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ミャンマー内戦⑥ミャワディ紛争後の国境管理と越境貿易(ISP-Myanmar)


各国境ゲートの支配状況

まず図の見方だが、各国境ゲート名に入っている色が、どの国との国境かを示している。🟦が中国、🟫がラオス、🟪がタイ、🟩がバングラデシュ、🟧がインド。

次に国境ゲート名から伸びている線の先の点の色が、どの勢力が支配しているかを示している。🟢が国軍支配下のゲート、🔵が国軍支配下であるものの停止中のゲート、🟠が少数民族武装勢力(EAO)、国境警備隊(BGF)など反政府勢力支配下のゲートである。

ただミャワディ(Myawaddy)の国境ゲートは「2024年4月11日に国軍が支配を失った」とあるが、その後、国軍と協力関係にあるBGF(最近、カレン民族軍《KNA》と改称)が支配を回復したと報道されているので、注意が必要である。このBGFはカレン民族同盟(KNU)から分派した民主カレン仏教徒軍(DKBA)の流れをくむ勢力である。


各国境ゲートのクーデター後3年間の1日平均貿易総額

各国境ゲートのクーデター後3年間における1日平均の貿易額である。これを見ると、国軍支配下のティキー(Htee Khee)、3兄弟同盟支配下のムセ(Muse)、そして国軍と協力関係にあるBGF支配下のミャワディ(Myawaddy)が断トツで貿易額が多いことがわかる(前図の赤で囲った国境ゲート)。


クーデター後3年間における各勢力支配下の貿易総額

この図はクーデター後3年間における各勢力支配下の国境ゲートの貿易総額を示している。これによると国軍は🟪の38.8%と🟥(停止中のゲート)の1.7%を足して約40%、対する反政府勢力は🟩の約60%(全体の248億$のうち148億$)となっている。

ただこれはミャワディの国境ゲートが反政府勢力側に加算されているために出る数字で、仮にミャワディの過去3年間の貿易総額(550万$×365×3)=約60億$が国軍側に回るとすれば、反政府勢力側の貿易総額は148億$-60億$=88億$となり、全体の35%を占めるに過ぎないという計算になる。

反政府勢力支配下の貿易額が全体の貿易総額の中で占める割合

しかも前述の「貿易総額」とは陸上貿易のみの数字で、クーデター後3年間のミャンマーの貿易総額約940億$のうち、海上貿易は約690億$で全体の73%を占め、陸上貿易は約250億$、全体の27%を占めるに過ぎない。

図では反政府勢力は陸上・海上含むすべての貿易総額の15.8%を占めるとあるが、これもミャワディの国境ゲートが反政府勢力側に加算されているために出る数字で、仮にこれを国軍側に回すと約9%となる。

ちなみに国軍は海上貿易を拡大する方針である。


国境(陸上)貿易額は5ヶ月間で13億$以上減少

1027作戦以降の過去5ヶ月間、紛争が原因で5つの国境ゲートが活動停止して、13億$以上の途方もない損失が生じた。活動停止した5つのゲートのうち、ムセ(Muse)は3兄弟同盟支配下、ルウェジェはカチン独立軍(KIA)支配下、チンシュエホー(Chinshwehaw)はミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)支配下にあり、その損失のほとんどは反政府勢力側が被っている。

またたとえ反政府武装闘争が国境を支配しても、国境を管理しているのは国軍で、交易ルールや許認可権を通じて国境貿易をコントロールできるため、反政府武装組織が国境貿易から利益を得られるかは不透明という見解もある。


参考


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