パンドラの鐘 杉原邦生ver

杉原邦生演出のパンドラの鐘を見てきました。
初演は取れなかったのでWOWOWかなんかで見たはず。野田秀樹と蜷川幸雄の演出バトルと大きな話題になった事件のような演劇体験。当時生で行けた人は幸せな体験でしたよね。野田さんの舞台は初見が映像だとしっかり入ってこないところがあるので曖昧になっていた部分もあって今回はそのあたりの記憶を補完出来たという意味でも良かったです。一緒に行った子供達にもわかりやすかったみたいです。

ネタバレを含みますのでこれから行かれる方は読まないで下さい。


 杉原演出の作品は初見なのですが、まぁ良かったと思います。でも舞台として素晴らしいのは当たり前ですけどね。だって脚本が最高なんだから。演出がどうかって言う話で言えば、野田さん蜷川さん大好きなんだろうなぁってのが伝わってくる所は良いのかな。
 やりすぎ感がちょいあったのはいなめない。まず、開始前の舞台に四角い柱が4本と向こう側に、幕で隠しもしないで意味ありげに立ちはだかる頑丈な搬出扉。このワザワザ感はもしかしたらと思ったら、やっぱりラストシーンで倒れ込む成田凌君の向こう側にゆっくりと扉が開いて外の様子が見える演出。
 これ、蜷川幸雄が文化村でやるお得意の演出なんですよね。当時と扉の外の様子が少し変わったみたいで外も建物のなかでいろいろ倉庫のようになっていて作業中の人がいるのが見えたり。
 初めて知らずに見た中学生の娘ネコ(仮名)はびっくりしてたし、こんな演出を蜷川幸雄がやってた事を知ってる演劇好きな高校生の息子ポチ(仮名)はこれが、あの有名な!みたいに胸アツだったのは確かみたい。経験としては楽しいんだけど、これ必要あった?
 私のような昔からの演劇好きにはもちろん懐かしいんだけど。正直、話のストーリー的には搬出扉を開けて奥行きを表現する必然性はないといえばない。もっといえば、蜷川幸雄がそれをやった時は外はちょっと寒くてすぐ道路が見えて、開けた扉から冷たい外気がぶわっと観客に伝わってきてすごく外の世界の広がりが強調された演出だった。今回はただ、の雑然とした倉庫が見えただけで物語にどう作用したのかよくわからない。
 必要がないと言えばもう一つ、葵わかなちゃんがラストで鐘の上に現れるところで急に道成寺の安珍清姫みたきになるところかな。あの鐘見た最初の印象はだいたい道成寺だとおもうので気持ちは分かるのですが、道成寺は男を呪い殺す女の情念の物語だから、あんまり意味がないんじゃないかな。始まる時にも道成寺の要素を入れるってインタビューで言ってたらしいのを帰りの電車で読んで、そこ見所だったのかな?と疑問に思った。

 ただ、以前三台目りちぁあどを外国の演出家が演出していたのを見たけど、そこまで文化権が違う人より蜷川幸雄と野田秀樹の演劇を同じ時代で感じた事がある位の人が演出した方が良いと思うのでそのあたりは良いと思います。
 若手の演出家に任せる演目にこの演出バトルを持ってくるのはちょっと荷が重いというか、無茶ぶりだと思います。
 だって天才2人が既に好きなように演出した後なんだから。その上で頑張ったと言うところは将来性も含めて良かったのではないでしょうか。

 あと、パンフレットに載って「2人のNに聞く」は再掲ですが面白いのでご購入は強くお勧めします。蜷川幸雄と野田秀樹のキャラの違いがよくわかるインタビューになってます。初演のを持ってる人にも一応新しい野田さんの文章は掲載されていますのでご損はないと思います。

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