感染症診療の考え方 part.1

僕のnoteをお待ちいただいたみなさん、お待たせいたしました!
やっと脱稿しました。
「はじめに」でもお伝えしましたが、このnoteは


寝る前にスマホで10分


勉強するというのがコンセプトです。



1分間に読める文字数がおおよそ500文字程度とのことなので、
この原稿もこの先書く原稿も、1 note、5000字程度を目安にします。
無料で読むことができる原稿はそのpart.1です。
Part.2, part.3は追って書きます(もしかしたらpart.4も)。



さて、記念すべき第1回目のnoteは



感染症診療の考え方



です。

リウマチ・膠原病についてじゃないのかよ!
とツッコミを受けそうですが、


リウマチ・膠原病に興味があり、なおかつ将来の専門となる研修医は限られていると考えます。


一方で、感染症は将来どの診療科に進んだとしても関わってくる問題であるため、このテーマにしました。例を挙げると、
術後の創部感染、脳梗塞後の誤嚥性肺炎、妊婦の虫垂炎、etc・・・

です。


このnoteを読んでいただくことによって
感染症診療の知るべき知識とともに、僕の思考プロセスを提供します。これらをマスターしていただければ、まず日常の感染症診療に困ることはほとんどなくなります。また、不明熱の原因の主要な割合を占めるのも感染症ですので、不明熱の診断にも多くの助けとなると思います。



実際、シニアレジデントを終了してまだ間もない僕ですが、基本的な感染症診療で困ることはほとんどないです(少しイキっているだけかもしれません)。



それでは早速、例を挙げて考えてみましょう。


【症例】68歳男性

【病歴】
B型慢性肝炎があり、肝に単発6cmの腫瘤があったため評価目的に入院した。
既往はウイルス性肝炎以外に糖尿病、高血圧、高脂血症。
内服はテルミサルタン、ロスバスタチン、肝庇護薬で、インスリンの自己注射を行っている。入院翌日に38.3度の発熱を認め、尿が混濁していることから尿路感染としてレボフロキサシンを開始された。



さもありなん、な症例ですね。
皆さんの勤務先の病院がこういった症例に対してどのようなアプローチをするかはわかりませんが、僕の周りではしょっちゅう見る光景です。


言わずもがなですが、これのアプローチを僕はよくないと考えています。



では、この患者さんに対してどのようにアプローチしていけばいいか、皆さんも一緒に考えましょう。


僕の感染症診療は以下の4つのパートに分けて考えています。


① 患者さんの状態を知る。
② 発熱や炎症反応上昇の原因がcommonな細菌感染以外ではないか考える。
③ 感染の標的臓器を探る。
④ 治療を決める。


これだけです。

さらにいうと、①~③までのプロセスをきちんと踏み、かつ抗菌薬に対する少しの適切な知識があれば、④はオートマチックに決まります。

オートマチックに決まるといっても、例えば今回のように尿路感染が疑わしい症例が実際に尿路感染であったとしても、状況によって


セフトリアキソン
セフメタゾール
シプロフロキサシン
メロペネム


と4種類の抗菌薬を使い分ける可能性があります。
場合によってはセファゾリンやバンコマイシンなども使う可能性があります。


今はまだこの意味は分からないかもしれませんが、感染症診療の考え方のnoteを通読・反復していただければきっとわかるようになると思います。


4つのパートをどのように実際考えているのか、1つずつ具体的に解説していきます。


① 患者さんの状態を知る。


患者さんを見に行く前に、まずカルテの情報や看護師さんからのお話を聞いて患者さんの情報を集めましょう。

例えば、60歳代男性と20歳代女性では、尿の混濁を認めた場合でも鑑別する疾患が変わることは何となくイメージがわくと思います。前者は急性腎盂腎炎などの尿路感染症を考えますが、後者では尿路感染症に加えて淋菌感染などの性行為感染症も疑います。

また既往症や内服・注射薬剤などによっても想定すべき疾患やその重症度変わってくるため、留意すべきです。



皆さんが無意識にしている、この思考を言語化すると


事前確率を上げる


という作業になります。
感染症診療に限った話ではなくすべての内科診療においていえることですが、今回のテーマと少しずれますので、このお話はまたの機会にさせてください。


今回のように糖尿病患者さんでは、気腫性腎盂腎炎や気腫性胆嚢炎など、免疫力が低下し感染症自体が悪化する場合や、足趾の神経障害のため足の小さな感染に気付かず進行して骨髄炎を発症する確率が普通の人よりも高くなります。


青木 眞先生のレジデントのための感染症診療マニュアルでは、
糖尿病患者さん以外にも免疫不全状態である患者さんは


骨髄移植患者
担癌患者(腫瘍自体・抗がん剤・放射線治療)
ステロイド・免疫抑制薬ユーザー
脾臓摘出患者
皮膚バリア破綻

などがあげられています。


免疫不全を考えるときには、主として障害されている免疫が

好中球機能
細胞性免疫
液性免疫
皮膚バリア

のいずれかに分けて考えることが重要ですが、詳細は割愛します。


まとめ
今回の患者さんは糖尿病の既往があり免疫抑制状態が疑われる60代男性




② 発熱や炎症反応上昇の原因がcommonな細菌感染以外ではないか考える



皆さんは自分が熱を出したときにどう考えますか?
多くの人が風邪かな?と思ってゆっくり休んだり風邪薬を飲んだりすると思います。


ではなぜ、今回の症例のように入院患者さんが発熱した時だけ、細菌感染症を第一に考え、抗菌薬を投与するのでしょうか?


当然、発熱や炎症反応上昇を認めたからと言ってそれが細菌感染とは限りません。しかし、頻度から考えて細菌感染が多いことをみんな経験的に知っているのです。ここまでの情報では感覚的に言うと60%程度でしょうか?このケースの1つの問題は60%程度の事前確率で治療介入したことです。


自明ですが、残りの4割は外れます。全盛期のイチローがヒットを打つよりもよっぽど高い確率で治療を間違えます。なので、先ほども少し出てきた事前確率を上げるということが大事です。


もちろん60%というのは全く根拠のない数字ですし、仮にあっていたとして、では何%なら治療するのかということもかも人によって違うかもしれません。


ただし、細菌感染の確率が90%以上あっても治療介入しないこともあれば、50%程度しかなくても抗菌薬を投与するケースはたくさんあります。ここでの思考法は、診断学のnoteで詳しくお話しします。



話が少しそれましたが、ある疾患に対しての事前確率を上げるために
他の疾患の可能性の事前確率を下げることは、とても有効なことです。


それでは鑑別疾患が多すぎるじゃないか!という不安もあるかもしれません。


確かに一理あります。ただし、特に入院患者さんでcommonな細菌感染(肺炎、胆嚢炎/胆管炎、尿路感染)以外で発熱・炎症反応上昇の原因となる疾患で頻度が高いものは限られています。以下がその代表例です。


① クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI; Clostoridium Difficile Infection)
② 褥瘡感染症(Decubitus)
③ デバイス感染症(Device infection)
④ 結晶性関節炎(calcium pyrophosphate dehydrate deposition; CPPD(偽痛風) + Gout(痛風))
⑤ 深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis)
⑥ 薬剤熱(Drug fever)

その他にもまれなものとして、副腎不全・リフィーディング症候群・無気肺などがあります。
これら6疾患をまとめて


院内発症の発熱の6D


と呼んでいます。多少無理やり感はありますが。笑


クロストリジウム・ディフィシル感染症は学生の頃であれば、偽膜性腸炎という言葉で習っていたかもしれません。しかし、偽膜性腸炎というのはクロストリジウム・ディフィシル感染症の重症型であり、初期には必ずしも偽膜を形成するわけではありません。
全ての抗菌薬使用がリスクになりますが、抗菌薬4日~最大3か月前の使用により発症したという報告がありますので、病歴聴取の際に注意が必要です。


褥瘡感染症は仙骨部に頻発するので患者さんに横を向いていただいて、ズボンを下ろして観察します。その他にも脛骨外踝や大腿骨にもできることが多いです。ただし、褥瘡があってもそれが発熱・炎症反応上昇の原因になっているかは、慎重な判断が必要です。褥瘡周囲の発赤・疼痛があり、膿汁が多量に分泌されていれば可能性が高いと考えています。


デバイス感染症は特に長期間留置されているデバイス;CVC/PICC/末梢Vライン、尿カテ、胃管/胃瘻、stoma、ドレナージチューブなどすべてで発症し得ます。褥瘡感染症の時にも触れましたが、周囲の発赤・疼痛がある場合にやはり可能性が高くなります。基本的には血流感染症をおこすのですが、長期留置された胃管の場合は副鼻腔炎や髄膜炎を、stoma感染であれば腹腔内感染症を起こしうるので、それを疑った病歴や身体所見に注意します。


結晶性関節炎は大きく分けて尿酸結晶が蓄積する痛風と、ピロリン酸カルシウムが蓄積するピロリン酸カルシウム結晶沈着症、いわゆる偽痛風があります。
両者ともに急性単関節炎を呈することが多いですが、時に急性多関節炎を呈することがあります。
痛風の場合、第1中足指節関節(MTP関節)に好発し、温かい環境から寒い環境になった場合に結晶が析出し、その結晶が好中球等に食べられ炎症を起こすと発作になります。なので夜中寝ている時に発作が起こることが多いです。
偽痛風の場合、膝関節以外に恥骨結合、および手の三角靱帯が好発部位です。その他に第2頸椎の歯特記周囲にも沈着することがあり、crown dens syndromeと呼ばれます。


深部静脈血栓症では片側下腿に急性から亜急性の経過で浮腫が出現したところで疑います。発熱のエピソードというより肺塞栓症のリスクとしてよく耳にすることがあります。
発熱に関してどの程度の深部静脈血栓が関与するのかという論文はありませんが、膝窩静脈以遠の静脈は深部静脈血栓の通常治療対象とはしません。


薬剤熱では、2-3週前までに開始された薬剤で発症することが多いですが、その他の薬剤の可能性を否定はできません。薬剤熱をおこす頻度の高い薬剤は抗菌薬です。
一般的には比較的元気・比較的徐脈・比較的CRPが低いということが言われますが、僕の中では比較的元気である印象が強いです。

※比較的徐脈とは?
厳密な定義はありません。基準も何個かあります。
僕の場合は発熱すると1度あたり約10回/分程度、脈拍数が上昇するのが普通ですが、それよりも明らかに遅い場合に比較的徐脈として考えます。ただし、普段から脈拍が遅い方やβ遮断薬を飲んでいる方、徐脈性不整脈の既往がある方などは脈拍数がアテなりませんので、注意しましょう。



院内発症の発熱原因6Dについてそれぞれの疾患のまとめを記述しましたが、いかがでしょうか?国家試験終了直後のみなさんにとっては、当たり前のことかもしれませんが、実臨床においてはこの当たり前を増やしていくということが大事です。

多くの先生がおっしゃっていますが、疾患のイメージを持つことが大事です。
それを、医学を知らない小学生に理解できるほどかみ砕いて説明ができるほど理解するといいでしょう。患者さんの病歴や身体診察から得られた情報を、様々な病気の疾患イメージとすり合わせるということを僕らは無意識にやっています。

しかし、似たような疾患イメージの病気も複数あります。それらを鑑別するために、似たような疾患イメージの病気群から、とある疾患Aは他のBやCにはないこんな所見がある、特徴的所見をみつけるということも診断学では大事なことです。


この疾患イメージのことをゲシュタルト

特徴的所見のことをデギュスタシオン

と表現されるご高名な先生もおられますし、皆さんご存知だと思います。


今回のケースを振り返りますと、ここまでの情報では患者さんは6Dのいずれの疾患イメージとも合致しないと思われます。


まとめ
Commonな一般細菌感染を考える前に非感染性疾患を含む6Dを除外する。



今回のnoteはここまでになります。いかがでしたでしょうか?
常識的なことを冗長に書いているだけと思われた方も、知らないことばっかりと思った方も、次回以降のnoteを楽しみにしていただければ幸いです。
次回以降は、僕の思考プロセスの③以降を詳しく解説したいと思います。


もし、何か質問があればお受けしてお答えしたいのですが、無料noteでそれをやるとコメント欄が大荒れするリスクが高いので、無料noteでのコメントには反応しないこととしています。予めご了承ください。
次回以降おそらく有料のものが増えると思いますが、有料noteを買っていただいた方のまじめな質問に対してはなるべく回答したいと思います。


次の原稿がいつ上げられるか分かりませんが、次の原稿が上がるまで
今回のnoteをしっかり読み返していただくと次回のnoteの理解が深まると思います。

それでは、また♪

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