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ミャンマー内戦⑤Krackhauer氏による1027作戦以降のミャンマー内戦考


ミャワディの戦いをめぐる情勢変化は、ミャンマーの民主派支持者の多くを落胆させている。その一方で、この状況を意図的に利用し、歪曲され操作された報道を流布することで、自己主張と他者への誤解を与えようとする者もおり、より広範な視点からの公正な判断を提供できていない。
ミャワディの戦いは極めて重要な瞬間だったが、それが内戦全体の結果を表しているわけではない。ミャワディの状況を踏まえ、ビルマ内戦を評価し、現在の作戦状況を把握することは、きわめて価値がある。

戦術的視点

良く訓練され、適切に武装した反政府勢力であれば、ゲリラ戦を実行し、政権の重要な標的に対して待ち伏せ攻撃を仕掛けることができる。反体制派が1027作戦以降に示した作戦戦術は非常に効果的であることが証明されており、特に中国製の、現地で改良された商業用/農業用ドローンを政権側の目標に対して活用している。

長年の腐敗により、反政府勢力に比べて装備が優れているのにもかかわらず、国軍の戦闘能力と士気は著しく低下している。過去に戦闘実績のある歩兵部隊であったが、現在では直接的な交戦においてほとんど効果的な働きができず、国軍は主に空爆と砲撃に頼るしかなくなっている。当初、国軍はドローン戦の出現に対する準備をしていなかったらしく、この新たな脅威に効果的に対抗するために必要な戦術や技術を欠いていた。

戦略的視点

ここにきて反政府勢力にとって重大な課題が浮上してきた。反政府勢力が領土支配と行政範囲を拡大するにつれ、兵站と補給線を効果的に管理し、大規模な共同作戦を調整するために、統一された指揮系統の必要性がますます高まっているのだ。

中国が秘密裏に支援した1027作戦は、基本的には国軍に対する戦略的正規戦であり、3兄弟同盟は最小限の犠牲でシャン州北部のほぼ全域を掌握することができた。敵に対して半正規戦または完全正規戦を繰り広げることなく、全国の主要都市を占領することは不可能である。そのためには、全国的に統一された指揮系統と、さまざまなEAOとそれぞれの傘下のPDF間の協調的な共同作戦が基本的には必要となる。

ところが、 シャン族、 チン族、 カレン族 、 モン族の武装組織や中央ビルマのグループを含む数十の反政府勢力との間では不和と分裂が続いている。1027作戦を開始したカチン独立軍(KIA)タアン民族解放軍(TNLA)ミャンマー民族民主同盟軍 (MNDAA)からなる北部同盟も内部分裂を経験している。さらにアラカ軍(AA)だけではラカイン州での長期戦争を維持できない。

国軍は、中国、ロシア、イランの支援を得て、長期的視点に立ち、現地のドローン戦争に対抗しているように見える。兵員が減少する中、政権は、すぐには強力な歩兵戦闘部隊にはなれないだろう徴兵兵や退役軍人を代用する計画で、彼らの戦闘能力の不足を補うため、大規模な空爆、砲撃、強化爆弾の使用に依存している。中国の仲介による海港協定のせいで、国軍は、文字通りシャン州北部を手放さざるをえなかったが、現在そこでは1027作戦時の同盟軍同士が反目しあっており、国軍にとって非常に有利な状況になっている。

国軍の化学兵器使用疑惑

国軍は化学兵器の使用を非難されているが、化学兵器はミャンマーマが1993年に署名し2015年に批准した化学兵器禁止条約(CWC)を含む国際法で禁止されている。化学兵器は爆弾、砲弾、ロケット弾、弾道ミサイルなど様々な形で使用される。そのような兵器の使用は、証拠が発見されれば国軍に深刻な結果をもたらし、国際社会による直接介入につながる可能性がある。そのような非常に敏感で危険な物質を製造、維持、運用する能力が国軍にあるのか疑うのは当然だが、それよりも国軍が破壊力が強い強化爆弾を使用する可能性があると結論づけるほうが理にかなっている。

消耗戦

リソースが無限ということはない。2021年のクーデター以来、反政府勢力は国軍の戦闘機を10機近く撃墜し、海軍の上陸用舟艇数隻を撃沈している。しかし、国軍に残存する航空機部隊は依然として運用可能であり、反政府勢力が現在所有するMANPADSおよび対空重機関銃では到達できない高高度から航空作戦を実施することができる。同様に、沿岸地域では、国軍の艦艇は反政府勢力が効果的に反撃するには遠すぎる距離から攻撃を仕掛けることができる。

反政府勢力への兵器支援は、主にワ州連合軍(UWSA)とカチン独立軍(KIA)が所有する現地の兵器工場、国境を越えたつながりによって促進される闇市場、そして国軍から押収した兵器・弾薬に因っている。3Dプリントで作られた銃も少し流通している可能性がある。一方、国軍は大量の兵器・弾薬を継続的に生産しており、長期的な紛争を維持することを可能にしている。しかし、紛争の長期化は双方に負担をかけている。このような状況は、分裂した反政府勢力に特に不利に働き、領有権主張などによる内部不和や団不一致が彼らの立場を弱めている。

地政学的影響

反政府勢力は自由世界から注目され、政治的支援を得ている。2023年、アメリカ議会は、ミャンマー民主派を支援するためのビルマ法を可決した。しかし、アメリカ主導の西側諸国による支援は、直接的な軍事支援というより、政治的な支援や国軍の行動に対する非難という側面が強い。これには、特に非国家的主体への兵器の提供は、国際法、政策、地政学的力学といった事情が複雑に絡み合っていることに因る。反政府勢力の不和と分裂が明らかであることから、彼らへの兵器の提供は、ミャンマー国内の混乱を悪化させ、地域全体を不安定化させる可能性がある。

国軍は外交関係だけでなく、中国、ロシア、イランとの軍事協力も深めており、紛争に関与するためにドローンやその他の高度な軍事装備の提供を受けている。最も重要なことは、中国が、1989年以来、国軍と事実上の準属国関係を維持していることである。北京のネピードー に対する微妙なアプローチは、腐敗した国軍が繁栄することも崩壊することも避けている。この姿勢により、中国は腐敗した国軍と、親中派の代理人を含む分裂した反政府勢力との間で利益のバランスを取ることができ、この地域における戦略的利益を守り、促進することができる。ミャンマー内戦におけるASEANの役割は、地域および世界大国の影響下にある影のようなものだ。

国軍はかつて、ロシアと関係を築くことで中国の影響力に対抗し、両者の間で力の均衡を図ろうとした。残念ながら、ロシアは自国の混乱に直面し、現在進行中のロシア・ウクライナ戦争において中国に依存していたため、このような国軍の姿勢は中国の反発を招いた。ミャンマー国民が一致団結して国軍支配を放逐しようとしている中、シャン州北部のサイバー詐欺シンジケートが中国の利益に大きな影響を及ぼしたため、中国は秘密裏に1027作戦を遂行し、国軍に教訓を与える絶好の機会となった。

中国のミャンマーにおける利益は計り知れないほど大きく、それには一帯一路構想や石油・ガスパイプラインも含まれている。これらの権益は、中国が1990年代初頭に計画した「西方拡大」という壮大な戦略計画の一部である。当時、人民解放軍の海軍はブルーウォーター海域(河川、沿岸部)で完全に活動する準備ができていなかったが、今日では状況は異なっている。中国共産党は、南シナ海だけでなく、ベンガル湾やそれ以外の海域でも力を発揮できるよう、海軍と空軍の近代化を急速に進めている。

破綻国家への転落

端的に言えば、もし反政府勢力の間で不和と分裂が続けば、国軍が復活する可能性があるだけでなく、この国が国軍と武装組織が地域単位で共同支配する永久的な破綻国家に転落する可能性がある。さらに同国は、ヘロイン やメタンフェタミン を含む オピウム の世界有数の生産国となっている。ミャンマーの人々が真の民主主義を回復するための包括的な共通の基盤の上に団結しない限り、この混乱と流血の傾向は続くだろう。これは主要な国際的利害関係者によって監視および支援されなければならない。

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