが、そんなこととは裏腹な面もある。

 私はカッコウに対していい印象を持っていない。それどころか嫌悪している。ここまで書けば察しがつくかたも多いと思うが、カッコウには托卵という憎たらしい習性がある。その図々しさきわまりない習性を持つがために、私はカッコウを嫌っている。

 この習性を持つのはホトトギス科の鳥で、日本ではホトトギスのほかにカッコウ、ツツドリ、ジュウイチがいる。これらの鳥はほかの鳥の巣に自分の卵を産み、孵化したあとはその幼鳥を育てさせる。育てさせられる鳥、つまり本来の巣の主は、この場合には仮親と呼ばれる。

 カッコウの雌は繁殖時期になると、ターゲットを探すために偵察を開始する。狙われるのは、カッコウの卵と似た卵を産むヨシキリ、モズ、ホオジロ、セキレイなどだ。
 カッコウは狙いをつけた鳥の巣に、留守を狙って侵入する。そして、その巣にすでにある卵を1個か2個、くちばしを使って巣の外へ捨ててしまう。すべてを捨てないのは、残した卵に紛れさせて自分の卵を産むためだ。

 托卵鳥が産む卵は1個だけだ。皮肉なことに、その1個がいちばん早く孵化し、孵化したばかりの幼鳥は、ほかの卵を背中に乗せて巣の外へ出してしまう。そして、その後はのうのうと仮親から餌をもらい続けるのだ。なんという巧妙で狡猾な習性だろう。
 しかも、カッコウの幼鳥は巣立つまで仮親から餌をもらい続ける。巣立つころには仮親よりも体が大きくなっている。それでも仮親は餌を運び、与え続ける。

 自分の卵を捨てられたうえ、仇であるカッコウの卵を育てさせられる鳥こそ哀れきわまりない。いくら見かけが似ている卵とはいえ、なぜ気づかないのかと、私はむしろ仮親に対して腹立たしくなるが、それが自然の摂理だからしかたがない。

 托卵鳥のほかにも図々しい輩はたくさんいる。ヤドリバチと総称されるハチ類は、俗に言うイモムシの体内に産卵する。種類によって異なるが、イモムシの体内で孵化した幼虫は宿主の体内を食い荒らして成長する。
 ハエにも同じような生態のものがいるというが、ハチにしろハエにしろ、イモムシにとってはまさに仇のために生きている状態で、命を犠牲にして育てているわけだから、カッコウよりも始末が悪いし残酷でもある。
 ただ、人間の側から見れば、害虫であるイモムシの駆除に役立つという利点となるので、毒をもって毒を制すというふうにも取れる。

 ほかにも寄生虫やヤドリギのことなどを書きたいのだが、そんなことを書いているとさらに腹立たしくなるので、別の機会に譲るとして人間の話へ。
 人間だって狡猾な悪人や残酷な異常者などは枚挙にいとまがない。私はずっと前から、強盗はいけないことだけど、詐欺と比較すれば素直だと思っている(説明するまでもないが、私は強盗を褒めているのではない)。

 力だけが頼りのバカで凶暴な強盗とは異なり、詐欺は〝力を使わず頭脳を使う〟という、いわゆる知能犯という点でカッコウを連想する。いや、カッコウから詐欺を連想するとも言える。

 昨年、親しい知人が還付金詐欺と同様の詐欺に遭った。中高年の男性で、決してばかではない。日ごろからニュースにも接しているし、いろいろな手口も知っている。だから〝私はだいじょうぶ〟と自信を持っていた。
 しかし、詐欺師の電話にあった医療関係の話に、たまたま彼の身内が思い当たることがあった。あとは巧みに〝急かす手口〟に乗せられ、ATMで50万円を振り込んだ。不幸中の幸いというか、そこで気づいて被害はそれだけにとどまった。

 ところで、今年はまだカッコウが啼かない。いつもの時期は過ぎている。どうしたのだろうか。それとも私が聞き逃しているだけなのか。
 啼けば啼いたであれこれ考え、啼かなければ啼かないで気をまわす今日このごろ。




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