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タクシー

19
宿泊していないホテルを三人の男達がチェックアウトするまでのしばしに命がけで繰り広げる雑談
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#連載中編小説

タクシー・1

「嶋田畜農養育園出身のマルキドホマレですね、徳川晩期、当時咎人から人気をとっていた風光明媚で米が佳く、つまりは酒がいい、女賊もいい、あの悪太郎どもが憧れた流刑島は中部の縊れお仕置き地区にほど近い括れ部落で発見された野生種が発端の栽培物で、只今小僧さん躙り込みと共に香る裏日本系の、若やいではいるがやや陰気に湿った軽い黒煙臭は、雌の幼鳥つむりに冠した黄なる硬きトサカが為、炭は左胸、右腿のどっちつかずです、実に分かりやすい、わたしこの桃源島で畜農の養育に服務する嶋田さんとは懇意でね

タクシー・9

  恥じる事はありません、元より〝利胆〟の徒たる者は標準型の唐変木ではなく、臆す、人の目、自分の目を気に病む、そんな感性を持たない進化の先頭を行く、或いは反対に脳に羞恥点を増設しようとするエヴォルションの手先、ダーウィンの犬たる進化ビールスを丈夫一式且つ機能不全の前頭葉と落ち着きのない小脳が阻止した、そのいずれかである筈の、いや非常に強力な筈の、否もっと絶対的な筈の超特級唐変木なのです、いいえこの際思い切って、おたんちんこなすびの佐渡おけさめ、と云い放ってしまいましょう、気

タクシー・10

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タクシー・11

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タクシー・12

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タクシー・13

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タクシー・14

「貴方、おしゃべりはハッキリしているが水と炭で相当お酔いになった、おっしゃる事の示す内容はわかりますがヘンです、象の金玉を見てカマキリの卵だと言いはっているのは理解出来ても中身はおかしいのです」 「ええ舌廻り部をはじめ、けっこうあちこちで営業中なんですが、また休む所は他の部との息も合わせずドンと無断で時節も弁えず一年中お盆休みをとって踊りに行くので脳のあっちだこっちだで空気が抜けたり水が漏れたり、かとおもえば熱をもって小さくウィーン・ンーンと唸っている所もある、口はつるつる

タクシ・15

  「しかしあなた大そう尻っ跳ねに入れ込みましたね、歳も忘れて馬っけまで出しそうな勢いですよ、いえ耳鼻科のお医者は呼ばなくて結構、肝に違いありません、丈夫を何乗もしたようなワタで、鶏とは考えられない大量のアルデヒドを化学処理した兵肝である事もその通り、正当な裁定です、しかし麦にここまでのアビリテはありません、あなたは少年時代、小学五年の時でしたかね、ビールのジンに危うく拐かされそうになった折に垣間見たでしょう魔力が忘れられずビールに肩入れし過ぎたようです、炭に触れた味蕾から

タクシー・16

                    丘を越え山は彼女を気づかい大回りに逆ハンを切り、下り坂はでんぐり返りながら二人して大笑いに笑い七日目に迷子になった、ちょうどいいやということで、まだパブロが十四ガラが七歳でしたが、あれっ云ってませんでしたか姪っ子の名前です、新月の晩だったので夫婦になり末永く、つつがなく、仲睦まじく暮らしたんです、それはいいとして二人に子があったかどうか、それからサルバ爺さんと従妹の間に実は子供があったのか、いや、やはりなかったのかということは史実には

タクシー・17

  知らねえよ馬鹿、味噌がすっかり出ちまう前に車を出せ、特級葡萄酒のどっさりあるうちへ付けろ、トンチキめ、ドライバいきなりオクターブ調子を上げると、へいただいま、よく手すりへつかまって下さいまし、オレの運転は奔馬のごとくゲートなんざ開く前にぶち破りますよ、とロケットスタトを決めたが四百m爆走し、七つ星割烹の前でシャシを残して丸ごとあと四百m先まで飛んでいく勢いで止まると、お待ち遠さま、速いでしょオレのドライビンと胸をはたいたが店は朝っぱらでやってない、十字パラノイド野郎朝飯を

タクシー・18

イカレた講釈に呆れて腐ってないかこの酒、大丈夫ちゃんといい具合に腐ってます、ご覧なさいまし皆さん滞りなく正常に酔っ払ってましょ、ぼっちゃんお目見えのため特別注文で抜いたこの'四十五年ものは腐り加減本日八月六日がオルガスモ、秋の野山を先取りした雁クビ逞しい何とか茸のヌアンスが香のサネだとか、さあご賞味あれ、あっそう、おまえ薬足りてんの、まったく破けた袋の知恵が多いと呑む前から口が酸っぱくなっちまうよ、どれどれ、おっ、なかなかうまく腐ってやがる、悪かねえよ、脂のりが中年太り直前っ

タクシー・19 最終回

  「息子はいいとして納品された戦車の中で酔いつぶれたぼっちゃん鶏の肝がこの皿にのった炭なんですね」 「貴方は勘がいい、正にその通り、はるばる来たぜキキギモ、といったところでしょうか」 「なるほどそれで鶏にもかかわらず発電所の御曹司であるぼっちゃんが酒をめぐる旅をしたことで何でもこの肝が特別の中でも特に別になったんですね」 「いえ普通の炭だと思いますが」 「ぼっちゃん鶏の酒行脚あれこれは当然この肝に反映しておる故のお話だとじっと我慢して聞いておりましたが」 「ええ