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タクシー・8


   



さすがに粘着性の毛穴は僅かながら表現されていますが、本物を知る私は失敗作と云っておきましょう、オセンチックな作品はそう安易に出てくるものではありませんね」

「お二人とも講釈が誠に新内節めいた妄想で驚きました、〝利胆〟の集いでは恥知らずの上、分からず屋な想像の力を総動員し上手より誇らしくハレ舞台に登場した宍、臓腑の、ここでは炭ですが、その出自が抱える地理的条件からはじまる幾多のコンディッション、徒や疎かにできない食餌の献立、加えて教育係の一般教養、製鶏哲学、管理者、被管理者双方の嗜癖、性癖等の入念な事前点検、そのいずれに就いても常に逸る心を冷静に戒め、素直な反省を怠らず、しかのみならずうしまでふくめ、これらの調査結果を丁寧に再精査した上での最終判定を、お互い腹蔵なく提出し皆でその真偽、真価を審議に掛け、適、有価とあらば妬まず嫉まず喝采を送り、重大な瑕疵あらば切れ味シャープに指摘し、酒を呑まず、遊戯薬を喫まずに一人平静を保ち、暫しこれを忘れて呑気にしていてもなお気に食わないところは、手段を選ばず二度と再び立つを能わぬ幾らか手前まで攻撃する、これぞ我等が〝利胆〟比考するもの無き醍醐の味です、どんなトンマなお話、解説であれ出席者の共通認識という土台の上へこしらえた与太れでなければなりません、たとえこの認識が的の意義を知らない程大きく的外れであってもかまいません、内輪の共通認識は客観とは無関係です、つまり遍くそうだとされている、或いはされるであろう事である必要は全くありません、ここでは私ども三名の空中楼閣においてそうであれば、外から観察して作話症の集いでもいっこうかまいません、三名共に異存なく一点の曇りもない堅牢な基礎、土台をしっかり認識し、この認識方法はしっかりしていなくても宜しい、共同の認識自体幻想に頼んだものですからここは当然妄想でも結構ですが、しかし話はその上に建設可能な上物でなくてはいけません、つまりそれは信頼性の保証が全くない土台に自信を持って載せられる骨太な思い込みです、ところがこの段お二人は鶏の来し方行く末に情緒を奢り過ぎています、肉炭に表現される限りない豊饒の中でも個体の経験に由来する個性は素晴らしく多彩ですが、万難を排し〝利胆〟という、この幾多の不様な自慰行為の中でも胸を張って無謀無頼な道楽に、健常者には抗し難い圧倒的馬鹿らしさにも無頓着、どこ吹く風、蛙の面に寝小便なにする者ぞ、と邁進する私どもは本日の出し物、鶏炭が導くお話にどんなに激しく心を衝かれ突き動かされようとも、きっとヌートラルな足場から地平を沙汰せねばなりません、どれほど魅惑の大波が襲いかかろうとも、こねくりまわしたいほど愛らしい小波がにじり寄り絡み付こうとも、落っこちてはいけません、鶏に、炭に、惚れては駄目なのです、痺れるほど焦がれる出会いもありましょう、畜生めオレはもってかれちまったんだ、かまうもんか、共同幻想だとお、けっ上等だぜ、などと勢い任せな腹になる幕もありましょう、しかし猿股を脱ぐのだけは思いとどまるのです、親指をゴムに掛けたところで奥歯もすり潰れよと金剛力を頼み耐えにたえるのです、必用あらばダンダダンダと地団駄を踏み抜いてもよろしい、


つづく

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