幽霊の話

普通に才能がない。普通すぎて、何も面白くない。何も面白くないやつは何も面白くないから何も生まれない。何も生まれてこないから、何も面白くないまま死んでいく。わっはっは。普通に才能がない。才能がない。わっはっは(笑)。才能が。わっはっは(?)。ない。


「そんな痛いことしないで」夕方5時。空が真っ赤になる。誰も異変に気付かないで過ごしている。
「そんな痛いことしないで」学校からの帰り道、家族で食べる晩御飯の準備。
「そんな痛いことしないで」影が伸びていく。やらかしたことが明るみになる。
「そんな痛いことしないで」街灯が点く。故郷へ帰る電車はもう出発している。
「そんな痛いことしないで」許したはずのことに怒りを覚える。もう後戻りはできない。

やっぱり時間は夕方5時。半べそかいた少年が、友達を追いかけている。時計を持った少女は細い足で立っている。隣町から火事の煙。

「そこにいるの?」古い匂いのする民家に入ると聞こえてくる。なぜ彼はこの家に入ろうと思ったのか。この家の2階、階段を上がって2つ目の部屋は狭い。狭すぎて暗すぎる。

「ここにいるよ」彼はこの家にその部屋があることを知らない。居間に入ると畳の腐った匂い。なのに、低い木の机には湯気の立つ食事が3人分用意されている。戸に近いところから2つ目の膳に手をつける。味がない。湯気が立っているが、温度もない。
隣に、いる。ずっといる。

やっぱり時間は夕方5時。空は真っ赤。街も赤く、とにかく赤く染まる。民家の彼がどうなったのか、誰も知らない。みんなこの狭い街で起きた異変に気づかないで過ごしている。

母と子が手を繋いで歩いている。(どこを?)

「なんでカーテンが揺れているの?」
「風が吹いているから」
「なんでカタカタ音が鳴っているの?」
「風が吹いているから」
「なんで電話に出ないの?」
「風が吹いているから」
「なんで僕はここに入るの?」

「空が真っ赤だから」

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